OMSYSTEM OM-1レビュー:ファームウェアさえ安定すれば歴史に残る名機になるかも
本記事の初出は家電批評2022年6月号の「カメラ&レンズ辛口批評」です。誌面に収まりきらなかった原稿や作例写真を含めた完全版を9000字の長文レビューでじっくりお届けします。
検証・テキスト:豊田慶記
大手メーカーでカメラ開発に携わった経験をもつ写真家。現在はWebやカメラ誌などで活動中。車とカメラ好き。Twitter:@PhotoYoshik
製品写真:小川賢一郎/fort/編集部
オリンパスの流れを引き継ぐ新ブランド「OM SYSTEM」
OLYMPUSと言えば写真ファンの間では本格的な機能や機材システムを構築していながら小型軽量という特徴を持つ製品群を展開するカメラメーカーとして有名でしたが、2020年秋にOMデジタルソリューションズ株式会社としてデジタルカメラシステムやICレコーダーなどのオーディオ機器などの部門が独立。さらにそれらを包括する新ブランドとして「OM SYSTEM」が発足しました。
今回紹介するOM-1はそのOMデジタルソリューションズの新ブランド「OM SYSTEM」のフラッグシップモデルとして2022年3月末に登場したミラーレスカメラです。
写真ファンであればOM-1という名称にピンと来た人も居るハズ。というのも本格派のフィルム一眼レフとして1972年にオリンパスから初代OM-1(発売当時はM-1という名称でした)が登場しているからです。初代OM-1から丁度50年の節目となる2022年に登場した新生OM-1は高性能高画質を追求するために肥大化・高価格化の進むデジタルカメラ業界の、特にハイエンドモデルとしては異例とも言える小型サイズを実現しています。
これまでオリンパスのフラッグシップモデルはカメラの基幹パーツであるイメージセンサーを2016年12月発売の「OM-D E-M1 Mark II」で初採用となった約20MPのLiveMOSセンサーを踏襲していましたが、約6年ぶり(!)に一新されるなど気合いの入ったモデルです。
フルサイズにはない魅力があるマイクロ・フォーサーズ規格のカメラ
本機はマイクロ・フォーサーズ(以下、M4/3)と言われるセンサーフォーマットのミラーレスカメラです。M4/3フォーマットはOM SYSTEM(旧オリンパス)以外にもパナソニックや動画機ではBlackMagicなどから共通のレンズマウントを持つカメラが発売されています。
フルサイズ機と比べて高感度画質や画素数という意味では数値性能的に劣る部分はありますが、その一方で高速なAFやレンズシステムが非常にコンパクトに収まるなどフルサイズ機には無い魅力も沢山ありますので、一概にどちらが優れていると断言することは出来ません。例えば飛行機は船と比べて速度で勝りますが、その一方で船が可能とする大量輸送には向かないなどの特徴があるように、カメラシステムもフォーマットサイズによってそれぞれに一長一短や得手不得手があります。
【デザイン】さすがはフラッグシップモデルと思える操作系と歴代モデルより下がってしまった質感
本機はセンサーサイズの小さなM4/3機としてはかなり大柄な体躯ですが、カメラボディは小さければ良いというワケでもありません。コンパクトなボディは収納性では大きなメリットになりますが実際に使用するとなると操作が窮屈になってしまいがち。その点でOM-1はコンパクトと操作性の高さを上手くバランスさせたサイズ感になっています。さらに言えば「OM-D E-M1X」というOMシステムの前身となるオリンパス時代のフラッグシップモデルを超える撮影性能を持ちながらこのサイズ感に留めていることは驚愕に値します。もちろん防塵防滴性能についても万全という抜かりの無さ。
大型のグリップはホールド性が良くボタン類にも自然に指が掛かるなどユーザーファースト的視点で煮詰められた操作デザインに思わず「さすがはフラッグシップモデル」という満足感を覚えました。
オリンパス機のUIは複雑怪奇というのは複数のメーカー機材を使うユーザーの間では常識でもありましたが、このUIにもテコ入れがされており、かなり分かりやすくなっています。
そういった進化・改善の一方で、ボディ全体の質感は代を重ねるごとに少しずつ低下しているように感じられたことは否めません。軽量化や耐衝撃性などを追求した結果なのかも知れませんが、お値段以上と感じる性能ではあるものの、価格に見合った質感ではありません。OM-1に愛着をもつには撮影時にカメラの多大なる貢献が必要かも知れません。
