【インタビュー】いつの時代も変わらない猫と人との関係…… コミック『猫語の教科書』刊行記念 漫画家:沙嶋カタナ インタビュー
KADOKAWAのビジネス編集部が「世界と日本の名作に出会う新しい機会」として刊行をスタートするKADOKAWA Masterpiece Comics。
その1作目となるのが7/20に刊行された『猫語の教科書』です。1964年の刊行から60年目を数える名著ですが、現代と全く変わらない、ネコに(幸せそうに)陥落されるヒトの姿に笑ってしまうこと間違いなし。一方で猫の口を通して著者のポール=ギャリコが語る人間は現代にも通じる悩みや迷いを多く抱えており、現代の作品と言われても何ら違和感はありません。
今回そんな『猫語の教科書』のコミカライズを手掛けたのは、漫画家の沙嶋カタナさん。『吾輩は猫であるが犬』などで、その猫描写に猫ファンから厚い信頼を得ています。 本記事では、刊行を記念して沙嶋カタナさんへのインタビューをお届けします。
――「猫語の教科書」発売おめでとうございます!
作品が発売された、今の気持ちをお聞かせいただけますか。
ありがとうございます!
実はオファーをいただいたのはかなり前になります。
新刊行されるシリーズ、しかも一作目ということで準備期間を多めにいただいており、最終話を描き終えたときは初めて「終わるのがこんなにも寂しい」と思うほど本当にじっくり作品と向き合う日々を過ごさせていただきました。
私の大部分の作業自体は数か月前に終わっており、時間が空いて落ち着いた気分でいたのですが、数日前に献本をいただきました。
それを見ていよいよ読者さんの目に触れるんだと実感し、原作ファンの方にも満足いただけるだろうか、原作未読の方に少しでも興味を持っていただけるだろうかと、試行錯誤した日々を思い出して急にソワソワしています。
あ~! 読者様にどうか楽しんでもらえますように! という気持ちでいっぱいです。
――原著「猫語の教科書」は1964年(60年前!)に出版された小説です。最初に、原作を読んだ時の印象をお聞かせください。
SNSが発達した現代では毎日なにかしら猫に支配された人々による「猫飼いあるある話」が拡散されよく見かけますが、60年前、しかも私たち日本人からすると遠い国の違う文化圏に住むポール・ギャリコ氏も同じ猫の手練手管を感じていたとは……。
「猫飼いあるある話」は時間軸も文化圏も飛び越えた世界共通認識なんだなと実感しました。
しかし何より、まんまとやられているだけの我々一般人とは違い(笑)、ポール・ギャリコ氏のその慧眼による分析と言語化で素晴らしい読みものとなっているのが世界で愛される名著たる所以なのだなと思いました。
――表情豊かで個性いっぱい、関わる人間たちをメロメロにしていく猫たちに魅了されました! 猫たちをマンガで表現される際に気をつけたポイントや難しかった点などありますでしょうか。
猫の作画はあまりファンタジーになりすぎないように、実際の猫がしない仕草はできるだけ描かないようにしています。
でも今回は猫同士で会話をするシーンが多く、どうしても口を開いた動きを描写せざるを得なかったのです。
現実の猫たちって集団でいると、ニャーと口を開かずとも見つめ合って意思の疎通してる感じがありますよね。
そこもリアルに表現できればよかったのですが……。
なにせ原作にもある言葉通り、私たち人間は「猫を擬人化して見ている」ので、漫画にすると口を閉じたままでの会話シーンは違和感が出てしまうので……今回は「擬人化目線」ということでお目こぼしいただければ助かります(笑)。
――2話目の「人間の家を乗っ取る方法」では、猫嫌いの男性が猫の手管でどんどん猫好きになっていく様が描かれていて“猫最強!”と思いました(笑)。ここで描きたかった、というポイントや伝えたいこと、また執筆時に注力したことなどを教えてください。
原作でもかなり爽快にテンポよく猫嫌い男性が落とされていくのが小気味の良い章なので、そのテンポの良さを失わないように注力しました。
原作でのこの章は、特に男性の変化の描写が巧みで目に浮かぶシーンが多く、折角今回漫画で絵で見せられるので、猫嫌いの男性がデレた時以降の表情の変化も気合いを入れて描きました。
