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看護師向けのメンタルヘルスサービスを考えて、結局辞めてしまった話

みなさんこんにちは、平山です。

今回の記事では、私がなぜ今のような形で活動しているのかを深掘りしていきたいと思います。看護師さんにはもしかすると直接は役に立たない情報かもしれませんが、色々考えてやっているんだなと思ってもらえたらうれしいです。

最初のnoteでは簡単に自分がどんな経験から今の活動になっていったのかをお伝えしました。今回は、自分達が最初に看護師向けのメンタルヘルスサービスを考え、方向性を変えた所までのお話をお伝えしたいと思います。


看護師がメンタルヘルスに対して抱える課題

日本の看護師の抑うつ割合について

私たちが最初に行ったのは、論文や統計データから看護師の課題を大きな視点で見ていくことでした。

現在、日本看護協会や日本医療労働組合連合などの組織が定期的に看護師の労働に関する調査を行っています。また、看護師に関する論文も出ています。

調査方法やサンプリングが自分達が知りたい情報に対して適切であるかということは注意が必要ですが、こうした調査は簡単に実施できるものではないので、参考になる情報です。

看護師のメンタルヘルスに関する話題でよく言及されるのが、金子さゆり先生が報告している急性期病院の看護師の抑うつ割合に関する研究(金子さゆり、2014)です。

こちらの研究は急性期病院の看護師を対象にCES-Dという抑うつ傾向の評価尺度を用いた調査を行いました。結果として全体で54%の看護師が抑うつ傾向であるという結果で、若いほどその割合が高くなっていました。

日本全体のうつ病の有病率は、OECD(経済協力開発機構)による報告で、2013年に7.9%、2020年に17.3%となっています。

抑うつ傾向の割合とうつ病の有病率は厳密には異なるものです。CES-Dによる抑うつ傾向はあくまでスクリーニングを目的としたものですが、こう見ると看護師の抑うつの割合はかなり高い割合であることが分かります。

金子先生の論文中では他の医療者との比較もされており、指導医は22.4%(前野哲博、2008)、精神保健福祉士は29.8%(岡田栄作、2009)が抑うつ傾向にあるという報告が引用されています。こちらと比較しても看護師は2倍程度高い結果でした。

自分は急性期病院で働いていましたが、実際に半分の人が抑うつであると言われても納得できる数字です。働いていた当時は「働くという事はそういうものだ」、「今の状況が特殊に違いない」という感覚があったのですが、一般市民との比較や他職種との比較を見て、看護師全体として同じようなことが起きていると問題意識が強くなったのを覚えています。

このデータは2009年と10年以上前のデータであり、OECDの報告のようにCOVID-19流行後の2020年以降のデータは改めて見ていく必要があります。

日本の看護師は他の先進国の看護師と比較してCOVID-19への恐怖が強いことも報告されており(小岩広平、2021)、抑うつの割合は日本の全体と同じように上昇したか、それ以上に上昇した可能性があると考えています。


新人看護師の離職までの心理的プロセスについての研究

もう一つ、看護師の状況について個人的に大事だと思う研究をご紹介します。新人看護職員の早期離職について、心理的プロセスをまとめた研究です(柏田三千代、2018)。

この研究は新人看護師が離職に至る過程について、これまでに行われた研究の内容をまとめた論文です。この研究では卒業後1年未満に離職をした看護師に絞り、3件の研究をまとめています。

長くなってしまうので詳細には書きませんが、それぞれの研究はインタビューを行ったもので、実際の発言も記載されています。自分はこの論文を読んで実際に話を聞いて体験を深掘りしていくことの重要性を感じました。

特に印象的だったのが、「怒る人、怖い人がある」「一人の先輩にいじめられる」、「患者の前で先輩看護師に怒鳴られる」などのプロセスが共通して得られていることです。

リアリティショックや仕事でもミスは誰にでも起こり得ることですが、その時の周囲の対応で離職に至るプロセスを止めることができるかどうかが変わってくるのではないかと思いました。

自分も経験がありますが、先輩の対応次第で若手看護師が潰れてしまうことは本当になんとかしないといけないことだと感じています。しかし、当時の自分には何もできませんでした。

しかし、この問題はそうしたいわゆるお局的な人を排除すればよい、という単純なものでもないということも後のインタビューで分かってくることです。


自分達でインタビューをしてみて得られた知見

看護師全体でどういうことが起こっているのかを研究や、調査データを見て把握しましたが、それぞれの人が「実際どう思っているのか」は聞いてみないと分かりません。

そこで私たちは知り合いの看護師を中心にインタビューをしました。インタビューをするのはインタビューをする時間の調整や、その内容を文字に起こして解釈するところまで時間や労力がかかる作業ですが、ここを疎かにすると「本当に解決しなければいけない課題」にたどり着くことができないと言われています。