OM-1をテストして特に注目したいと感じたのがAF性能と画質でした。
【オートフォーカス】「これ撮れるのか!」というシーンでAF追従できる潜在性能。しかし、業務用途では信頼できない
AFのテストはOM-1がウリとする機能・性能を試すべく新幹線と動物園でそれぞれ「AI被写体認識AF」で撮影しました。ドライブモードは「高速連写SH2」というAE/AF追従で最高約50コマ/秒の連写設定(ただしOMDS製の対応レンズが必要)を選択しています(なお、この連写速度はフルサイズミラーレスのフラッグシップ機の約30コマ/秒を大幅に上回る速さです)。
鉄道認識は十分な性能だがピンボケや大ボケも発生する
まず新幹線を撮影した感触は上々。過去に別の媒体でE-M1Xを用いて同様のテストを行っていますが、それと比べて明確に被写体認識能力とAF追従性、AF精度が向上していることが撮影開始数秒で体感出来ました。が、満点評価というワケではありません。微妙なピンボケが連続してしまったり、被写体認識表示が被写体以外の部分に表示され画面の隅にAF枠が飛んでいったり、AF開始直後に大ボケでAF追従不能になる症状が時々出るなどの「気分屋さん」気質が気になりました。フラッグシップモデルでは業務用途でどれだけ信頼を寄せることが出来るか?という点も重要ですので、まだココ1発の失敗が許されないシーンでOM-1の被写体認識AFを信用するのは難しそうです。ともあれ、2000ショットして概ね80%以上は合焦できているので十分な性能を持っていると評価できます。今後の熟成に期待です。
動物園の檻に高確率でAFが合焦してしまう
動物園では檻越し条件だと快適に撮影できませんでした。檻と動物との距離感を調整しても檻にAFする頻度が非常に高い状況です。その一方で檻が無い展示では抜群の認識精度で撮影が快適でした。が、ここでも気分屋さんは顔を覗かせます。順調に被写体を補足していたAFポイント表示が突然画面の端にジャンプしたり微妙なピンボケが連続したりします。
かと思えば、飛ぶ鳥を咄嗟に捉えるような「これ撮れるのか?」と感じる難しい条件でも難なくAF追従するというポテンシャルの高さを持っています。
総じて「調子が良い時は100点、気分屋さんがヘソ曲げると0点」のような不安定さが気になりました。
シングルAFは素晴らしいAF精度(接写の改善も実感)
通常のスナップシーン、例えば被写体認識やC-AF+TRを用いない通常のS-AF設定では、テストした限りでは上記の気分屋さんが発動することなく素晴らしいAF精度で撮影が快適でした。特に接写シーンでは従来機と比べて明らかに合焦精度や細かい物体の補足能力が向上していました。
【画質】新型の画像処理エンジンに好印象! デジタルライクな画質から瑞々しさを感じる自然な画質へと進歩
注:画質の評価はJPEGで行なっています
階調再現のバランスが改善
画質について、正直に言えば筆者はオリンパス機のシャープネス感を強調したデジタルライクの画質が好みでは無く、同じM4/3機であればパナソニックのLUMIX Gシリーズを選びたいと考えていました。しかしOM-1はとても自然なシャープネスと色と階調再現のバランスが良く、ひと言で表現すれば「上質」な画質になりました。筆者的に一番の驚きだったのは画質です。作り物のようなどこか違和感のあった再現から瑞々しさを感じる自然で立体的な再現性なので、M4/3というフォーマットサイズを意識するシーンはOM-1ではあまり無いでしょう。
ノイズリダクションが巧みになった
加えて高感度画質が改善されています。以前の様にノイズは少ないけれど解像感がイマイチな高感度画質ではなく、解像感もある程度維持出来ていてノイズリダクション性能がより老獪になった印象です。これは画素数を維持しながら新規で設計されたイメージセンサーと大幅に処理能力が向上された新型の画像処理エンジンの賜物でしょう。
夜間はISO3200、日中のシャッタースピードを稼ぐ目的なISO6400でも十分な画質を確保できる
許容できる高感度画質は一般ユーザーならISO6400、専門誌的な視点ではISO3200となるでしょう。
日中でのシャッター速度を稼ぐための高ISOであればISO6400でも大丈夫そうです。孔雀の作例がISO5000ですが実際に全然不満がありません。一方、夜間などのリアルな低照度下では個人的にはISO3200が限界だと感じましたので、ここを上限にボディ内手ブレ補正を信じてシーンが許すギリギリまでシャッター速度を落とします。
