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プログラマー人生20年のわたしがマーケティングをやってみたら

クローバ PAGE をリリースして3年経ちました。その前にサービスの開発には2年かかっていて、この期間は開発にどっぷり浸かっていました。正直いうとマーケティングのことはほとんど何も考えていませんでした。最高の製品を適切な値段で適切な商流にのせ、できるだけ多くの人に知ってもらう。コトラーが提唱したマーケティングとはそれくらいのものだと考えていました。それから販売を他の人に任せるという選択肢もありませんでした。このサービスのことを世界で一番良く知っていて、一番情熱を持っている人間はわたしだからです。ぜひ自分がという人がいたらお願いしていたかもしれませんがそういう人が現れなかったいうのもあります。幸いなことに、我々のサービスはリリース直後に様々なメディアに取り上げてもらいました。これで軌道に乗るのは間違いない。わたしはそう確信しました。

実は、取材を受けたにも関わらず掲載してくれなかったメディアが1社だけありました。主にスタートアップに関するニュースを扱うメディアだったのですが、記者の方からこれからの販売戦略について尋ねられたので、現時点でそういうのはなくて顧客の声を聞きながら考えると答えたのですが、あなたはマーケティングを甘く見過ぎているといわれてしまいました。販売をやってきた起業家は開発を甘く考え、開発をやってきた起業家は販売を甘く考えてしまうものだと。わたしとしてはそもそもここに来ているのがマーケティングの一環であって、まずは誰かに使ってみてもらわないことには販売戦略もないだろうと思っていたので、あまり気にしませんでした。今考えると、この記者のいうように考えが甘かったといわざるを得ません。

こちらはリリース後1ヶ月のアクセス数の推移です。

図1

メディアに掲載されたことによる効果があったのは最初の数日だけで、そのあとはアクセスが減ってゆき、ひと月後には散々なものになりました。当時はとにかく一人でも多くユーザー登録して利用してもらうことを最優先としていたので、トップページへのアクセス数と、コンバージョン率(サイトを訪れた人がユーザー登録してくれる割合)を指標として見ていました。だから正直売り上げはどうでも良かったのですが、利用者が増えないのは大問題です。そこでマーケティングをする人なら誰でも思いつくことをやりました。ネット広告と、賞品付きのキャンペーンです。

結果からいうと、どちらもほとんど効果はありませんでした。広告については、今はどこも、サイトへのアクセスがあってはじめて課金される仕組みになっています。コンバージョン目標をきちんと設定すれば例えば1ユーザー登録が1000円で達成されるように広告を運用することも可能です。なのでお金を支払えば、きちんとそれに見合ったアクセスとユーザー登録が見込まれます。ですが問題は、広告を見てサイトを訪れた人は本当の意味でサービスの利用者にはなりにくいということです。あるSNSに広告を出した時などは、アクセスのほとんどは東南アジアなどの海外からで、実際に利用してくれたユーザーはほとんどいませんでした。検索広告を出してスパムだけが急増したこともありました。キャンペーンについては、ページを公開しただけで8万円のドローンがもらえたにも関わらず応募が一件もありませんでした(今はもうやるつもりはありません😅)。

この時やった施策はどれも失敗でした。今振り返ってみると、ユーザーにサービスの価値がきちんと提供できていないのに、無理にユーザーを増やそうとしてもうまくいくはずがありません。特に広告については、広告にどれくらいお金をかけて良いかは、本来一人のユーザーを獲得するコスト(CACといいます)と、獲得したユーザーがもたらしてくれる収益(LTVといいます)によって決まります。ひとりのお客様がどれくらいお金を支払ってくれるかなど、この段階でわかるはずがありません。そういう意味でも、広告さえ出せば自然にユーザーが集まって収益が生まれると考えたのは完全に間違っていました。


無料でも人は来ない

そもそも、資金調達が前提のスタートアップと、うちのように資金調達をせず長期的にゆるやかな成長を目指すブートストラップとでは、取るべき戦略が全く違っていたのです。赤字おかまいなしで大規模な販促活動や無料キャンペーンを行い、一気にユーザーを獲得するのは資金に余裕のあるスタートアップ企業や大企業のやり方です。うちもリリース当初は無料できれいなホームページが作れることを売りにしていました。無料であれば勝手にたくさんホームページが増えるので、それらの検索性を高め、ホームページとユーザーの有機的なつながりを構築することでSNSのように価値が生まれると考えていました。ところが今はウェブサービスが飽和しているので、無料で使えるだけでは利用者を増やすことはできません。なので無料路線は縮小して、きちんとお客様の声を反映しつつ、お金をいただけるモデルに変更しました。具体的には有償プラン向けにSSL+独自ドメインが利用できるようにしたのと、無料でお使いいただいているサイトには広告を表示するようにしました。SEOの施策もずいぶんやりました。

