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もっとも過激なオリンピック番組を見た

「僕のラストチャレンジ」ピョンチャン五輪出場を狙うスケルトン・笹原友希33歳。ソリ1枚、氷上の弾丸レースで、逆境から挑み続けた男に奇跡は起きるのか。半年間の記録ピョンチャン五輪で最もスリルのある種目といわれるスケルトン。1枚のソリに身を委ね、氷上を最高時速140キロで駆け抜ける究極の弾丸レースだ。「攻めの滑り」を信条とする笹原友希、33歳。前回ソチ五輪での惨敗から再起をかけ、ピョンチャンに挑む。肉体の衰え、新たなライバルの台頭、資金難など、次から次へと立ちはだかる壁。崖っぷちから挑み続けた男は、苦闘の果てに何をつかみ取ったのか。半年間の密着の記録。

NHKのドキュメンタリー班は過激だ。オリンピックの最中に、スケルトンで日本代表を狙う笹原選手の、半年間の記録を放送した。

笹原選手は、もともと長距離の陸上の選手で、スケルトンで必要とされるスタートダッシュ力が、ライバルに比べて低い。今までは、それをコースを攻略する知力・ソリのコントロールで補っていた。しかし、若手の台頭で平昌オリンピックの代表に選ばれるには、どうしても苦手なスタートダッシュを克服しなければならない状況に追い込まれていた。

笹原選手は、ソチ五輪での惨敗の後、企業の支援を得られなくなり、アルバイトをしながら地元の秋田で練習を続けていた。そこでは、恵まれない練習環境ながら、地元の子どもたちが応援してくれて、笹原選手も自作の練習用機器を使うなど、工夫して練習し、少しづつ苦手のスタートダッシュを克服する姿が描かれていた。

放送のクライマックスは選手選考も兼ねている、スケルトンの日本選手権。老朽化で休止が決まっている長野オリンピックのときの競技場「スパイラル」で行われた。この放送は平昌オリンピックが既に開幕している2月10日の深夜である。

僕は結果を見る前から軽い気持ちで、「笹原よかったな、努力は報われるものだよな」って感動する気マンマンでこの日本選手権の場面を見ていたのだが、衝撃的な場面が出現する。

笹原選手がスタートダッシュもうまくいかず、得意のソリコントロールもミスし、下位に沈んでしまったのだ。「えっ・・・」と無言で衝撃をうけている僕をよそに、あの緊張感ただようアスリートの魂のテーマ曲が流れ始める。

緊張感がクライマックスのなか、笹原選手が口を開く。

「これで引退します」

そしてあっという間のエンディング。笹原選手が平昌オリンピックに出場していて、スケルトンの予習番組として放映されていると甘い考えを持っていた僕は、衝撃でしばらく言葉を発することができなかった。

オリンピックは、こうした厳しい国内の選抜を勝ち抜き、国際試合で出場権を勝ち取った勝者どうしによる戦いである。そんなこと言われなくてもわかっていると思っていた。だけど、この番組をみるとほんとうの意味での「厳しさ」を僕はわかっていなかった、ということがわかった。

スポーツの凄さというのは「挫折の疑似体験」というところにあるのではないか。放送日も含めてNHKの英断に感謝したい。


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