ジェネラリストのすすめ

この1年半の間、新サービスのリリースに向けてあらゆることをやってきました。もちろん協力してくれた素晴らしい仲間たちがいましたが、大半をひとりでユースケースを書き、コードを書き、インフラの設計と構築をし、マーケティングプランを考え、ユーザーインターフェイスのデザインをし、見込み顧客と話をし、テストをし、プレゼンやデモの練習をし、アイコンをつくり、写真を撮ってWebサイトをつくり、利用規約をつくり、法務的なチェックをし、販売管理をシステム化し、プロモーションを考え、そしてまたコードを書きました。わたしは今このときほど、自分がジェネラリストでよかったなと感じることはありません。

わたしはこれまでのキャリアの大半をプログラマーとして過ごしました。若いころは独学でプロトコルアナライザーを開発したりしていて、ネットワークエンジニアリングのスペシャリストになろうと思ったこともありました。

前職のサイボウズでは、フロントエンドにもデータベースにもネットワークにもそれぞれラボのメンバーはじめ、超一流のスペシャリストたちが顔を揃えていたので、コードを書く技術ではとてもかないません。そのために、総合的に製品をつくりあげる技術を磨くことにしました。もともといろんなことに首をつっこむのが好きな性分なので、海外拠点の立ち上げをしたり、UI/UXチームのマネージメントをしたり、営業に同行したり、シリコンバレーの企業とインテグレーションの開発をしたり。開発の責任者と話がしたいとうお客様のためにサポートの電話を取ったこともありました。ですからわたしは、プログラマーとしては決してスペシャリストとはいえなかったと思います(ただ誇りをもっていえるのは、わたしはずっと現役のプログラマーだったということです。PMをやっていたときでさえ、せっせと頼まれもしないものを勝手につくっていました。会社をやめたあともメンテナンスを続けているものもあります)。

優秀なジェネラリストを形にたとえると、六角形くらいのイメージになります(優秀なと書いたのは、単にできることがあまりないジェネラリストもいるためです)。バランスがよくて、だいたいいろんなところにはまります。そして彼らはたいてい悩みを抱えています。自分に強みがないという不安がありますし、たいていのことは普通の人よりうまくこなせるので会社なんかだと都合よく使われがちです。わたしの経験では、優秀なジェネラリストにはいい人が多いです(自分がそうだと言うつもりはありません)。六角形なので角があまりないからです。転職しようとしても、自分は何でもできますという人はネガティブな印象を持たれるかもしれません。最近の企業は特にスペシャリストを求める傾向が強いようです。

ジェネラリストの強みは、いろいろな視点でものごとが見えるということです。悪くいえば尖っていないということですが、もし疲弊しているジェネラリストの方がいたら、ぜひその尖っていない角でとりあえず、いいと思ったところを自分の手で掘ってみてほしいと思います。最初は角が荒い分、尖っている人よりもずっとうまく掘り進められるはずです。うまく金脈を掘り当てて、もっと深く掘りたくなったら、先の尖った人にお願いしましょう。できればクローバ PAGE を使ってなにかを始めていただけるともっと嬉しいです。逆にやってはいけないことは、他人の期待に応えようとして、なんでも引き受けてしまうことです。もちろん嫌なことはすべて断ればいいというわけではありません。他人のためになにかやるのは当然のこととして、引き受けたことに対して、一切の見返りを期待してはいけないということです。引き受けたことに対して共感して主体的に行動できるのであれば、見返りを期待することはありませんし、批判も気になりません。ジェネラリストの場合は特にチーム間の調整役を任されることが多いと思いますが、自分がやりたいわけではないことを調整して周囲から批判を受けることほど、やりきれないことはありません。主体的に行動できない依頼であれば、断ってよいとわたしは思います。本当に必要であれば、やりたい人がやるでしょう。わたしもどちらかというと何でも引き受けるタイプだったので、考え方を変えるにはずいぶんと時間がかかりました。どうせ特別秀でた能力がないのだからと卑屈になったこともありました。今なら胸を張って、自分はジェネラリストとして特別な仕事ができるといえます。そして、これからスペシャルなジェネラリストを目指す人が増えてくれればいいなと思います。

「ウェブ業界で起業したいならMarcoを目指そう」