見出し画像

eスポーツのプロ選手のお金はどこから来るのか?

「プロ選手は勝つのが仕事」・・・それって本当?

2020年12月6日、『クラッシュ・ロワイヤル』の公式世界大会『クラロワリーグ世界一決定戦2020』がTeam Queso優勝で幕を閉じ、今年のクラロワリーグの全日程が終了しました。

早くも12月13日には来年2021年シーズンの公式eスポーツの世界体制についての第1弾的な発表があり、2018年から3年続いてきたチームベースの競争から、2021年は個人の戦いへシフトするという大きな変化も予告されました。

来年2021年にクラロワのeスポーツを取り巻く環境が激しく動くことが予想されるいま、発足からこれまでのクラロワリーグ(2018~2020年)について振り返っておくのは大事なことだと思います。

そこで今回は、「eスポーツのプロ選手のお金はどこから来るのか?」と題し、”お金”を切り口にして、クラロワリーグのプロ選手の賞金や給料がどこから来るのか、どんな人たちが周囲にいるおかげでリーグが成り立っているのか、図解も用いて整理していきます。

おそらく社会人の方にとっては「そんな当たり前なことわざわざ言われんでも知っとるわ」な内容になるでしょう。しかし、個人的には社会に出るまでは、こういうことをあまり深く考えたことがありませんでした。クラロワリーグやeスポーツのファンは中高生などの若い方が多いですし、彼らの参考になるのではないかと思って今回丁寧に書いてみることにしました。


プロ選手・プロチーム・プロリーグ

画像1

「eスポーツのプロ選手とお金」と聞いて多くの方が真っ先に頭に浮かべる登場人物は、プロ選手プロチームプロリーグの3者でしょう。プロ選手はプロチームに所属して活動し、プロチームはプロリーグに参戦して公式戦を行ない、勝利すれば賞金を得ます。

リーグによっては勝利時の賞金のほかに、参加チームへ助成金を配布しているところもあります。(クラロワリーグもそうでした)。

”賞金総額XXX万円!”、”優勝賞金XXX万円!”といった威勢のいい金額がたびたび話題になることもあって、「勝利=お金」「プロ選手は勝つのが仕事」と思う人が出てくるのかなと思います。

しかし、プロリーグはプロ選手プロチームプロリーグの3者だけで成り立っている訳ではありません。ほかにどんな利害関係者がいるのか、もう少し見ていきましょう。


◆ ◆

ゲーム会社・ゲームプレイヤー

画像2

eスポーツのプロリーグに一番資金を出して支えているのは、そのゲームの開発・運営会社であることがほとんどです。『クラロワリーグ』で言えば、『クラッシュ・ロワイヤル』の開発・運営をしている『Supercell』という会社がこれに当たります。

彼らゲーム会社は、賞金や助成金などの”表から見えやすい分野”だけでなく、リーグ運営のための人件費や設備費、クリエイティブなどの”表からは見えにくい分野”にも多大な投資をしています。雰囲気のあるセット、豪華な演出、定評のあるキャスター陣、実績のある運営スタッフたち、映像のスペシャリスト... 安い訳がありません。

「ゲーム会社=公式リーグ」と思ってる方もいるかもしれませんし、一概に外れてるとも言えないのですが、区別して考えた方がいいと思います。というのは、昨今のeスポーツ大会やプロリーグは非常に大掛かりだったり、世界中に展開してたりするので、ゲーム会社の得意分野である”ゲーム作り”とは違った分野のパワーが必要になるんですね。そこで、広告代理店イベント運営企業eスポーツ専門会社など、この分野におけるプロフェッショナルがゲーム会社とタッグを組んでリーグを運営していることが多いのです。

クラロワがらみですと、2017年の『クラロワ日本一決定戦』や2018年の『クラロワリーグ』の日本での試合などを手掛けられたウェルプレイド社さんがその具体例になります。


ゲーム会社にとっての本業は、世界中のプレイヤーにゲームを提供し、対価として利益を得るビジネスです。プロリーグ運営というのは、そのための宣伝・拡販という位置づけとなります。

