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医学生主催の長期的なフィールドワーク×コンペティションの限界とその先(前半)

去年の今頃に「大阪万博に徳島からパビリオンを出すとしたら何ができるか」という問いを県庁に勤める友人から投げかけられた。

徳島のことをわりかし知っている人間であると自負していた私はその時に何も答えられなかった自分が情けなく、考え抜いた挙句に循環型社会を作るために中高生を巻き込んだ「長期的なフィールドワーク×コンペティション」の開催が徳島になくてはならないと思い込むようになった。

徳島だけではなく、全国の地方が抱える問題は、少子高齢化による人口減少とそれに付随する後継者不足である。そして、未だ後継者不足に対して明確な対策は得られていない。

人口減少に触れないのは、徳島では一地域である神山から2007年に「創造的過疎」という概念が作られ一定の方向性が決まったからだ。これは漫然と人口増加を目指すのではなく、過疎を受け入れ、若者とクリエイティブ人材の誘致により”場としての価値”を高めるという戦略だ。正直どうあがいても人口減少は止められないのだから、空虚な催しを企画するより、よっぽど期待値が高い。神山では、「町全体が一つの学校、町民全員が先生」をコンセプトに据えた『神山まるごと高専』と呼ばれる学校設立プロジェクトが進んでいたり、世界一美しいコンビニ『未来コンビニ』が木頭村にあったり、ゴミゼロの町を唱える上勝町には世界のモデルにもなっているゴミ処理場『ゼロウェイストセンター』が建てられた。聞いてるだけでワクワクしてこないだろうか。実際この建物や場所のおかげで交通の便が非常に悪い場所にあるにもかかわらず神山、上勝、木頭などは訪問者数あるいは移住者が増えた。

しかし、この最先端で魅力的な場所の維持にも人の手は必要になってくるし、これが誰にも継承されないと結局、点は点のまま忘れられてしまう。徳島に住む身としてはこの点を線や面にし、有機的なつながりを産むため次につながる仕組みづくりを作りたいと考えていた。その仕組みができれば後継者不足の解決につながり、全国の地方の課題解決に結びつく。では、後継者不足は何が原因で起こるのだろうか。

私は「人間関係の希薄さ」がその最も大きな要因だろうと考える。

inochi Gakusei Innovators’ Program(通称 i-GIP)は中高生と大学生が二人三脚となって社会のヘルスケア課題に取り組むプログラムである。社会のヘルスケア課題に向き合うためには「当事者との対話」が必要不可欠であり、それ抜きには私たちは解決策を考えるどころか、課題にすら近づくことができない。

そして、この当事者との対話こそが学生と社会とをつなぐ架け橋となり、0だった人間関係に有を生み出す。まさに希薄化する大人と若者の間の溝を埋めるためにふさわしい、後継者問題を解決するためにあるようなプログラムである。

早速社会のヘルスケア課題を定め徳島に導入することとした。

定めたテーマは「産後うつ」

子育て支援に興味のあった私が取り組みたかった問題であり、一人の力では全くどうにもならない強大な敵である。

産後うつとはこのコロナパンデミックで1歳未満の赤ちゃんを持つお母さんのうち、四人に一人が罹患していると言われる今最も取り沙汰されている妊産婦のメンタルヘルスである。単純に「産後のメンタルブレイク」のことだが、マタニティーブルーと違い、長期化し、放置されると「自殺」「心中」「お父さんとの関係性の破綻」など家族の絆形成に大きな影響を及ぼす。

核家族化や一人っ子が増えてきた私たち現代の若者はとにかく子育てに触れる機会が少ない。その機会の貧困が産後のメンタルブレイクにつながり、その次の世代へと負のスパイラルを巻き起こしてしまう。どこかで、誰かが変えないといけない。

誰が?

もちろん私たちが。

そして、見えてきた課題は、孤立した子育てである「孤育て」の解消。孤立を感じるお母さんはソーシャルサポート数、つまり社会的支援の数が圧倒的に少ないと感じるらしい。

というわけで。この1年間の私たちのミッションは「お母さんの感じるソーシャルサポート数をいかに増やすのか」に設定された。

そして2021年11月3日(良いお産の日)に長期的なフィールドワーク×コンペティションの最終発表会を行い、10のチームの中から最も適切だと思われるアイデアが決定し、2021年11月21日、全国フォーラムにて2000人に私たちの想いとともにその高校生達の解決策が届けられた。

目論見通り社会に大きなインパクトを与える、「社会実装」を見据えた多くの解決策が生み出され、若者と社会とのつながり創造に成功したわけである。

来年以降も続くことで循環する仕組みが定着し、最初に問いたように後継者不足の問題解決のため人間関係が密なものになれば良いと思う。

が、現実はそう簡単ではなかったのである。(後半に続く)


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