特にISO12800では贔屓目に評価しても緊急用だと感じました。とは言え従来機の場合、低照度下ではISO1600でも正直キツかったと筆者は感じていましたので、OM-1ではカメラJPEGの高感度画質が約2段程度改善されているように思います。これは大きな進歩です。
【手持ちハイレゾ】処理時間が短くなり使いやすくなったが効果を実感できないことも……
画像処理エンジンの性能向上による恩恵の分かりやすいところでは、手持ちで5000万画素の高解像度写真が撮れる「手持ちハイレゾショット」や長時間露光を再現する「ライブコンポジット」などの合成処理待ちの時間が体感で半分以下になっています。従来機では10~15秒程度掛かっていましたがOM-1では5~7秒程度で終わります。
手持ちハイレゾショットは1回のシャッターで12枚の画像を取得し合成処理をすることで高解像度の画像を生成する機能ですが、この機能によるディティール改善はあらゆるシーンで100%効果を体感出来るか?と言われれば微妙です。条件さえよければ花でも撮れることにビックリする一方、手持ちハイレゾに向いていそうな被写体である建物を撮影した場合に失敗することもありました。
手持ちハイレゾショットの重ね合わせ合成処理が上手く出来なかったのか、はたまた私の手ブレの周期とOM-1との相性が悪いのかは分かりませんが、筆者の場合は手ブレに気をつけながら少し慎重に手持ちハイレゾ撮影を行うと失敗が目立ちました。また最高で8000万画素のデータが得られる「三脚ハイレゾショット」についても試してみましたが、トラベル三脚で脚をフルに伸ばして運用するような状況ではディレイ秒数(シャッターボタン全押しから実際に露光開始するまでの遅延秒数を設定出来る)を吟味し、複数回撮影をしなければ期待したような効果を得るのは難しいように感じます。
LUMIX GH6のほうが使いやすい?
同様の機能がパナソニック「LUMIX GH6」に搭載されていますが、GH6の方が私との相性が良いのかヒット率と効果が高いように感じました。その一方で、GH6では難しかった花での手持ちハイレゾをOM-1では実用的なヒット率で成功させてしまうなど、傾向が掴みづらいカメラです。今回の試用期間では被写体によって効果の大小があるかどうかについては確固とした結論をだせるに至っていません。同じ機能で比較した場合、GH6の方が明らかに使いやすいぞ、というのは確かです。
【手ブレ補正】流し撮りが撮りやすくなった
手ブレ補正の制御も改善しています。従来機も非常に強力な手ブレ補正機構を持っていますが、微妙な構図の調整が難しかったり、流し撮りシーンでは強力な補正が仇となる場合があるなど融通の利かない側面もありました。そういった性能の高さが邪魔をする頻度が大きく減っていますので、これまで以上に快適に撮影出来そうです。
【EVF】精細感が大きくアップし、のぞき心地が改善
EVFののぞき心地は大幅に改善されています。EVFの解像度が約236万ドットから約576万ドットへと大きくスペックアップしたことで精細感が目に見えて向上しました。従来機は連写中にコントラストが下がり視認性が大きく悪化していましたが、OM-1では高い表示クオリティのまま高速連写可能です。
ただし、室内や夕方などの薄暗い状況では不満が生じます。ミラーレス機ではある程度の明度・照度以下になるとEVF表示がゲインアップしてフレームレートが下がる。これはどのカメラでも多かれ少なかれ同様の挙動を示しますが、OM-1ではやはりM4/3というセンサーサイズが足かせとなっているのか、最新のフルサイズミラーレスなどと比べるとフレームレートの下がり方が顕著。室内競技などの暗めのシーンで動きの大きな被写体を撮影する場合はEVF表示のカクツキが気になりそうです。
【バッファ】レビューで指摘されがちな「バッファ不足」は実際の撮影ではあまり気にならない
OM-1のレビューでは50コマ/秒もの超高速連写を実現しているにもかかわらず連続連写枚数が少ないこと、バッファをオーバーするとSDカードの書き込みに時間がかかり連写速度が低下することがよく指摘されます。
私も撮影中に気になるかな?と思っていましたが、バッファテストめいた撮り方をすれば確かに気になりますが、実際の運用で気になるシーンはありませんでした。
何十秒も連写し続けるシーンってそこまであるのか?