つまり、ゲーム会社にとってのベストシナリオは、プロ選手の活躍やプロリーグの盛り上がりによってプレイヤー人口が増えゲームが盛んに遊ばれることで、リーグに投資した以上のリターンが得られることです。

この観点で最高の働きをするプロ選手とは、「◯◯選手を知ってこのゲームを始めました!」と言われるような存在です。選手にとってもこれほどうれしいコメント、なかなかないですよね。

逆に論外なのは、広告塔たるプロ選手であったり、大きな大会で上位入りし皆の目標にされるトップアマチュアでありながら、ToS(利用規約)に違反する輩です。過去は変えられませんが最低限の”筋”として、表舞台に立ったならば背信行為から足を洗い、襟を正すべきでしょう。


◆ ◆ ◆

ファン

画像3

誰も知らない、誰も見ていないところで世界最高峰の戦いをやったとして、そこに何の価値があるでしょうか?

プロの興行は、観客=ファンがいなければ成立しません。eスポーツの場合、ファンは基本的にそのゲームのプレイヤーです。プロリーグのファンの数が、そのゲームのプレイヤー数を超えることはまずありません。

①そのゲームのプレイヤーに占めるファンの割合を増やすこと。
②そもそもの母数であるプレイヤー人口を増やすこと。

リーグが発展し、チームが続いていくためにはこの両方が大事なのです。

クラロワリーグは試合会場での観戦があっても無料でしたし、Internetのライブ配信も観戦無料でしたが、ゲームタイトルによっては有料のものもあります。有料のライブ配信を見てくれたり、わざわざ足を運び、入場料を払ってまで試合を観戦してくれるファンの存在というのは本当に貴重です。ゲーム会社からの資金頼みのリーグの場合、その存続はゲーム会社の気持ち一つですが、入場料収入でペイできるとすれば基盤がより盤石になる訳です。

ファンとの接点は他にも、チームグッズ販売や、有料イベントへの参加、選手個人のストリームへの投げ銭ファンクラブ加入などが挙げられます。お金が絡まないところでは各種SNSもそうです。チームや選手が駆け出しのうちはリーグからの賞金や助成金に対し微々たる収入かもしれませんが、実績を積み上げブランドが確立していくことで大切な柱に育つのです。

eスポーツの若いファンの方が言いがちなセリフあるあるの1つに、チームのバラエティ的な活動だったり、選手の個人ストリーミングに対して「そんなことやってる暇があったら練習しろよ」というのがありますが、それが見当ちがいであることがこれでお分かりいただけたと思います。

チームの勝利のために日々の練習に全力投球するのもプロ選手の仕事ならば、ファンとの様々な接点で自分たちやゲーム自体を好きになってもらい、リーグやチームを育てていくのもプロ選手の大事な仕事なのです。時間配分のバランスが大事なのは確かですが、そこに優劣はありません。

もう1つのあるあるセリフ「プロ選手は勝つことが全て」についてもファンの存在で説明がつきます。プロにとって勝利という結果は重要ですが、プロゆえに過程手法も大事です。勝利を最優先するあまりにグレーゾーンなやり口やダーティな手法に手を染めた挙句、ファンの支持を失い、あまつさえプレイヤーをそのゲームから離反させるようでは、プロリーグの成り立ちからして本末転倒になってしまいます。

”スポーツマンシップなんぞくそくらえ”という世紀末的ファンに熱意の面でも金銭面でも支えられた特異なeスポーツシーンでもない限り、「勝つことが全て」という言葉には「ただし、スポーツマンシップや暗黙の紳士協定を守り、ファンに支持されるやり方で」という但し書きが付属すると考えるべきでしょう。

