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男女共同参画白書から「結婚」を考える(3)

1.結婚相手に求めるものは?

 (2)では、結婚の変遷を簡単に確認しましたが、未婚者が増加する現代では、人生において結婚が必須のものではなくなっています。一方で、白書の最後のまとめでは、「結婚を希望する人ができる社会」の実現について言及しています。
 それでは、どのような人との結婚を希望しているのでしょうか。この点、結婚相手に求めるものについて、内閣府の調査によると、「価値観が近い」「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」「一緒にいて楽しい」といった情緒的・心理的な安定を求める項目が男女とも5~7割と高い割合となっています。
 これに次いで、20~30代の女性では「経済力・年収」(32.6%)が高く男性では「容姿・ルックス」(25.4%)が高くなっています。恋愛感情(女27.9%、男23.7)よりも、男性に経済力、女性に容姿を求める割合が高いことが興味深いですが、さらに、男性に「家事力」を求める女性が27.8%と比較的高い割合を占めていることも特筆すべき点であり、男性には、「稼ぎ手」としての役割に加えて「家事」の役割も求められる時代になったと言えます(図1)。

 この点については、同様の調査をしている国立社会保障・人口問題研究所の調査結果(2015年調査)からも明らかであり、女性の96%が、結婚相手に求める条件として「家事・育児の能力」を考慮・重視するとしています。
 なお、同調査では、女性が結婚相手に「容姿」を求める割合は、68%(1992)から78%(2015)へと上昇しており、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合も27%(1992)から42%(2015)と上昇しています(図2)。
 これらを踏まえると、男性も女性も、徐々に、「経済力」「家事・育児」「容姿」が求められるような時代になってきているのかもしれません。
 そして、このことは、恋愛・結婚において理想の相手とのマッチングがますます難しい状況になってきていると言えるのではないでしょうか。

2.ジェンダー規範へのとらわれ

 さらに、この社会は、まだまだ「男らしさ」「女らしさ」というジェンダー規範に縛られている社会でもあります。
 例えば、経済的な面では、「男性が女性より多くを稼ぐ」ことが男女双方の意識のなかに根強く残っていることが内閣府の調査結果からもうかがえます。そうすると、女性の経済的自立が進み、収入が上昇したとして、女性が自分より低い収入の男性との結婚を受容するのか、逆に男性は自分より収入が高い女性との結婚を受容するのかという疑問も生じます。
 女性の経済的な自立とあわせて、こうした意識・規範が変わらなければ、結婚したくてもできない社会は変わらないばかりか、ますます困難な社会になるでしょう。

3.「純粋な関係性」へ

 それとも、女性の経済的な自立の促進は、女性にとって結婚に経済面を求める必要がなくなり、結婚そのものが減っていくのでしょうか。
 今後、もし制度面でも結婚に対する優遇がなくなり、「世帯」から「個人」をベースとした制度設計になれば、さらに結婚することによるメリットはなくなります
 経済面のほか、結婚のメリットとされている情緒的な安定についても、結婚という形ではなく、単に相手と一緒に生活することで満たすことはできますし、それは必ずしも異性でなければいけないものでもありません。
 さらには、結婚により得られるものは、家族以外の親密な関係、外的なサービス、地域のコミュニティなどにより満たされ、代替できる可能性もあります。
 こうして考えてみると、結婚することの意味は、公的な「愛の証明」でしかなくなるのかもしれません。
 実際、日本と比べて経済的に女性が自立し、同棲や婚外子が多い欧米諸国では、経済的な側面や子どもを持つことではなく、恋愛感情だけに基づき結婚を選択するような形になりつつあります。逆に、愛情がなくなれば、日本のように世間体にとらわれることもなく、容易に離婚になりえる社会でもあります。
 イギリスの社会学者のアンソニー・ギデンスは、社会的・経済的生活の外的諸条件に依存せず、当事者の自発的な意思によって結ばれ、その関係が満足を与える限り続けられる関係を「純粋な関係性」と呼んでいます。
 日本の結婚も、「純粋な関係性」に近づいていくのでしょうか。

4.社会規範や世間体の呪縛

 地震や津波による大規模災害が起きても無法状態とならず、冷静さを保ち整然と並ぶ日本人の姿は国際的にも称賛されましたし、コロナ禍での外出自粛やマスクの定着などをみても日本人の規律正しい傾向はうかがえます。
 一方で、日々の生活の様々な場面で、慣習や伝統などの社会規範、世間体にしばられる傾向が強いとも言えます。
 それは、結婚、出産、離婚など家族にかかわる考え方や行動も例外ではありません。性別や年代によって考え方や意識のギャップが生じてはいますが、「結婚して一人前」、「子供をもって一人前」、「男性が外で働き、女性が家事」、「女性は出産後は仕事を辞めるべき」、「男性は収入がなければ結婚すべきではない」などといった考え方をもつ人たちはまだ根強く残っていることが白書のなかでも示されています。
 また、日本の育児休業制度は、国際的には、男性の育休期間が長いことが特に評価されており、ユニセフによるランキング(2021年)では日本の育休制度は41カ国中1位となっています。その一方で、実際の男性の育休取得率は、近年上昇傾向にあるものの、まだ1割程度(2021年度12.65%)にとどまっており、諸外国と比べても極めて低い状況にあります。制度が変わったとしても、職場内の風土や雰囲気、上司・同僚の意識など、規範や世間体も変わらなければ日本人の行動はなかなか変われないのです。
 そうした規範に従うこと、「世間」に同調することで安心感や自己肯定感を得ている部分もあるかもしれません。
 もちろん、先に触れたように、多くの場合は、社会規範に従うことは秩序を保つ上では必要であり、社会的な利益をもたらすものです。その一方で、個々人の気持ちや行動を不本意に制限し、望ましい方向への社会の変化を阻害する側面もあるのではないでしょうか。
 さらには、マイノリティに対する抑圧、排除や差別、偏見をうみ、生きづらさを生じさせてしまうことにもつながります。
 
 結婚に求めるものは、情緒的な安定に加え、経済的な側面や家事・育児などの生活の安定のため、愛する人といたいためなど、多様な考え方や価値観があると思いますが、結婚は必ずしもそれを永久に保証するものではなく、多くの場合、結婚でしか得られないものでもありません
 結婚が必ずしも必要ではない社会になっていく中で、なぜ結婚するのか、社会規範や世間体にとらわれず、「結婚」の意味を改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか。
 
 白書の最後には、「誰ひとり取り残さない社会の実現を目指す」として締めくくられていますが、その人の属性や置かれた状況にかかわらず、また失敗があっても、皆が希望をもって生きていける社会、そして、真に望む生き方ができる制度や仕組みになっていくことが望まれます。
 このようななか、人生100年時代において、「結婚」という制度は、人々が実現したいライフスタイルやライフコースを支える仕組みになっているでしょうか。
 制度は、それに縛られて生きるもののではなく、その必要性や生き方に合わせて形作っていくものです。
 今後、「結婚」がどのような位置づけとなっていくのか、一人ひとりの意識と行動の変化がその鍵を握っています。
(おわり)

【引用・参考文献】
国立社会保障・人口問題研究所(2017)『第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)』
筒井淳也(2016)『結婚と家族のこれから』光文社
内閣府(2022)『令和4年版男女共同参画白書』
山田昌弘(2019)『結婚不要社会』朝日新聞出版
ユニセフホームページ(2021年6月18日)『子育て支援策新報告書 先進国の育休、保育政策等をランキング 日本は育休1位、保育の質や料金では中位』(最終アクセス日:2022年7月7日)


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