実際インタビューをしてみると特にストレスになっているものとして大きかったものは以下になります。

  • 職場の看護師同士での(主に上司との)人間関係

  • 人手不足での業務の忙しさ

  • 看護師の仕事の責任の重さ

  • 勉強量の多さ

  • 教育に時間を割けない、指導方法がわからない

人間関係についてストレスであるという回答が特に多く、先ほどの新人看護師の離職に関する研究とも一致する結果となりました。

このインタビューでは、5年目以上や副師長など指導的立場の看護師には若手教育で困っていることについても聞きました。

そうすると、人手不足の問題が業務の忙しさや、教育時間の減少を引き起こしていることが分かりました。また、忙しい中でミスをしないようにピリピリしてしまい、後輩に強く当たってしまうことを反省していることなど、現在の環境が前述した怖い先輩を生み出している可能性があることも分かりました。

両方の意見をちゃんと聞いてみないと正しい状況の把握は難しいなと痛感したインタビューでした。


看護師向けのメンタルヘルスサービス

悩みすぎない考え方を身に着けてもらうという発想

私たちは当初、「看護師が今のストレスを受け流すことができれば問題が解決するのではないか」という仮説でサービスを考えていました。

そのために、抑うつ治療の論文を読み、軽度の抑うつであればアプリで自分でできるような認知行動療法が有効であることを知り、それを看護師に特化した形で実現すればよいのではないかと考えました。

最近もデジタル認知行動療法を謳ったサービスは色々出ています。

認知行動療法は、簡単に言えば、考え方の「クセ」を別の考え方を知ることで、物事に対するネガティブな考え方を修正していくものと自分は理解しています。(自分も精神看護は専門ではないので、正確なものはみなさん必要に応じて調べてください)

例えば、「先輩から怒られた」という出来事に対して、「自分が仕事ができない無能だからだ」と毎回思っていると気持ちがつらくなってしまうと思います。しかし、ポジティブに「これはミスすると患者さんに大変なことが起こってしまうことだからちゃんと注意してくれたんだ」と思えると次につながります。自分の能力が責められているのではなく、自分の行動が問題だったと問題を細分化するイメージですね。

指導方法がそもそもどうなのかという観点はありますが、現実には間違えると大変なことにつながる場合は強く指導されるという場面はあると思います。全員が適切な指導が提供できることが理想ですが、自衛できる知識や考え方を身に着けるのも大事だと思います。

自分は看護師時代に「嫌われる勇気」という本を読んで、気持ちが楽になったのを覚えています。対話形式で進んでいくので読みやすいと思います。多分Youtubeとかで解説している人がいると思うので、そちらで見てもいいと思います。


実際の看護師からの反応

こうした看護師向けのストレスへの対処方法を学ぶサービスを当初は考えていました。しかし、ペーパープロト(イメージをパワポで作って見てもらう)の段階であまりいい反応が無かったというのが正直な所です。

具体的には、無料なら使ってみてもいいけど、お金は払いたくないという意見が多かったです。これはあくまで自分が聞いた範囲での反応ですが、仲の良い友人たちが言うならそうなのだろうと思っています。(念のためですが、他の似たようなものがニーズが無いということではなく、自分達の考えた範囲のものは違ったということです)

これもインタビューで反応を聞いていったのですが、気持ちは少しは楽になるかもしれないが、それでも今の職場で働き続けるのは無理、という反応が多かったと記憶しています。

そうした意見も踏まえて、看護師の現状を引き起こしている課題について次のように仮説を立てました。

  • 働いている看護師の数が足りていないことが様々な問題を引き起こしている。

  • 看護師が辞めたいと思う最大の要因は結局のところ人間関係であり、忙しくても関係が良好であれば辞めることはない。

  • 次に働きたいと思う病院が見つからないと、看護師自体を辞めてしまう人が増えてしまう。

このような仮説に基づいて私たちは今の活動をしています。しかし、これもあくまで自分達が話を聞いた範囲で作った仮説なのでもう少し進んだ所で間違っていたということはあるかもしれません。

さいごに

今回はいつもの知識提供という記事ではなく、自分達の活動についてのお話でした。看護師の労働環境の問題は、なかなか一筋縄ではいかない状況となっていますが、自分達にできることをやっていきたいと思います。

次回からはまた、原先生から理論などの説明の記事を投稿していただきます。色々な方に反応をいただけてとても励みになります。

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