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Fintech研究所 × Money Forward Lab ~社会をForwardする2つの研究組織~

マネーフォワードには、実は2つの研究所が存在します。
1つは、Fintechに関する調査研究やパブリック・アフェアーズ(以下「PA」)などの活動を通じて制度的改革を担うマネーフォワード Fintech研究所、もう1つはテクノロジーとデータの力でユーザーのお金にまつわる課題を解決する研究開発組織Money Forward Labです。

社内での役割は違えど、同じ「研究所」を冠する2つの組織 ー そこで、それぞれの所長を務める2人が、スタートアップが研究所を構えることの重要性、現在の取組や今後の展開などについて対談しました!

紹介

ー創業3年目で研究所を設立

北岸:「マネーフォワード Fintech研究所(以下「Fin研」)」は、マネーフォワードがまだ創業してから3年目という初期に設立しましたよね。こうしたスタートアップが研究所を立ち上げるのは、かなり珍しい事例だったと思います。どのような経営判断、目的でこの時期に設立することになったのでしょうか?

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:「Fintech」という言葉が定着した経緯からお話すると、2014年の後半くらいから、金融庁では「金融の技術革新」というテーマで日本の制度改革において何に取り組んでいくべきか、という議論は始まっていました。
ただ、当時はまだFintechやBigtechという言葉は使っておらず、その分野の有識者に話を聞く、という程度でした。

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その翌年くらいから、海外では「金融サービスにおいて真の利便性を提供できるのは、金融機関ではなくてIT企業ではないか」という期待から徐々に理解が広まり、その流れがFintechという概念の定着につながっていきました。

この頃マネーフォワードは創業3年目を迎えたあたりですが、こういったFintechに対する理解の広がりを自社としてもきちんと発信していきたいな、と思ってブログに書いていたんですね。そのブログを読んだ金融庁の方から問い合わせをいただいて、「あれ、これってニーズあるぞ」と思ったのがFin研設立のきっかけです。

金融庁メール

(金融庁の方から実際に届いたメール)

最初はFintechに関する研究や発信をすることが目的だったのですが、それより「Fintechをどう活用できるか知りたい」というお声を強く感じたので、多くの場でプレゼンするようにしていったという流れが、今のPA活動につながっています。

Fin研の立ち上げを提案したのは、代表の辻さんです。私はPAを担当したくてマネーフォワードにジョインしたわけではなかったので、3度断ったのですが、最終的に根負けしてFin研ができました(笑)

設立記念

(Fin研設立記念イベントの様子)

ただ、いま振り返ると、Fin研の活動を通じて、Fintechという言葉が広く認知されることや、社会の変革をもたらすために不可欠な世の中からのサポートの必要性などを全然見越してはいなかったので、試行錯誤しながらもそうした着眼点にたどり着けたのはすごく良いことだったと思います。
当時の辻さんは、正しい経営判断をされたなと今でも思っています。

瀧のPAの取組についてご紹介いただいた記事はこちら!

ースタートアップに必要不可欠なサイエンス

:「Money Forward Lab(以下「Lab」)」を設立したのは2019年3月でしたね。設立に至った経緯を改めて伺えればと思います。

北岸:私が入社する前の2018年3月頃から構想をお聞きしていました。実は、それよりもっと前からLabが必要だという議論はあったみたいですけど、人選の部分で難航していたと聞いています。

:そうですね、本当に人ドリブンだったという印象があります。当時「データを活用すればユーザーにもっと価値が還元できるような研究ができるよね」と話してはいましたが、リソースもなく、メンバーが業務を抱えながら片手間でやっても低レベルのものしかできないと分かっていたので、北岸さんが入社されるまでは本当に進まなかったですね。

北岸:当初「研究所を必要としている会社がある」ということでマネーフォワードの紹介を受けたのですが、きっとそれは「研究所」が必要なのではなく、「サイエンスを理解して高度に応用できたり、それをさらに深めていけたりする人材」が必要である、という風に受け止めましたね。
研究所を作ろうというのは象徴的で分かりやすいんですけど、研究組織っていうものは単なる「箱もの」なので、本質はそこにはないのではないかと解釈しました。

GoogleやFacebookの創業初期の特許を見ていると、ビジネスジャーナルを参照しているものが多いのですが、コンピュータサイエンス系の国際会議の論文を参照しているものもすごく多いんですよね。Techジャイアントのスタート期にサイエンスに深く依拠した開発が行われていたり、それができる人が中にいるということが透けて見えたりするので、やはりサイエンスというのはスタートアップにも必要不可欠なものなんだと信じていました。

Lab設立についてはこちらのnoteもぜひご覧ください!

-目指すはバックオフィスの自律化

:現在Labは何に注力しているのですか?

北岸:いまは「Autonomous BackOffice(自律化されたバックオフィス)」という世界の実現に向けて尽力しています。ざっくり言うと、経理・会計業務といった、いわゆる企業のバックオフィス業務を自動運転化していくことです。

例えば車。システムがドライバーの認知・判断・操作を機械が支援することで、「目的地まで、安心・安全・快適に移動したい」というより上位の意図や願望を実現することを目指していますよね。それと同じように、バックオフィスも自動運転化したい。そして、単なる自動化じゃなくて更にその先、「自律化」を目指したいと考えています。我々はこれを、「Autonomous BackOffice」と呼んでいます。

車の自動化レベルは0から5までの6段階のレベルに分かれています。今はレベル2とか3といったところだと思います。我々も同様に、バックオフィスの自律化レベルを定義して、各レベルで必要となる技術要件を明らかにしながら研究開発に取り組んでいます。ちなみにバックオフィスの自律化レベルは0から7までの8段階としています。

note向け素材 (1)

(バックオフィスの自動化・自律化レベル)

