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異語り 006 手稲山の神隠し

コトガタリ 006 テイネヤマノカミカクシ 

今住んでいる所から海は見えない。でもカモメは時々見かける。
庭にはキツツキやエゾヤチネズミが遊びに来るし、近所には雉や鹿も出没する。
自然豊かでのんびりした所だ。
そんな地元の怪談はないかと探してみると、意外とぽろぽろと見つかった。
中でも毎日のように眺めている手稲山は心霊スポットの宝庫のようだった。

手稲山の中腹には昔 オリンピアランドという遊園地があった
今でも大きな観覧車がそのまま残っている。
山の山頂から麓まで2つのスキー場があり、夏はハイキングや登山。冬はスキーと一年を通して多くの人が訪れる。
そんな札幌市民の憩いの場的手稲山だが
事故や自殺のあった滝、廃病院、老婆の出るトンネル、人柱の噂などなど
小さな噂も拾っていくとかなりの数の怪談が出てきた。
現役の心霊スポットらしい。

今現在も出現中の怪異は放っておいても勝手に育ちそうなので
もう消えかけている怪談をひとつ掘り起こしておこう。

かつて手稲山は金鉱山だった。
区のホームページや地名にもその名残が残っている。が、認知している札幌市民は少ないように思う。

北海道の開拓の歴史は明治に入ってから。
手稲山に金の鉱脈が発見されたのが明治時代半ば。
鉱山ができ採掘が始まったのは大正に入る少し前辺りから
その後昭和20年代中頃まで操業していた
鉱山が軌道に乗り、町ができはじめたのは大正の中頃と思われる。
それ以前はほとんど山に立ち入ることもなかったようで、あまり古い話は見つけることができなかった。

見つけたのは神隠しの噂。
採掘が最盛期となる昭和初期の頃から、ちらほらと出てくる。

ただその内容は、「ふと目を離した隙に」などという話ではなく
「見ている目の前から煙のように消えてしまった」という話が多い。
神隠しというより、人間消失というべきなのかもしれない
消えてしまった人は、数日から数年後に帰ってきた人もいれば、そのまま戻ってこない人もいるようだ。

しかし、この手の話は昭和30年代に入るとパタリと出てこなくなる
時期的にはちょうど手稲山に電波塔が立ち始めた頃と重なる

ここから先は作者の勝手な妄想による考察なのでサラッと聞き流していただいて構わない

鉱山というのは山中にあるべき鉱石や金属をごっそりと取り出してしまう。
特に手稲山は金属系の鉱脈。
大量の金属をを掘り出した結果、山にあった本来の磁場的なものに歪みが生まれたのではないだろうか?

神隠しの噂は鉱山の発掘が進んだ頃から現れるようになった
乱された磁場が空間を歪め、異世界へとつながる歪みを作ってしまったのかも……

(これはあくまでも作者の個人的妄想です)

でも、時期的なものを見るとある程度の信憑性はあるように思える。

噂が消えた頃に山頂に電波塔が建てられた。
電波塔が建ったおかげで山にあるべき電力、電波が戻り磁場が安定したと考えるのは強引だろうか?

そして、ここからは体験談
2018年の北海道胆振東部地震。この時北海道の電力が全てストップした
もちろん自家発電を用いてすぐに通電した施設もあるにはあったが、道内のほとんどは暗闇に沈んだ
発電機があればテレビを見ることができたので、テレビの電波は届いていたのようだが、街に明かりはなかった。
プラネタリウムのような星空を家の前から眺めることができたのでよく覚えている。
暗い夜空に満天の星。その裾を切り取るように手稲山の影が見えていた。

その翌日はやや雲が増え、青空も霞んで見えた。天気予報のつもりでいつもの様に手稲山を見上げた。

その日は少し雲をかぶっていた手稲山。
水墨画のようにぼんやりと霞んで見える山の中腹に大きな観覧車の輪が薄ぼんやりと見て取れた。
しかし、ちょうど観覧車の真上くらい(少し左手には電波塔の影が並んでいた)山脈の稜線上に同じように大きな観覧車があった。

隣にいた娘も一緒にその光景を眺めている
ただその時は特に違和感も感じることなく
「今日は星が見えないかもねー」
という話をするにとどまっていた。

しかし数日が過ぎ時を重ねるにつれ、あの時の光景が異様なものだと気がついた。

あの観覧車は一体何だったんだろう?

北海道では時折海岸沿いで蜃気楼を見ることができる。
あれもその1種なのだろうか?

他に気がついた人はいなかったのか?

もしかして、ブラックアウトにより周辺を流れる電力がなくなったために、再び磁場の歪みができていたとしたら?

あの時の光景を娘は覚えていないらしい。

作者の記憶違い? 
夢を見ていたのだろうか?

でも確かに見た。作者の中には鮮明な記憶として残っている

2年たった今も答えはわからないまま……

もしまたブラックアウト並みの停電が起こったら手稲山で何かが起こるかもしれない。

ふとそんなことを妄想してしまう。

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