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【ショートストーリー】教祖 PONO@こもりびとさん企画参加

【お題】
「スキの数がお金の世界」のショートストーリー
●”スキ”するのは無限にできる(相手のお金になる)
●”スキ”の数がそのまま収入になるけど、数はじぶんにしかわからない

あの日までは全てが順調だった。

旧貨幣制度がスキ貨幣制度に変わった時、俺は誰よりも早く動いた。これからの世界は人からもらうスキがそのまま金になる。好感度が命。そして、好感度の高い職業といえば、タレントかスポーツ選手か宗教家が相場だ。俺の容姿と才能ではタレントもスポーツ選手も無理。そこで、この教団を立ち上げた。俺の目論見は当たった。信者達はスキを惜しみなく送ってくる。たとえ家庭が崩壊しても。

一つ盲点があったとすると、金はいくらでも入ってくるのに、自由に使えないことだ。

金をつかめば使いたくなるのが人間のサガだが、金をつかんだ人間に嫉妬するのもまた人間のサガだ。うっかり大金を使っているところでも見つかれば、すぐにアンチが湧く。十分にわかっているはずだった。

だから、身なりは質素、車も家も中流中古で通した。どれもこれも、アンチを増やすのが怖かったからだ。しかし、金を稼ぐために宗教家として成功したのに、金が使えない。これでは一体、何のための成功なのだ。

確かに、家の内装と美食には金を使った。中流中古の住宅内部が総金箔貼りとは誰も思うまい。毎日数万円のワインを開けていることも気づかれようがあるまい。しかし、そんなものにはすぐに飽きる。人知れず金を使ったところで、虚しさが増えていくだけだ。


そしてあの日だ。

信者の一人、超高級クラブのママの誘いに乗ってしまった。店の女の子全員にシャンペンを奢って支払いが百万を超えようと、そんなものは大した額ではない。痛恨は、格好の週刊誌ネタを提供してしまったことだ。「スクープ 教祖が銀座超高級クラブで豪遊」ときた。文秋砲というやつだ。俺はあの女が文秋の回し者だと信じている。記事には毎晩のワインのことまで書かれている。あの店主が口を割りやがったからだ。

案の定、翌日からスキが途絶え、キライが送られてくるようになった。俺の銀行残高は減る一方、このままでは破産する。もう一度高感度を取り戻して、必ず復活してやる。

今も文秋記者が俺のことを尾行している。これを逆に利用してやるつもりだ。今日は一日、日本赤十字や日本ユニセフを、多額の寄付をして回る。さっきは路上の募金箱に1万円突っ込んどいた。奴らにも少しは人の心があるだろう。来週の紙面で取り上げられれば、少しは好感度が回復するはずだ。


(翌週)

「おい、週間文秋は買ってきたか。すぐに持ってこい。」

妻が持ってきた週間文秋をひったくる。

スクープ 豪遊教祖がこんどはスキ集め目的の偽善詣で

もうダメだ。全て終わった。



「たとえ世界中があなたのことを嫌いになっても、わたしは今まで通り大好きです。これまでみたいに、たくさんは手に入らないかもしれないけど、わたしからは毎日最高のスキをあげますよ。ふりだしからまた始めればいい〜♪」

妻が笑った。


【企画概要】

PONOさんのショートストーリーも面白い。


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