ときに尊敬できない勝利よりも、壮絶な敗北の方がファンの心を熱くし、シーンを盛り上げることがある... そこがスポーツの奥深さであります。

”対ファン”という切り口で理想のプロ選手というものを考えるなら、①自分のファン(人数×熱意)を増やし、②自分の所属するチームのファンを増やし、③自分が参加するリーグのファンを増やし、④自分がプレイするゲームのファンを増やし、⑤究極的には非ゲーマーをゲーマーにしてしまう存在ということになるでしょう。息の長いプロ選手はゲーム自体で強いのはもちろんのこと、”対ファン”を強く意識して活動している気がします。


◆ ◆ ◆ ◆

スポンサー

画像4

eスポーツのプロリーグにとって忘れてはならないもう1人の登場人物は、スポンサーです。リーグ・チーム・選手のそれぞれのレベルに存在します。

クラロワリーグは、通常のリーグではあまりスポンサーを集めていなかった印象ですが、毎年末の世界大会『クラロワリーグ世界一決定戦』ではあのGoogle※がメインスポンサーに就き、資金や機材提供をしてくれました。(※2018年、2019年は大会ロゴに「presented by Google Play」と入っているので確実に。2020年に関しては未確認)

画像7

チームのスポンサーは、ユニフォームに入っているロゴでよく目にすることと思います。昨今のeスポーツブームもあって、日本のeスポーツチームにスポンサーとして参入する企業が増えている印象です。海外名門チームのように、名立たる世界的企業のロゴが各チームのユニフォームに並ぶ日もそう遠くないかもしれません。

選手個人へのスポンサーというのは、日本eスポーツ界ではまだあまり見かけません。クラロワリーグで探しても、けんつめし選手(←Red Bullアスリート)、RAD選手(←YouTuberきおきお氏)くらいでしょうか。

ただ、2021年に想いを馳せれば、個人戦が活発になる中で個人スポンサーが増えたり、色々な形の個人支援が模索される年になりそうな予感がします。

スポンサーの出身業界は様々ですが、彼らはeスポーツに何らかの期待をもってお金を出してくれています。その期待に応えることのできたリーグ・チーム・選手は、友好的な関係を長期にわたって築くことができるでしょう。

逆にワーストシナリオを妄想するとすれば、あるプロ選手またはチーム関係者の言動によって、スポンサーの顔に泥を塗った挙句、撤退させてしまう事態ということになるでしょう。これは関係者全員が不幸になります。eスポーツという発達途上な業界全体への悪影響も計り知れません。

人気商売とは言え一社会人。良識ある言動や立ち振る舞いがプロ選手やプロチームには求められますね。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

メディア・新規ユーザー

画像5

eスポーツを取り巻く登場人物の最後に紹介するのは、メディアと新規ユーザーです。

SNSの発達もあって、リーグ・チーム・選手が直接ファンやプレイヤーに情報発信できる時代になりましたが、”増幅装置”としてのメディアの役割は依然として重要です。

陰りを見せていると言っても、TVや新聞のようなマスメディアの影響力と信頼性は今も強いです。ふだんTVや新聞を見ない人でも、自分の好きなゲームや応援しているプロ選手がTVや新聞に取り上げられたって聞いたらうれしくなりますでしょ? そういうことです。また、eスポーツにふだんそれほど関心がなくアンテナを張っていない層(たとえば選手の親御さんなど)に届く意味でもマスメディアの影響力は替えの利くものではありません。

一方で、小さなメディア・個人メディアも侮れません。ファンによるTwitterやInstagramやYouTubeやBlogといった各種SNSを通じて発信される、リーグ・チーム・選手に関する話題やニュースが多ければ多いほど、そのゲームのeスポーツシーンは盛り上がりを見せます。1つ1つは小さい個人の声や力も、たくさん集まればそれはムーブメントとして注目され、大きなメディアやプロジェクトにつながることすらあるのです。

(ファン発のライターとしてのポジショントークをするなら、我らは基本チョロいのでちょっと親切にされたり反応を貰えたりするとすーぐSNSで良く書きたくなってしまいます。リーグ・チーム・選手の方々は、発信好きなファンを大事にするとお得だと思います。ただ”逆”もまた然りな点にはくれぐれもご用心を。基本的に善行より悪行の方がSNSでは拡散されがちなので)

