第24回 信頼できないインフルエンサー

無知であれば、ある事件から生じる『risk』の存在に気付くことはできません。
そして、そのインフルエンサーが最初から無知だと分かっていれば、周囲にいる誰もその人の『risk management』が正しいとは考えず、無視することができます。
しかしそのインフルエンサーが、普段から優秀だと認知されていたらどうでしょうか!?
果たして、その人が行う『risk management』が間違っているということに気づくことが出来るでしょうか・・・・。

『risk management』の最初の頃の話を思い出してみて下さい。
あるトラブルの元になる事件は、広く全ての人に対して平等に発生します。
しかし、その人自身が身に付けている能力等で、その事件から生じる『risk』の度合いが大きく変わります。

ある人にとっては、『return』も何も得られない単なる『danger』になります。
ある人にとっては、『hedge』が必要になる『high-risk』になります。
またある人にとっては、『hedge』の要らない『low-risk』になります。
そして、またある人にとっては、全く気にする必要のない『safety』になります。

一般的なレベルの事件であれば、その優秀とされる人にとっては『safety』や『low-risk』になることが多いです。
優秀と思われているのだから、当然のことです。
だからと言って、こういう人が、全ての問題に対処できるとは限りません。
と言うより、対処できないと考えることの方が正しいのです。
誰でも得意、不得意があり、ある分野に秀でているのであれば、他の分野では劣っていることの方が多いからです。

ここに、ファッションのインフルエンサーとして、若者から絶大な支持を得ている女性がいとします。
ファッションに関する限り、彼女の先を見通す目は正しいです。
そうでなければ、多くの人から支持される訳がないからです。
だからと言って、ファッション以外の分野でも彼女の見通しが正しいかどうかは分からない。
それなのに、彼女にファッション以外の分野の意見を求める。
彼女は思うだろう・・・。
あたしは、この分野のことは分からないと・・・・。

そうなると、彼女は自分で判断できなくなる。
彼女を支持する民衆と立場的に同じになる。
だから彼女は、自分が支持する人の意見を参考にする。
その多くは、当たり障りのない一般大衆受けする意見に収束することになってしまう。

テレビでは、多くのコメンテーターが活動しています。
若い世代を代表しているという理由で、若いタレントが起用されることも少なくありません。
民主主義であることから、若い世代から代表者を募ることは良いことです。
しかし、その選ばれた人が、ある程度の『risk management』が出来る能力を備えていないと、話にならないというのが現実です。

若くて有名だからと言うだけで、若い世代を代表させる。
だからと言って、服装に無頓着な若者に、ファッションのコメントを求めたりはしない。
ジャンクフード好きな若者に、精進料理のコメントを求めたりはしない。
それは、なぜか・・・・。
その若者の意見が正しいと、多くの視聴者が認識しないからにほかなりません。
認識して貰えなければ、番組を見てくれなくなってしまいます。

このことは、2000年以上前の時代に、韓非子が嘆いています。

誰でも、料理人を雇うとすれば、料理が上手な人を選ぶだろう。
料理の腕は関係なく、ただ知り合いだと言う理由だけで料理人を選ぶ人はいないだろう。
ところが政治を考えればどうだろうか!?
宰相を選ぶのに、政治の上手下手は二の次だ。
まずは、知り合いかどうかという個人的関係で選ばれる。
政治は、料理より重要ではないのだろうか!?

本来、政治ほど、確かな『risk management』を必要としている分野はありません。
それは、グループの『risk management』が発達した形態を政治と言うからです。
ところが、今の政治家に求められる資質は、『risk management』が出来る云々は、二の次となっています。
それは、選ぶ側が選挙で、『risk management』が出来るかどうかで、投票先を選んでいる人が殆どいないからです。

多くの人は、知名度と政党だけで投票先を選びます。
知名度とは、インフルエンサーかどうかというだけであり、その分野のことは何も考えない。
それこそ、スポーツ選手、歌手、タレント等々、全く違う分野でも、有名というだけで票が集まるのが現実です。

その人たちが、広く『risk management』出来るのであれば、問題ありません。
しかし、多くの場合は、専門分野に特化していて、『risk management』という言葉さえ理解できていないことが多いです。
そういう人が、代表に選ばれればどうなるか・・・・。
考えるまでもなく、何の判断もできず、ただ世界の潮流に流されることしかできない状況になってしまいます。
今の日本が、まさにその状況になっているのです。

そして、企業でも、この傾向はあります。
日本企業では、サラリーマン社長が多く、経営者は少ないと言われています。
なぜなら、年功序列で、社長にまで上り詰めた人が多いからです。
そんな社長でも、経営者としての能力が高ければ問題ありません。
ところが現実は、そんな能力を持ち合わせていない人が殆どです。

なぜなら、年功序列の企業では、経営的視点を持っていては、簡単には出世できないからです。
出る杭は打たれるの例の如く、途中で脱落させられるからです。
出世するのは、当然ながら、上司に可愛がられる人です。
上司も人間ですから、自分の意見に従う人が可愛いに決まっています。
つまり、サラリーマン社長は、上司に可愛がられ続けた人ということになるのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?