【OM-1 Mark Ⅱ 実写レビュー】期待通りのモデルチェンジではないものの、AFは確かに進化し、スルメイカのような魅力も健在。150-600mmレンズのインプレも添えて
2022年3月末に登場したOM SYSTEMのフラッグシップモデル「OM-1」が約2年の時を経てMark IIへと進化。2月23日(金)に発売されました。オフィシャルの価格は約30万5000円。カメラ専門店の店頭価格はボディで26万円前後です。
OM-1 Mark IIのプロフィール
OM SYSTEMは本格的な機能や機材システムを構築していながら小型軽量という特徴を持つ製品群を展開するカメラメーカーとして有名だったOLYMPUS(オリンパス)を前身とし、2020年秋にOMデジタルソリューションズとしてデジタルカメラシステムやICレコーダーなどのオーディオ機器などの部門が独立した企業のブランドになります。ちなみに、「OM」とはオリンパス時代の1970-80年代を中心に展開されていたフィルム一眼レフのブランドネームです。当時は、レンズやカメラ本体のみならずさまざまな純正品の周辺機器を含めてあらゆる撮影に対応する「システム」としてカメラを捉える流れがあり、オリンパス「宇宙からバクテリアまで」をキャッチコピーにOM SYSTEMとして展開していました。それを、2020年にオリンパスから独立した際に復活させた格好です。
従来機の「OM-1」では開発のタイミングなどの様々な事情が絡み合った結果、メーカーロゴにOLYMPUSを掲げていましたが、本機はOM SYSTEMを冠しています。
OM-1からの変更点はソフトウェアが中心
従来モデルからの変更点はごく僅か。一瞥して分かるのは上述の通りメーカーロゴが変更されたことのみ。ダイヤルやボタン類の配置と形状も従来機を踏襲していますが、前後の電子ダイヤルは新たにエラストマー加工が施されました。
筆者はOM-1の前後電子ダイヤルが滑りやすいことに不満がありましたが、シッカリと改善されています。
基本的なスペックは従来機と同一で、イメージセンサーは有効約2,037万画素のメモリ積層タイプの裏面照射型 Live MOSセンサーと画像処理エンジンTruePic Xの組み合わせが引き続き採用。EVFもOM-1同様の約576万ドットの有機ELパネルが組み込まれており、残念ながら主要デバイス面は進化していません。
ではどこが進化したのか? 簡単にまとめてみると以下のようになります。
搭載するバッファメモリが倍増し最大撮影コマ数が増大
秒間20枚の連写時:OM-1はRAW形式で143枚→OM-1 Mark Ⅱは405枚
コンピューテーショナルフォトグラフィ機能が強化された
ライブND:ND128が選択可能に
新機能「ライブGND(グラデーションND)」の搭載
ハイレゾショットの14bit RAW保存が可能になりレタッチ耐性が向上(従来は12bit)
AI被写体認識AFの改善
被写体認識AFに「人物」が追加(従来は顔・瞳認識)
AFアルゴリズムが改善
強力だった手ブレ補正性能のさらなら向上
ボディ内手ぶれ補正:OM-1(7.0段)→OM-1 Mark Ⅱ(8.5段)
ボディとレンズのシンクロ手ぶれ補正:OM-1(8.0段)→OM-1 Mark Ⅱ(8.5段)
このように、OM-1 Mark Ⅱはソフトウェア上の強化が中心となっています。なお、手ブレ補正の効果を向上させるためには、可動範囲を大きくするか、ブレを検出するジャイロセンサーの性能を上げることが重要です。公開情報ではそういったハードウェア面の更新についてのアピールはありませんでしたが、アルゴリズムの面で改良されているとのこと。従来型も十分以上に並外れた性能でしたが、OM-1 Mark IIで真の手ブレ補正性能を発揮できるようになったということなのかもしれません。
御託が長くなってしまいましたが、良いところはそのままにユーザーの声を反映させつつOM-1が持つポテンシャルを限界まで使い切れることが出来るようにブラッシュアップしたのがOM-1 Mark IIということになりそうです。
OM-1からどこまで改善されたか実写テスト
