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アイデアの価値がゼロの世界- ユニクロのビジネスモデルの考察

堀江さんからすごくよく聞く言葉があります。「やればいいじゃん」です。ライブドア時代も、最近も、本当によく耳にします。僕が幻冬舎の営業局長と一緒にライブドアを初めて訪れたのが2005年2月のことなので、すでに10年以上この言葉を聞いていることになります。

「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」と言ったのはサントリーの創業者の鳥井信治郎さんです。「Just Do It」と言ったのはNike の創業者のフィル・ナイトさんですね。『インベスターZ』のベンチャー編にも堀江さんが登場し、「アイデア」の価値のなさ、「実行力」の重要性を説く場面があります。

三田紀房『インベスターZ』8巻

ファーストリテイリングの柳井正さんも、「実行力」の重要性についてこんなふうに書いています。

いい会社とそうでない会社は何が違うのか?それは「経営をやっているかどうか」だと僕は思います。では、経営とは何か。それは「実行すること」です。これ以外にない。経営者のなかには、経営を理論を学ぶことだと勘違いしている人たちが大勢います。そういう人たちは実際、経営をやっていない。

ラム・チャラン『徹底のリーダーシップ』ファーストリテイリング柳井正さんによる巻頭解説より

ユニクロは1984年(昭和59年)に広島に1号店を出店しました。Wikiによれば詳細は以下のようだったようです。

1984年(昭和59年)、父の後を受け小郡商事社長に就任。「ユニークな衣料 (clothes) 」ということで「ユニーク・クロージング・ウエアハウス(Unique Clothing Warehouse、略称ユニクロ)」と銘打って同年6月、まず広島市にその第一号店を開店。その後中国地方を中心に店舗を拡大していく。

Wikipedia 「柳井正」より

なぜ「実行力」の実例としてファーストリテイリングを挙げたかというと、1980年1月発行の『Popeye』に、ニューヨークのブロードウェイに「Unique Clothing Warehouse」という店が既に存在していたことが記事として載っていたからです。アメリカ版「ユニクロ」というか、こちらの方が本家なのでしょうか。

マガジンハウス『Popeye』1980年1月25日号

『Popeye』の記事によれば、1980年の7年前には店がオープンしたということなので、1973年にアメリカ版「ユニクロ」は開店していたことになります。さらに店舗のコンセプトは『Popeye』にこう書かれています。

ユニーク・クロージング・ウェアハウスの、なんといっても”ユニーク”なポイントは、ありふれた実用服を思いっ切りカラフルでファンシーにリメイクしてしまうこと。

マガジンハウス『Popeye』1980年1月25日号

日本版ユニクロのコンセプトは、「シンプルでベーシックなカジュアル服を自社で企画製造し、カラーとサイズを豊富に用意して、倉庫のような店内で売る」ということでした。「シンプルな既製服を後染めしてカラーバリエーションを増やし、倉庫のような店で売った」アメリカ版「ユニクロ」とも非常に近いと思いませんか。店名が一緒なのも驚きです。

同じプリントのTシャツのカラバリを陳列するアメリカ版「ユニクロ」(マガジンハウス『Popeye』1980年1月25日号)

2015年8月の決算でファーストリテイリング(日本版ユニクロ)は1兆円を超える売上に到達している一方、現在は影も形もないアメリカ版「ユニクロ」との差は、これを見る限り、「実行力」ということだったのではないでしょうか。

僕はファーストリテイリングの副社長だった澤田さんや社長だった玉塚さん、その他多くのファーストリテイリングのOBの方たちとお仕事する機会がありました。数千億の売上になってからも、柳井さんは単品の売上のエクセルデータをプリントアウトし、長い定規を当てながら、ひとつひとつの商品について議論をしていたそうです。

ファーストリテイリングの方々とお話すると、自分たちの仕事を「ビジネス」や「事業」などという言葉をあまり使わず、「商売」という言葉で表現することが多く、それが印象に残っています。そういうところに、虚飾をできるだけ排除して、「実行力」にフォーカスしていく柳井さんの考え方が表れている気がして、自分でも「商売」という言葉を使うようにしてみたりしました。

柳井さんが、この1980年の『Popeye』の記事をご存知だったかどうかは、僕にはわかりません。しかし、柳井さんがこのことを知っていようが、知っていまいが、関係ありません。同じような「商売」のアイデアを思いついても、その成否を決めるのが「実行力」だからです。

ふと気づくと、今日もTシャツ、ジーンズ、下着、くつしたはユニクロで買ったものです。うちのクローゼットはユニクロの「実行力」に侵食され続けています。

堀江さんが出てくる「やればいいだけ」の話は『インベスターZ』8巻で読めます。起業を目指してる方、新入社員の方々、特におすすめです。


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