そもそも論になりますが、そこまで連写しっぱなしという状況は少ないかと思います。新幹線をRAW+JPEGで撮っていましたが、長くても撮影時間は3-4秒で、中央値は2秒弱でした。コマ速が遅くなって「あれ?」となるシーンは2時間2000ショットで3回程度だったので、それほど気になりませんでした。
別の条件を想定してみますと、レースシーンで連写するのはスタートから1コーナーに突っ込むところで、この条件では10秒弱連写しますので、こういったシーンであればバッファフローが気になるかと思います。とはいえ最速で連写しても使えないカットが増えるだけですので秒10〜12コマで、多くても150コマ程度撮影出来れば必要十分ですのでOM-1の現状でも問題は少ないのではないでしょうか。
バッファフルさせた場合にコマ速が落ちますがそれでも8−10コマ/秒くらいでは撮れましたので目くじらを立てる程のことではないかと思います。約120コマ/秒でシャッターボタンを押す前に遡って写真を記録できるプロキャプチャーモードを多用するなら気になるかも知れません。
ひょっとするとサッカーやバスケットのようなスポーツでダラッと連写したい人だと厳しいかもしれません。しかし、こうした使い方だと「ニコン Z9」でもバッファがキツイです。バッファを意識せずまともに撮れるのは一眼レフではニコンとキャノンのフラッグシップ、ミラーレスでは「キャノン EOS R3」と「ソニー α1」くらいでしょうか。α1にしても5000万画素とファイルサイズが大きく、メモリーカードがCFexpress Type Aなので連続200コマを5−6回繰り返せばサーマルスロットリングが起こって書き込みに時間が掛かるようになります。2400万画素でより高速なCFexpress Type Bカードに対応するEOS R3だけがちゃんとしています。
【バッテリー】公称スペックより多く撮影ができ優秀
バッテリの持ちについては、筆者の基準では優秀だと感じました。特に電子シャッターメインとなる超高速撮影を多用した新幹線の撮影では2000ショットでバッテリ消費は13%。動物園でも同様の撮影をしていますが、こちらは1000ショットでバッテリ消費が15%でした。動物園では被写体を狙っている時間が長いのでその分だけバッテリを消費するようです。
スナップシーンではメカシャッターのみで撮影しており、500ショットでバッテリ消費は42%でした。筆者はじっくり撮影するタイプではなく比較的パッと撮るタイプですのでバッテリ消費が少ない傾向にあります。ですがバッテリ1つで最低でも700コマ程度の撮影が出来そうだ、という感触を得ました。約520コマという公称スペックよりも優れているように思います。
またSH2などの電子シャッターでの連写を多用する場合では書き込み時間の短縮に貢献するUHS-IIの高速メディアを組み合わせるなら5000コマを余裕を持って狙えそうですが、チェックするのはそれだけ大仕事になりますので注意が必要です。
【まとめ】非常に高いポテンシャルを持ったカメラである
OM-1は非常に高いポテンシャルを持ったカメラであり、M4/3機を代表するカメラ、というだけでなく、センサーサイズの垣根を越えてミラーレス機として非常にハイレベルなカメラに仕上がっています。画質の良さ、サイズバランス、AF性能はもちろんM4/3機の特徴が詰め込まれた1台であらゆるシーンに対応出来る万能性も持ち合わせています。
同じ焦点レンジでシステムを組んだ場合、コンパクトになったとはいえフルサイズミラーレス機と比べてOM-1ではそれでも半分以下のサイズと重量に抑えることが出来ます。しかもコスト的にもかなりお得です。
その一方でOM-1の特徴のひとつである被写体認識を利用したAF性能は安定感に欠ける気分屋さんです。信頼性というハイエンドモデルに必須の部分で物足りないところがあります。とはいえ、工夫次第である程度カバー出来ますし、AF以外に大きな魅力を持ったカメラであることは間違いありません。システムで考えた際のコストパフォーマンスでは屈指の実力を持っていますし、運搬時の疲労感まで考慮した運用コストでは最強の1台でしょう。
今後のファームアップでAF性能が熟成・安定すればカメラ史に名を残す名機の誉を得そうです。
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