従来機で筆者が気になっていたのは主にAF性能です。「AI被写体認識AF」を公式Webサイトなどでは声高にアピールしていましたが、実際にテストしてみると以前記事に書いた通り、「調子が良い時は100点、気分屋さんがヘソを曲げると0点」という不安定な一面があることが分かりました。ファームアップによって改善しつつありますが、それでも検出枠は表示されているのに、ピントは合っていない事がある点が気になっているわけです(OM-1発売時のレビューは↓です)。
動物園の檻に引っ張られにくなるなどAF性能のアップを実感
そこで、以前のテストで気になっていた動物園での檻越し条件を中心にチェックを行いました。OM-1 Mark Ⅱの結果は上々で、檻などの障害物があるシーンで、背景や手前の檻に惑わされる頻度がグッと減っており快適に撮影ができました。また、特に大ボケ状態からでも何とかサーチしようという気概も感じられました。
それだけでなく被写体認識の検出力とピント精度も向上しており、例えば動物の顔を画面いっぱいに捉えた時に、眼以外のものに検出枠が表示されにくくなっていたり、AFポイントが突然画面の端にジャンプしてしまったり、という事がなくなり全体的に精度が安定しています。またOM-1では柵などの障害物の無い展示でも、微妙にピントが甘い場合が一定の確率でありましたが、そうした悪いクセが軽減されていました。動物の補足力は改善しているように感じました。
水族館のような低照度かつ反射物があるシーンでもAFの追従性と精度が良くなっているように感じられました。
ただし、AF精度にバラツキを感じる場面も……
結果が良かったのでさらに難易度を上げ、野鳥を狙ってみました。撮影中の印象は良く、強力に被写体を検出&トラッキング出来ていたのですが、実際の撮影画像をチェックしてみるとやや期待ハズレ。筆者の基準が厳しいのかも知れませんが、もう少しガチピンであってほしい、というのが本音です。どうやら対象の動きが大きな場合にAF精度にバラツキが生じるようでした。
直接比較したわけではありませんが価格帯と撮影性能の近い富士フィルム「X-H2S」の方がヒット率が高いという感触ですし、連写性能を無視してAF性能だけみればソニー「α6700」の方が断然上。OM-1 Mark Ⅱはレンズを含めたシステムとしてサイズメリット以外に、一般ユーザーへの訴求力は弱いと言えます。もちろん、従来機と比べると着実な進歩を感じる性能を達成していることは間違いありません。
また、改善点としてスーパーコンパネから被写体認識の対象を選択出来るようになりました。OM-1ではメニュー階層から選択しなければなりませんでしたが、使い勝手がかなり良くなっています。
連写時のバッファが倍増しプロキャプチャーモードがより実用的に
筆者としてはプロキャプチャーモードを多用しなければ初代OM-1のバッファでも特に気になるシーンは無いと感じていましたが、バッファが倍増した本機で憂いはがなくなりました。プログレードデジタル SDXC UHS-II V60 GOLD 128GB(最大書き込み速度100MB/S)を用いてSH1(120fps)で連写してみたところRAW記録での実測値でカタログスペック通りバッファフルまで200コマ以上を安定して撮影できました。これは過去にテストしたOM-1での結果の倍以上となります。
120fpsで約2秒程度連写継続出来るというのは、瞬間を捉えたいユーザーにとっては大きな武器となります。
ちなみにバッファフルからのメディアへの書き込み時間については、書き込み開始からアクセスランプ消灯まで5回計測し、平均で42秒でした。今回使用したメディアは上述の通り書込速度が100MB/sなので、200MB/s以上の最速クラスのメディアを利用すれば約半分程度まで短縮することが見込めます。
ハーフNDをソフトウェア処理で再現する新機能「ライブGND」
OMDSが訴求しているOM-1シリーズの大きな特徴が連写した複数の画像に高度な合成処理を行い、複雑・高度な撮影を簡易にする「コンピュテーショナル フォトグラフィ」です。このコンピュテーショナル フォトグラフィに「ライブGND」が新搭載されました。これはいわゆる「ハーフND」の効果をライブビューで画像処理によってリアルタイムで実現する機能となっています。作例は効果の分かりやすさ重視で撮っていますが、効果の境界線の位置と角度、角度調整のための支点の設定が簡単かつ直感的に出来るので、例えば風景シーンでの明暗差の大きな条件で白飛びや黒つぶれを抑える効果が期待出来ます。
