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KADOLABO 007 Mango Lassi Revenga


諸言

※今回は私的な語りが多く含まれます。
昨今のクラフトビールシーンで目を引く流れの一つは、ビールというキャンパスの上にビール以外のものを表現することであろう。具体的にはスイーツやペイストリーをイメージしたテイストのスタウトや、スパイスコーラをイメージしたスパイスビール、はたまたフルーツスムージーのようなサワーエールなどなどなど、醸造家たちの想像力は尽きない。そんな文脈の中で2020年に初めてビール醸造家となった私が着想したテーマはビールでビールでないものを表現することであり、すなわちマンゴーラッシーをビールで表現することだった。今回の007 Mango Lassi Revengaでは、その時の成功と失敗を踏まえ、ほとんど異なるアプローチでマンゴーラッシーを表現することのリベンジに取り組んだ。
マンゴーラッシーは、インドを中心に南アジアの地域で親しまれているヨーグルトをベースに作られるドリンク、ラッシーのマンゴー入りバージョンだ。爽やかな酸味と甘味が特徴的で、辛いスパイス料理のピッタリのお供になる。
当時スパイスカレーにハマり、毎日のように食べていた山宮は、カレーに合うビールを作りたいと思い立ち、カレーに合うマンゴーラッシーをイメージしたビール Mango Lassi Smoothieを作ることを決断した。
当時私が書いたレシピはSession Hazy IPAをベースにしていた。モルト化されていない小麦とオーツを多用しグルカンとタンパク質を多く付与し、クリーミさを構築するとともに、カルダモンを少量使用し、エスニックなニュアンスを加えた。このビールではマンゴーは使用していない。なぜならフルーツを使ってビールを作ることがダサいと思っていたからだ。私にはフルーツの使用に対して、ビールの醸造技術の低さをごまかすドーピング剤であるという偏見があった。フルーツビールで生食を上回る体験を与えてくれたものはごくわずかだった体験に基づくバイアスだった。マンゴーを使う代わりに、マンゴーらしいプロファイルを持つホップを組み合わせ、トロピカルなニュアンスを与えた。
Mango Lassi Smoothieの醸造から3年がたち、フルーツ入りのビールへのバイアスは弱まった。醸造経験から、フルーツの使用はビールの醸造技術の低さを誤魔化してくれず、むしろフルーツを生かすための配慮が必要であることがわかったからだ。生食を上回る食体験を与えてくれるフルーツビールにも多々出会い、刺激を受けた。
リベンジとなる今回の醸造ではFruited Sour IPAのアプローチを採用し、フルーツと発酵プロファイルを組み合わせ、マンゴーとヨーグルトのニュアンスを表現した。具体的にはLacancea Thermotolerance種の乳酸生成酵母Philly SourとISEKADOオリジナルの野生Saccharomyces Cerevisiae種酵母 Kadoya-1を共発酵させることで、バナナヨーグルトのようなキャラクターのサワーエールを生成し、マンゴーピューレを加えた。
フルーツらしさとは、フルーツのアロマのみに起因するわけではない。糖度やpHをはじめとしたテイストに関連するパラメーターも印象を大きく左右する。フルーツの果実よりもフルーツらしいキャラクターを作り出すことが今後の醸造技術目標の1つだ。

方法

醸造初日に発酵タンクに半量の小麦ベースの麦汁を仕込み、Lacancea Thermotolerance種の乳酸生成酵母Philly Sourをピッチした。
1日かけてサワリングを行ったのち、残り半量の分の小麦ベースの麦汁を加え、弊社固有の野生酵母Saccharomyces Cerevisiae Kadoya-1を加え、共発酵させた。
発酵4日目にMosaic T90ホップペレット、マンゴーピューレおよび湯に溶解させた乳糖を加え、発酵を継続した。
発酵完了後、コールドクラッシュし、澱引きをしたのちにパッケージングした。

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