【新刊案内】大学院生あるあるコミック『博論日記』
編集部の大澤です。
発売からしばらく経ってしまいましたが(2020年4月発売)、SNSを中心に悲痛な(?)感想が殺到している『博論日記』(ティファンヌ・リヴィエール・著/中條千晴・訳)についてご紹介したいと思います。フランスの漫画(バンドデシネ)の邦訳版です。
主人公ジャンヌ(32歳)が、念願かなって博士課程でカフカ研究をすることになったシーンから始まります。大学からのメールをよく読むと奨学金はナシ。しかし進学の嬉しさと膨らみまくる夢と希望から、ジャンヌは気にしていないようです。
●大学院生「あるある」?
ジャンヌは意気揚々と院生生活を開始するものの、サラブレッド金持ち同期には馬鹿にされ、憧れの指導教官はいかに「指導しないか」に汲々としており、非常勤講師の仕事では完全に専門外の分野を教えねばならず、あげく給料も入ってきません。
ジャンヌの指導教官。卑劣です。(137頁)
家族には「まだ博論書いてるの?」「それなんの役に立つの?」と言われ、友人らが結婚、子育て、マイホーム購入、と着々とライフステージを進めるなか、ジャンヌはついに恋人にフられます。
「いっぱしの大人」感をガンガン匂わせてくる同級生。(159頁)
フランスではもちろん、ドイツやイタリア、アメリカやアラビア諸国でも人気の本書、院生を取り巻く絶望的な環境は世界共通なのだと痛感させられます。個人的名シーンはこちら。
エントリーシート地獄。(74頁)
非常勤講師の仕事では給料がもらえないと発覚したジャンヌが、手あたり次第に職探しをするシーンです。高尚な仕事を夢見ていたジャンヌですが、もはやどうでもよくなっています。
このほか「有能な」研究者を欲しがる大臣が文系研究への助成を打ち切ろうとする場面も出てきたりと、研究者生活を一度でも送ったことがある方、あるいは身近に思い当たる人間がいる方にとっては「わかりみwwww」な院生あるあるが詰め込まれた一冊です。
同一人物…? な、ジャンヌの博士課程5年間の記録。(152頁)
●目から鱗な訳者解説
そう、私、最初に『博論日記』を読んだ時、完全に「あるあるコメディ」だと思っていたんです。それとして成り立っていて、非常に面白いので。
しかし繰り返し内容に触れ、全体の構造を眺めるうちに、「え、待ってこれめっちゃ深くない? (語彙)」という領域に突入。
その後、訳者の中條千晴さんから送られてきた訳者解説文は、私の「(語彙)」の部分が220%の再現率で言語化されておりました(つまり私は大半を理解できていなかった)。『博論日記』、ただの「あるあるコメディ」ではありません。
解説文を読んで泣き笑い、興奮のうちに最初から一気に読み直しです。ついでにいくつかカフカ作品を購入しました。
著者のティファンヌ・リヴィエールさんもまた、博士課程に身を置く一人でした(研究の傍らマンガを描く生活でした)。同じくフランスで博士号を取得し、現地で教鞭を取っておられる中條千晴さんとの「ぶつかり合い」が垣間見える解説文、必読です。
●文系ってなんの意味があんの?
(153頁)
主人公ジャンヌが哲学の世界にのめり込んでいく様、自らの生き方と哲学の世界を往復する様は、「文系ってなんの意味があんの?」に対する1つのアンサーになっています。
文系研究の魅力――「いまここにいない人」との対話の豊かさや言葉の力――を感じられる本書、研究者やその周りの方はもちろん、一人の大人として日々をしたたかに生き抜く全ての人におすすめしたいです。
先の見えないコロナ禍の御供に、ぜひいかがでしょうか。
帯の推薦文は、高橋源一郎先生にいただきました。先生も絶賛でした。
この度新しくスタートした「花伝社オンラインショップ」でもご購入いただける本書(送料無料です!)、ぜひご一読ください!
★以下ネット書店等でも!
※画像はすべてティファンヌ・リヴィエール著/中條千晴訳『博論日記』(花伝社、2020年)より引用。無断転載禁止です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?