手持ちハイレゾショットの効果もチェック
OM-1から引き続き搭載されているコンピュテーショナル フォトグラフィの代表機能が「手持ちハイレゾショット」です。手持ちハイレゾショットでは一回のシャッターで12枚の画像を自動で連写し取得します。当然、手持ちなのでわずかな位置ズレが発生しますが、この位置ズレを逆手にとって5000万画素相当の高解像度の画像を生成するという仕組みです。ハイレゾショットの5000万画素と2000万画素になる通常撮影とでどのような違いがでるのか、改めて比較してみたいと思います。
ビルを背景に観覧車を撮影した作例です。noteの小さな画像ではわかりづらいのですが、ハイレゾショットではビルの目地や観覧車の冷却装置のスリットなどの細部描写がクッキリしていることがわかります。また、合成処理をしているため高感度撮影でもノイズが抑えられるという効果もあります。なお、ハイレゾショットには三脚用撮影用のモードもあり、そちらは8000万画素の出力が可能です。
そして、冒頭にも記したようにOM-1 Mark Ⅱは手持ちでも三脚でもハイレゾショットをRAW形式にで記録する場合、14bit-RAWが選択できるようになりました。従来の12bitより明暗や色の階調情報が豊富になります(残念ながら、ハイレゾショット以外は12bitのままです)。
一方、12枚の画像を合成する都合上、被写体の一部でも動きがあると不自然に合成されてしまします。こちらの風車の写真は1250分の1秒という高速シャッターを切っているにも関わらず、ハイレゾショットでは風車の動きが止まっていない上、拡大すると不自然な写りになってしまいました。
良好なバッテリーもちにも注目
今回はAF性能検証のための連写シーンで1500ショット(メカシャッターで約800ショット/電子シャッターで約700ショット)、スナップシーンでの作例撮影ではメカシャッターのみで単写で約500ショット。合計で約2000ショット撮影しています。
連写シーンでは1500ショットでバッテリ消費が27%。スナップシーンでは500ショットで49%の消費でした。予備のバッテリもありましたが、結果的には満充電のバッテリ1つで2000ショットを乗り切ることが出来、驚かされました。
過去にOM-1でテストした際の記録を見てみると、スナップシーンの500ショットで42%消費となっています。同一条件ではありませんので、純粋な比較をすることは出来ませんが、バッテリ消費は従来機とほぼ同等か、あるいは僅かに大きくなっているようです。筆者は比較的パッと撮るタイプですので、バッテリ消費が少ない傾向にありますが、それを勘案してもOM-1と同様に最低で700コマ程度の撮影ができそうだ、という感触を得ました。これは約500コマ(OM-1では約520コマ)という公称スペックよりも優れています。
超望遠ズームレンズの新製品「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS」
OM-1 Mark IIと同時に発表されたM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISについてもテストしてみました。
オフィシャルの価格は44万円。実売でも39万円程とかなりの金額ですが、フルサイズ換算で300mmから1200mm相当という相当な超望遠領域をカバーするレンズです。しかも、2倍のテレコンバーターを装着すれば2400mm相当画角までイケるという驚異のスペック。なお、今回はレンズ単体で運用してみました。
撮影距離が15m以内となるシーンでの描写性能はズームレンズとしてはかなり良く、超望遠レンズの使い勝手に大きく寄与するAF性能についても高速かつ静粛で高い満足感が得られる一方で、500mm(1000mm相当)以降のテレ側での撮影性能(描写性能を含みます)では40万前後という販売価格を満足させてくれるとは言い難い一面もあります。特に動体を連写撮影しているとAFの甘さもあって、描写が緩く見えてしまうシーンが目立ちました。
