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KADOLABO 001 Marginal


諸言

現在のクラフトビールシーンでは、Polyfunctional Thiol という香り化合物が注目されています。Polyfunctional Thiol は非常に香り閾値の低い成分であり、微量でも香りを感じることができます。特に 3MH、3MHA、4MMP といったフルーティなタイプの Polyfunctional Thiol は、ビールのフルーティさを 強化するために使用されます。Hazy IPA などのビールで、Polyfunctional Thiol の活用が注目されています。Polyfunctional Thiol は元々ワイン醸造で研究されており、酵母がブドウの成分を Polyfunctional Thiol へ と代謝することがあります。これにより、グレープフルーツやパッションフルーツのような香りを持つ特別 な白ワインが作られることがあります。しかし、ビールでは Polyfunctional Thiol にあまり注目されていま せんでした。近年、ゲノム編集技術を使って酵母に外来の特性を付加することが可能になったため、 Polyfunctional Thiol をビール醸造に活用する商品が商業的に提供されるようになりました。しかしながら、 日本では遺伝子組み換え酵母の使用が制限されているため、使用することが出来ません。今回のビールでは、Polyfunctional Thiol を高濃度で生産する方法と、サワーエールの要素を組み合わせ て、ビールとワインのハイブリッドを試みました。

方法

まず、⻨汁を Philly Sour 酵母で発酵させました。Philly Sour 酵母は通常のビール酵母とは異なり、Lachancea 属の酵母であり、大量の乳酸を生産する特徴があります。この酵母を使用することで、乳酸菌を 使わずにサワービールを醸造することができます。一次発酵後、⻨汁に白ブドウ果汁とワイン酵母を添加 し、再度発酵させました。ワイン酵母 Sauvy は、ビール酵母とは異なるキラー活性を持ち、Philly Sour 酵母を抑制し、発酵を行いま す。このキラー活性とは、他の酵母の成⻑を阻害する物質を分泌することにより、自身が優位な環境を作り 出す特性です。さらに、ワイン酵母 Sauvy は活性型の IRC7 遺伝子を持っており、Polyfunctional Thiol を 代謝する能力があります。これにより、⻨芽、ホップ、ブドウ果汁中の物質を分解し、Polyfunctional Thiol を生成します。特に 3MH を大きく生成し、グレープフルーツやグァバのような香りを付加します。約 2 週間かけて白ブドウ果汁の代謝を行った後、自然なホップのニュアンスを持つホップエキスで香り付 けし、ビールをパッケージングしました。使用したホップエキスは Spectrum と呼ばれるもので、Haas 社 が開発したドライホップ用のエキスです。植物由来の成分が抑えられているため、フルーティな味わいと よくマッチしました。

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