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男女共同参画白書から「結婚」を考える(1)

 令和4年6月14日に「令和4年版男女共同参画白書」が閣議決定され、「20代男性の約4割にデート経験がない」ことが報道で大きく取り上げられ話題となりました。そこで、ここでは、この白書の内容を踏まえつつ、「結婚」について考えてみたいと思います。

1.白書で伝えたかったメッセージは?

 この白書でのデート経験の結果に関する、野田聖子男女共同参画担当大臣の発言として、以下のような発言が記事に紹介されました。

「最近の20代男性には自分だけで過ごせるような多様なツール、たとえばネットなどが増えてきたこともあると思う」
「一昔前、私たちの時代には対面で会っていないとなんとなく後ろめたいところもあった。しかし、今はむしろオンラインでつながっていくことが主流になっている。対面に代替できるものを提供していく、使いやすくすることを応援したい」

 この発言だけをみると、若者たちの恋愛や結婚を支援・促進していく必要性を認識しているように思えますが、男女共同参画白書をよく読むと、本質はそこではないことがわかります。

 白書の主張を要約すると、昭和の時代に一般的であった「夫が外で仕事、専業主婦の妻が家事・育児」といった性別役割分業にもとづく世帯や家族のあり方が時代の変化とともに多様化し、こうした家庭をもつことが実現できない人々が増えているなかで、制度の面でも意識の面でも変化が求められること、特に、女性の経済的自立とそのための環境整備が重要であることを指摘しています。

 このこと自体は、ずいぶん前から、社会学者を中心として指摘されてきたことであり、さらにさかのぼれば、女性の経済的自立については、日本では1900年代半ばにおけるフェミニズム運動のなかで叫ばれてきたことでもあります。
 このため、特に目新しい議論ではありませんが、多くの客観的なデータを改めて示しながら、このことを政府の報告書のなかで大きくとりあげたことに意義(意味)があると考えます。

2.若者での結婚願望の低下?

 白書の内容に関して、デートの経験率の低さに加えて、若い世代での結婚願望が低下していることも、大きくとりあげられました。
 「結婚の意思あり」の割合をみると、20~30代男女の5割~6割程度しか結婚願望がないことが示されています(図1)。

図1

 この点に関して、男女共同参画白書と同日に閣議決定された「令和4年版少子化社会対策白書」では、少し異なる傾向が示されています。
 国立社会保障・人口問題研究所による調査結果を引用し、「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者(18~34歳)の割合は男女とも約9割(2015年調査)となっており、若干の低下はあるものの、ここ30年間高い水準を維持していることを説明しています(図2)。

図2

 さらには、コロナ禍において、20~30代の結婚への関心は、約6割が変わらないばかりか、3割以上に関心の高まりがみられるという追加の調査結果も示しています。その上で、結婚を希望する人への支援の必要性などに言及しています。
 男女共同参画担当と少子化対策担当の大臣は同じであるため、冒頭の大臣の結婚支援に関する発言は、おそらく少子化社会対策白書の内容も踏まえての発言であったように思われます。

 このように、ややちぐはぐに見える調査結果はなぜ生じているのでしょうか。この点を確認するため、国立社会保障・人口問題研究所の調査結果を詳しくみてみます。
 まず、この調査の選択肢が「いずれ結婚するつもり」と「一生結婚するつもりはない」の2択になっており、回答者は少しでも結婚の可能性があれば、「いずれ結婚するつもり」を選んでいると思われます。さらに、「いずれ結婚するつもり」と回答した者に対しては、追加質問により、「ある程度の年齢までには結婚するつもり」か「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」か、を聞いています。この結果は、おおよそ男女とも前者が6割、後者が4割との結果になっており、この割合については、これまでやや変動がみられますが、30年前も、前者6割程度、後者4割程度となっています(図3)。

図3

 つまり、強い意思をもって結婚したいと考えている人たちは全体としてみたら約5~6割しかいないということになり、これは男女共同参画白書の内容とほぼ同じような結果と言えそうです。加えて、こうした傾向が、ここ最近はじまった傾向ではないこともわかります。
 男女共同参画白書の調査では、「どちらでもない」と回答している人が男女とも約2~3割いますが、おそらくこの人たちも、「結婚しない」という強い意思をもっているわけではなく、理想的な相手と出会えるのであれば結婚するという考えをもっている人たちだと思われます。

 他方で、50歳時点の未婚率については、男性は1.7%(1970年)から28.3%(2020年)、女性も3.3%(1970年)から17.8%(2020年)へ大きく上昇しています。
 結婚の意思に大きな変化がないことを踏まえると、こうした未婚率の上昇から、希望しても結婚できない人、理想的な相手に出会えない人が増えていることがあらためて理解できます。
(→(2)につづく)


【引用・参考文献】
国立社会保障・人口問題研究所(2017)『第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)』
内閣府ホームページ『野田内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和4年6月14日』(2022年7月5日最終アクセス)
内閣府(2022)『令和4年版男女共同参画白書』
内閣府(2022)『令和3年度少子化の状況及び少子化への対処施策の概況(令和4年版少子化社会対策白書)』

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