撮影領域を拡大してくれるという点では疑いようもない魅力を持つレンズではありますが、このレンズをオススメできるユーザーはテレコンバーターを併用して太陽を画面いっぱいに捉えたいと考えるユーザーなど、超望遠域での特性を理解しているユーザー向け。お値段的にもユーザーを選ぶ製品という側面もありますが、やや限定的なターゲット設定であるという感があります。
筆者の独断と偏見で言えば、超望遠ズームの世界を楽しみたい場合、手ブレ補正の効果が本レンズと較べて控えめですがそれでも700g軽く約1/3の予算で手に入るM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS(実売14万8000円ほど)か、もしくは腹を括ってすべてが最高峰となるM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO (実売88万円ほど)という選択肢も無視できません。
ともあれ、マイクロフォーサーズ機は他のフォーマットよりも画角に対してレンズサイズをコンパクトに抑えることが出来ますので、機動力の高い、もしくは長時間の撮影でも少ない負担で撮影が楽しめるのことはとても大きな魅力です。
まとめ:新モデルというより初代OM-1の完成版
「見た目はそのままに、使い勝手を深堀りする」を実行したのが本機に対する率直な感想です。簡単に言えば「完成度を高める改良を施した」となります。
モデルチェンジと言えば、通常は劇的な変化や進化を期待してしまいますが、そうした期待に応えたカメラか?と言われると、限りなく黒に近いグレーというニュアンスの否です。
おそらく純粋なファームアップだけでは対応できないことがあったので、新型へと移行したのだと推測されます。そのひとつがバッファの増設でしょう。このバッファメモリによって達成されたのは連写継続枚数だけではないはず。当初計画していた理想形を、技術の進歩と拡大したバッファメモリによって達成した、OM-1の完成形がOM-1 Mark IIなのでは?と考えてみれば、割と納得できるアップデートでもあります。
フラッグシップモデルということで、AFについては特に厳しい基準で評価しましたが、販売価格帯からも極限性能を追求した製品ではなく、撮影の可能性を広げる事を主軸に置いた製品であることが伺えます。
またマイクロフォーサーズシステムの製品は、同等の撮影性能を持つ機材と比べてリーズナブルに調達できます。OM SYSTEMの機材はさらに高いタフネス性をアピールしており、実際にProレンズでは軽い水没にすら堪える実力があります。
現在のカメラ開発ではファームウェアの開発がその開発リソースの半分以上を占めるようになりました。仮に同じデバイスを使ったとしても、あらたな制御や機能を入れ込むには想像よりも多くのコストを伴います。しかし、そうした事情は一般ユーザーにはなかなか見えてこないものです。従来機のOM-1については本年秋頃にAF性能の最適化と、操作性の向上を織り込んだファームウェアアップデート計画を明らかにしています。できれば、エラストマー加工が施された前後ダイヤルへの有償交換サービスがあれば嬉しく思います。
実際に使ってみないとわからない魅力があるカメラ
最後に。個人的には4ヶ月振りにOM-1シリーズに触れましたが、大きなグリップと適切なサイズのボディ、スペックに対して軽量なレンズなどに改めて感激しました。噛み締める毎に良さが実感できるという、まるでスルメイカの様なカメラです。日常を切り取る相棒として使ってみると、手のひらサイズから少しだけ大きいですが、フラッグシップモデルらしいレスポンスとタフネス性を持っていることに頼もしさを覚えますし、レンズがコンパクトなので、今日は追加でもう一本持っていこう、と自然と思えるところも魅力的でした。
Staff
執筆・検証:豊田慶記 https://twitter.com/PhotoYoshiki
編集:家電批評編集部 阿部 https://twitter.com/kazemachi
製品写真:fort Studio https://fortstudio.co.jp/company/ , 小川賢一郎
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