本来やるべきことを妨げる業務や作業を可能な限り自動化し、さらには機械が人の認知力や判断力を拡張したり、機械が自分の判断を言語的に説明できるようにしたりすることで、バックオフィス業務、さらには経営においても、認知・判断・操作を機械が徐々に代替したり支援したりして、「思い描いた経営を安心・安全・快適に実行したい」といった、より上位の意図や願望を実現することが究極のゴールです。
「会社が実現したい状態を入力すると、システムが自律性を発揮してそこまで連れて行ってくれる」そういうサービスを実現したいな、と考えています。

未来イメージ

(実現したい未来イメージ)

-アイディアの神様はお風呂とベッドに降りてくる

:ところで研究者とかシンクタンクの人って、よく外からは「格好いい」とか「楽しそう」とか思われがちなんですが、「知らないことに責任を持たなければならない」ということに関しては、とてもつらい仕事だと思っています。

北岸:そのとおりですね。「楽しそうだね」って周りからは言われるんですけどね(笑)

:座った仕事で楽ですね、とか(笑)

北岸:研究って、その成果がいつ出るのかなんてなかなか読めないんですよね。研究なので失敗することも当然ありますし。アイディアの神様が降りてくるのを待つのも苦しいですよね。

:アイディアの神様と言えば、私はお風呂が結構肝心で、お風呂に入っているときにアイディアが降ってくることがあるんですよ。ただ1つ問題があって、お風呂を出ると忘れちゃうんですよね。でも、スマホを持ち込んでいないとメモができないし。最近は、娘が遊んでいる、お風呂でお絵描きできるクレヨンを使っていて、これでイノベーションが訪れました(笑)

北岸:私は2~3日ひたすら読書をして情報を詰め込んだ後、何も考えずに24時間寝続けるとかいうことをよくやりますね。

:マシンラーニングみたいですね(笑)

北岸:そうすると、まだ数回しか経験できていないんですけど、寝てる間に整理されて、夢(?)でぼんやりとアイディアが見えてくることがあるんですよ。そして、目覚めてからすぐにPCに向かって、そのアイディアを書き出す感じです。「Autonomous BackOffice」のアイディアがそうでしたね。

ー社会にとっての善は無私でやる

:Labは実際にリサーチする業務ですが、Fin研は知見を共有することが多いなと思うんですよね。世の中のキーパーソンのなかで知見が共有されれば、物事が動くきっかけになります
ファクトに裏付けられた良いアイディアを共有することが一番のアウトプットであり、Fin研の仕事なんだと思っています。

何かを考えて人に伝えるということ自体は誰にでもできますし、自社サービスの売り込みのためにPAなどの活動をされている方もいますが、私はそれをやった瞬間に自分の心が研究から離れてしまうと思うんです。
だからこそ、私がFin研の活動で一番重視しているのは、マネーフォワードが大切にしているValueの1つである「フェアネス」なのだなと思いました。

PAにおいては、官公庁だといろいろな障壁が多くて実現が難しいことを、代理で実施したり、お膳立てをしたりします。そこに最適化したビジネスを作っていきたいですね。

例えばGPSを活用する際に、多額の利用料が必要だったら誰も手出しできないですが、GPSが普及したときには様々なコンテンツやサービスが売れるはずだから少しくらい高い利用料でも支払おうという発想で地図アプリを開発する、みたいな。社会にとって本当に善になることは無私で、私情を持ち込まないことが大事です。
一方で、その周りに生まれるであろう新しいビジネス機会のポールポジションには貪欲であることも重要だと思っています。社会の善になる部分をつくるときには「フェアネス」の観点で、それ以外の場所での実用化に向けた思考は、ユースケースを生む目線でもすごく大切だなと思っています。

北岸:私が大切にしていることはすごくシンプルで、「誠実に仕事をする」ということですね。マネーフォワードがユーザーからお預かりしているデータを「ディープデータ」と呼んでいるのですが、人ひとりに対して、あるいは一企業に対して、すごく深いところにあるデータを扱っています。そのため、使い方によってはユーザーにとってすごく「気持ち悪いもの(ユーザーの気分を害するもの)」になってしまうこともあり得ると考えています。
ですので、Labでは仮に自分のデータをこの研究に使われたとしても気持ち悪くないかどうか、という客観的な視点を常に持つ、ということを徹底して意識しています。

:法規制だけでなく企業倫理や社会的良識、社会規範なども問われる問題ですね。

北岸:そうですね。Labの研究は、利用者にとって利益がない、公益に資するものではないことはやるべきではない、ということは基本的なスタンスとして持っています。

-誇りを持てる研究組織へ

:最後に、今後実現したいことを教えてください。

北岸:マネーフォワードのMission/Visionに共感してくれるリサーチャーをどんどん増やしていきたいですね。社会に対して、見える形で訴求できる成果を増やしていって、「マネーフォワードにジョインすれば、科学的知見や既存技術を新しい問題に適用して、世の中の課題解決に貢献できる仕事ができるんだ」と思っていただける研究開発組織にしたいですね。
5年後にはそういった想いを持つ人たちが数十人いる、という状態になっていればいいなと思っています。

:私は、マネーフォワードの社員が、自分たちが取り組んでいることの社会的意義を、Fin研を通じて明確に感じることができる場でありたいといつも思っています。「マネーフォワードでものづくりに取り組んでいて本当によかったな」と思えるようなアクティビティに繋げていきたいですね。

もう一つは、制約のあるお金の世界において幸せを追求するという価値観の啓蒙を会社としてやっていきたいです。世の中に出回るお金も、自分たちが持っている予算も無尽蔵ではなく有限なものですので、その中で幸せを生み出す価値観について共感が得られるよう、大切に伝えていきたいですね。

瀧×北岸 Zoom


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