――猫からみた人間は、ときに外側からみた自分の姿ということにもつながり、立ち止まって自分を俯瞰する機会にもなりそうです。本書に登場する人間たちは、猫(外)から見ると様々な悩みや弱さを抱えており、その人の弱さを猫が支えてくれているという構図にグッときました。本作の人間の登場人物たちについて、沙嶋さんの思いをお聞かせください(キャラクターを限定していただいても、総括でも大丈夫です)。
今回のツィツァの家族以外の人間たちは、漫画で表現しやすくするために作った、原作には登場しないコミカライズ用のオリジナルキャラです。
といっても原作の「人間ってどういう生き物?」の章に出てくるツィツァの色々な人間に対する鋭い人間観察の言葉をヒントに創作しています。
実はお恥ずかしい話なのですが、ツィツァが人間を利用するためにつぶさに観察し、そのだらしなく弱い本質を見抜いているのに、それでも自分の家族を愛していると言ってくれる原作の「愛について」の章を初めて読んだとき、私は号泣してしまいました。
そのためコミカライズのクライマックスはここにしようと決め、「愛について」の章を引き立てられるように、そこまではある程度軽快に読み進められるようオリジナルキャラクターたちの性格は基本的に善人寄りにしつつも、原作でツィツァが見抜いた人間の傲慢な部分をそれぞれのキャラクターに散りばめて設定しました。
弱く完璧でない何かが欠けた人間でも、真摯に愛せば猫は愛してくれることもある、ということ表現したかったので。
――沙嶋さんの前作「吾輩は猫であるが犬」はもちろん、その他作品にも登場する猫の描写に愛を感じております……! 沙嶋さんご自身も猫を飼われており、他の動物と比べて身近な愛すべき存在かと思うのですが、ご自身が猫に支配(!)されたエピソードなどありましたらお教えいただけますか。
実は子供の頃は犬猫は嫌いではないですが今ほど興味を持っておらず、どちらかというと特別に鳥が好きで……。犬派か猫派か聞かれると「鳥派」と答えてたぐらいでした。
それがいつの間にか色んな事情で犬も猫も一緒に暮らすことになったのですが、そこから特に猫は凄かったですね……。
何がって、1匹目を拾ったあとは目には見えない不思議な猫業者に「猫可」物件として登録されてしまったのでは?と思うほど、定期的に子猫を拾うようになり……。
看病や貰い手探しの苦労もなんのそのと感じるぐらい、いつの間にかすっかり猫派にさせられてしまいました。
しかも今現在、猫と暮らした経験をもとにこうやって猫が題材の漫画をご依頼いただくようになっていることを考えると、仕事でも猫に食わせてもらっていると言っては過言ではなくなってしまい、もう猫に頭があがらないですね……(笑)。
まごうことなくこれは猫による支配だと感じています。
――この作品は名作をコミカライズ刊行していく「KADOKAWA Masterpiece Comics」の1作目として刊行されました。こちらの(レーベル)に関する印象などございましたらお教えいただけますか。
もともとビジネス書や古典、歴史関係の本をコミカライズしたものが好きでよく読んでいました。
少し難しそうでハードルが高いもの、自分が興味のなかった分野への取っ掛かりになることがコミカライズというものの力だと思っています。
「KADOKAWA Masterpiece Comics」で既に発表されているタイトルは今までにコミカライズされたことのない作品も多く、ジャンルを問わない世界の名著が読めるということで、読者の皆様の新しい興味への扉を開くきっかけになるのではと、とても期待しています。
いち読者としても非常に魅力的で、今後が本当に楽しみです!
――最後に……「本作のここを読んで欲しい」など、読者の方へのアピールポイントがありましたら、ぜひ教えてください!
まずは原作の描きたい部分が多すぎて、担当さんに無理を通してもらって限界まで増やしていただいたページ数、そのボリューム感でしょうか。
多分通常の漫画単行本の2冊分近くあるので読み応えたっぷりでお得かと思います!
しかしそれでも単巻コミカライズという仕様上、泣く泣くカットしたシーンも多く……。
もし今回のコミカライズをお気に召されましたら、どうか素晴らしい原作も手に取って読んでいただきたいです!
書籍紹介
プロフィール
沙嶋カタナ(さじま・かたな)
漫画家。主な作品『咲くは江戸にもその素質』(comico)、『君がどこでも恋は恋』『となりの秋とは関わらない』『吾輩は猫であるが犬』(祥伝社)など。