やるべきだったのはマーケットとの適合

それから、やみくもに利用者を増やそうとするのはやめて、サービスを使ってくれているユーザーのところに出向いたり、イベントを開催したりして、なぜクローバ PAGE を使おうと思ったのか、どんなことに利用しているか、改善して欲しいことは何かなどをヒアリングしてまわりました。お問い合わせにも直接わたしが回答して、これは改善すべきだなと思ったらその日のうちに実装してリリースしたこともありました。わざわざお問い合わせをしてきたり、イベントでご要望を伝えてくださるのは、少しでもうちのサービスを気にかけてくださっていて、改善を期待されているからです。そういうお客様の声は貴重なもので、ひとつひとつの声の裏には、同じ要望を持っている何十人というユーザーがいます。そういう声に耳を傾けて改善していくことで、少しずつですがお客様に利用していただけるようになりました。

そんな折にいつだったか忘れたのですが、このスライドを読みました。恥ずかしいことに初期のプレスリリースや広告出稿の問題など、まさに自分が辿ってきた道そのものです。ここには、事業が成長するには前提としてPMF(プロダクト・マーケット・フィット。つまり十分な市場があって、かつ自分たちの製品やサービスが市場を満足させる状態にいること)が不可欠とあります。そしてそこに達するまでにやることは急速な成長ではなく、「最適化されていない」活動だと説明しています。わたしはこのスライドに書かれている内容にとても共感しました。そして巷にあるノウハウもののほとんどが、大企業の戦略もしくはPMFの後に行うべきものであることがわかりました。

わたしはずいぶん長い間エンジニアをやってきたので、マーケティングもエンジニアリングの延長でなんとかなると思っていたところがあります。だって書店や勉強会にいけばリーンやアジャイルやグロースハックがいかにすごいかについて、みんなが語ってるじゃないですか。ディープラーニングとビッグデータを駆使すれば理想的なお客さんが勝手に集まってくるはずじゃないですか。MVPとかいう未完成な試作品を作れば顧客のニーズを検証できるって書いてあるじゃないですか。それが本当だったら、どうしてこんなに失敗するスタートアップがあるんですか? どうしてAirbnbは創業者自らが掲載する部屋の写真を無料で撮影してあげる必要があったんでしょうか?

ここでわたしがこれまでの経験から学んだことをいくつかあげてみます。


未完成なものは誰も評価できない

「なぜうちの営業は完成してから売り方を考えようとするんだ! ずっと前から試作品を見せていたのに」会社勤めの頃はわたしも不思議に思っていました。試作品には誰しも妄想のような期待を抱きがちです。もし気に入ったという客がいたとしても、それを信じるのは早計です。できあがったものをみて彼は「あのボタンの形がいいと思ったんだ。これは僕の欲しいものじゃない」というかもしれません。

グロースハックの幻想を捨てる

グロースハックの教科書のようなものがあって、それを実践するだけで自動的に成長してくれるのならそんな楽な話はありません。もしあったとしたら、きっと世界はグロースハッカーたちが作ったひたすら画面を連打するだけのアプリで埋め尽くされてしまうでしょう。銀の弾丸はどこにもありません。

どんなマーケティングチャネルがあるか知っておいたほうがいい

使える武器は多いに越したことはありません。この本はスタートアップ系のものとしては珍しく人にオススメしています。バイラルマーケティングから、PR、SEO、コンテンツマーケティング、メールマーケティングなど19種類のマーケティングチャネルについて紹介されています。

顧客の声は直接聞いたほうがいい

イベントなどを開催して、顧客の声を直接聞いたほうがいい理由はいくつかあります。ひとつめは、直接聞いたほうが色々と教えてもらえることです。メールの問い合わせだけだと、「〇〇の機能はありませんか?」というような要望に終始してしまいがちです。機能というものは本来提供する側が考えるべきもので、顧客から引き出したいのはその背景にあるニーズです。「どうして〇〇の機能が欲しいと思ったのですが、もしかしてこういうことがしたいのではないですか?」みたいなコミュニケーションによって、新たなニーズに気づくことがあります。ふたつめは、直接お話しして、要望に応えることによって相手が自分のサービスのファンになってくれるかもしれないからです。ファンになってもらうことで継続して利用してもらえたり、他の人にも推薦してもらえるかもしれません。みっつめは、単純に大好きなお客様に直接会えるのは嬉しいということです。

ものを売る、営業するというのは、商売を行ううえでもっとも基本的なことだと思います。マーケティングは副業やフリーランスなど、個人が自立するためにも必須のスキルといえます。わたしも日々試行錯誤しながらやっていますが、こうするといいよ! とかあればぜひアドバイスいただけると嬉しいです。