そして、新規ユーザーです。

突き詰めて言えば、ゲーム会社がeスポーツに力を入れる目的は、既存ユーザーを活発化させることと、彼ら新規ユーザーを獲得することです。”ゲームに興味のない層”にリーチするのはハードルが高すぎるとしても、”他ゲームで遊んでるけどこのゲームはやったことない層”をこのゲームへ連れてくるためには、プロ選手の活躍やリーグのドラマチックな試合、そしてそれを伝えるメディアの役割がカギだとみられているのです。

ゲーム会社にしてみれば、eスポーツに多大な投資をしているのにちっともご新規さんが増えていかない...既存ユーザーも活発にならない... という状況に陥った場合、eスポーツ投資を続けていく意味はありませんよね。


eスポーツの試合中継のコメント欄が荒れるのは今に始まったことではありませんが、その何が罪深いかって、選手・出演者視聴者にとって害悪なだけでなく、スポンサーさんやご新規さんまでも遠ざけてしまう点にあります。彼らの言い分は「オレはお客様だ、視聴者様だ。言いたいことを言って何が悪い。プロはやじられてナンボだ、うんぬんかんぬん」ってところでしょうが、まじめに耳を傾ける価値はありません。シンプルに営業妨害ですし、全方位にひたすら迷惑。お帰りはあちら、であります。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

まとめ

画像6

クラロワリーグを念頭に、eスポーツのプロリーグを取り巻く利害関係者にはどんな登場人物たちがいるのか、その関係性はどうなっているのか、について雑談を交えつつここまで整理してきました。

eスポーツのプロ選手のお金はどこから来るのか?
「どういうプロ選手の価値が高いのか?」
「逆に歓迎されないのはどういう言動か?」

などの問いへの答えは、すべてこの関係性の中にあります。

eスポーツは本当に多くの関係者によって成り立っていますし、プロ選手たちの両肩にはそれだけ多くの関係者の期待と希望が託されているのです。

もしあなたがeスポーツのプロ選手だったり、プロ選手を将来の夢として志しているのであれば、高い目標としてぜひ「自分を取り巻く人たちを笑顔にできるようなプロ選手」を目指してほしいと僕は思います。少なくとも、プロ選手となった自分の言動1つが関係者すべてを幸福にもし、不幸にもする影響力を持つことを覚えておいてほしいと思います。

MLBのベーブ・ルース。サッカーのマラドーナ。日本プロ野球の長嶋茂雄。陸上のカール・ルイス。NBAのマイケル・ジョーダン。スポーツ界で歴史にその名を永遠に刻むクラスのスーパースターたちは、とてつもないレベルで周囲を世界を笑顔にしてきました。選手としての現役を引退してなお、彼らの伝説を語り合うだけでファンは幸せな時間を共有できるのです。

eスポーツの世界にもきっといつかそんなスーパースターが現れることでしょう。僕は今40代ですが、出来れば元気なうちにそんな瞬間を目撃できたらいいなあ、とひそかに楽しみにしています。■



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

+ リーグ情報/League Information

クラロワリーグ世界一決定戦(The 2020 Clash Royale League World Finals)
Official HP

クラロワリーグ イースト(Clash Royale League East, CRL East)
Official HP (JP/EN/CN/KR)
Official HP (CN)
HP (KR)
Official Twitter (JP) 
Official YouTube (JP) 
Official YouTube (EN) 
Official YouTube (KR) 
Huya (CN)

クラロワリーグ ウェスト(Clash Royale League West, CRL West)
Official HP (EN/DE/FR/ES/PT)
Official Twitter (EN)
Official Twitter (ES)
Official Twitter (PT)
Official Youtube (EN/ES/PT)


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


Good luck!



※余談。今回の見出し画像は、こないだnote公式が紹介してたCanvaで作りました。初めてでも簡単にいい感じに作れて、満足度高かったです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?