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異語り 003 ZOOM飲み

コトガタリ 003 ズームノミ

ZOOM飲みって知ってますか? 
オンラインでつないだ仲間と画面越しにおしゃべりしながら自宅などで飲むリモート飲み会です。
すでにやったことある方もいるでしょうか。

私も先日、友人達と挑戦してみました。

なかなか外に飲みに行くこともできないし、かといって自粛自粛でだいぶストレスも溜まっている。
友達に声をかけると「面白そうだよね」とメンツも集まり開催の流れとなりました。
早速、好きなお酒を買い込みワクワクとその日を待っていました。

さあ、いよいよ飲み会の日。
普段は夫の書斎になっている家の中で一番静かな部屋にこもり、パソコンのスイッチを入れます。
まだ時間前でしたが既に5人が集まっていました。
今回集まったのは学生時代の友達8人。
ほどなく残り2名も入室して全員で乾杯! ZOOM飲みスタートです。

私は缶のハイボールそのままでしたが、こだわりのつまみを並べたり酎ハイをグラスに移し替えてくる者など、それぞれの性格も垣間見え話に花が咲きます。
個別であれば(自粛騒ぎがなければ)時々は実際に顔を合わせて飲んだりすることもあります。ですが、結婚、出産などが重なりそろって顔を合わせる機会は減っていました。
久々の顔ぶれに同窓会のような高揚感を覚えつつ、それぞれの近況報告や日頃の愚痴などあれこれぶちまけながら楽しく酔っぱらっていきました。

2時間ほど飲んでいるうちに気づけば、メンバーは半分になっていました。
翌日の仕事や子供の夜泣きなどなど、暇だった学生時代とは違いますからそこはあきらめましょう。
残ったのは学生のころは朝まで飲み歩いていた気心知れた顔ばかりです。
いい感じで酔いも回り、同じ話題を繰り返しながらダラダラと飲み続けているうちにとうとうカナが酔いつぶれてしまいました。
モニター画面に、テーブルに突っ伏したカナのつむじが見えています。

「あー、やっぱりカナからだねー」
「どこで飲もうとそれは変わんないね」
「いや、むしろいつもより早くない」
「家だから早いのかもね」
「これこっちからは画面切ってあげれないのかな」
「いいんじゃない? いつもっぽくて」
などなど言いながらカナのつむじを肴に更に小1時間
気付くと午前零時を回っていました
まだカナの画面も繋ぎっぱなしのままです。

プツン プツン

会話の合間にノイズが入ります。

「あれ、なんか電波乱れてる」
「うちは何ともないよ?」
「ひょっとしてカナの画面が固まってるんじゃない?」
「動かないからわかんないんだけど」
3人の視線がカナの画面に集まった

ザザッ ザザザザザザザザザザァ

激しくカナの画面が乱れました

「ちょっとカナ、テーブルの下で暴れてんじゃない?」
「カメラが動いてんじゃないよ、画像だけ乱れてんの」
「電波障害? 誰かレンジでも使ってる?」

カナの部分だけがザラザラとした画面になっています。
どうやら他2名も同じ状態の様子
皆、一角だけ画質が粗いモニターを無言で見つめていました。

カナがむっくりと身体を起こす

「あっ、起きた……」
私は声をかけようとしてその言葉を飲み込みました。

不鮮明で小さな画面ですが、動き始めたカナの下にまだカナのつむじが見えているのです。

誰もが声を出せないままじっと画面を見つめています。

ズズッ ズズッ ズズズッ

ゆっくりと起き上がったカナが画面に近づいてきます

ズズズッ ズズズッズズズッ

表情というか顔も判別できないような黒っぽい影が、突っ伏しているカナに覆いかぶさるようにしてこちらに伸びてきます。
合わせて画像もさらに乱れ、スピーカーから嫌なノイズが広がっていきます。

ありえない状況ではあるものの、画面越しのおかげか緊迫した恐怖は感じていませんでした。恐怖映画でも見ているような感覚で
そのままじっと身動きせず息を殺して状況を見守っていました


ズズズッズズズッズズズッ ブチッ ブチッ


とうとう黒いカナの影が一面に広がった。


ブツンっ

大きな音がしてカナの通信が切れてしまいました。

残された3人の呆然とした顔が画面に映っています。


『カナさんが退室されました』

画面に現れた文字に皆が一斉に反応しました
「ちょっと今のなに」
「なんかやばいんじゃないの」
「家族と一緒だったっけ、ご家族が誰か入ってきたのかしら」
「カナ、今日1人って言ってなかったっけ」
「ちょっと電話してみる」

今更ながらパニックのようになった私達。
1人がカナに電話をかけはじめました。

「ダメだ、繋がんないよ。ちょっと行ってくるね」
カナと同じマンションだと言うので様子を見に行く気らしいのです。

「あのさ、近くになったらまた繋ぐからこのまま待っててくれない? ちょっと何かあったら怖いからさ」
「わかった。無茶しないでね」
「何かありそうだったら、うちらじゃなくて警察ね」

モニターは二人だけになってしまいました。
さびしくなった画面を前になんとなく視線をさまよわせてしまいます。
こういう時は何を話していいのか分からないので……。
ちびちびとチューハイを口にするのですが、既に味なんか感じなくなっています。

5分ほどして新たな入室がありました。
スマホからの映像らしく友の超どアップ画像にちょっと安らぎを覚えます。
もう一人の顔にもホッとした表情が浮かんでいました。

「カナの家に着いた。ピンポン押してんだけどまだ寝てんのかな」
「鍵は開いてないの?」
「さすがに開いてたらやばいでしょ」

何度かインターホンを押すうちに中から眠たげなカナが出てきました。
どうやら今まで寝ていたらしいです。
そのまま中継のように二人で家の中を確認し、カナのパソコンからもう一度ZOOMに接続しなおしました。

カナのパソコンはいつの間にか電源から強制シャットダウンされていたらしいです。
当の本人は消した記憶はないらしいのですが「酔っ払っていたし寝ぼけてたわけだから何をしてたかなんて責任を持てない」と苦笑いしていました。

部屋に誰かが入ったような形跡はなく
結局あれがなんだったのかは分からず仕舞いです。

けれど、あれ以来ZOOM飲みはしていません。

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