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第81回 公定歩合と企業

日米の金利差が問題になって久しいこの頃です。
この7月末には日銀も、とうとう利上げに動くのではないかという観測が出てきています。
低金利に慣れた日本人にとって、金利上昇は未曽有の災害に匹敵することになると思います。
なぜなら、今の日本人の多くが、金利の効果を全く理解していないからです。

日銀は、既に量的緩和を終了させています。
イールドカーブコントロールも実質的に終了しており、長期金利は上昇傾向にあります。
ですから、次は短期金利です。
短期金利の上昇が始まったら、名実ともに日本は次の段階に一歩を踏み出したことになります。

公定歩合が上がれば、市中銀行の金利も上がります。
既に、定期預金などの金利は、若干ながら上昇しています。
そして、当然のことながら、国債金利も上昇します。
が、この国債金利の上昇は、日本にとっては自殺行為に他ならないのです。

例えば、あなたが金利1%の30年物国債を100万円分買ったとします。
100万円の1%なので、毎年1万円の利息を30年間、合計30万円受け取れます。
そして、満期になった30年後には、100万円が手元に戻ってきます。
つまり、計算式にしたら、下記の通りになります。

1万円 × 30年 + 100万円 = 130万円

国債への投資は、「no-risk」のように見えますが、そうではありません。
実際は「機会損失」という「risk」があるため、「low-risk」と考えるべきです。
「機会損失」というのは、資金拘束のことです。
30年国債を100万円分買うということは、100万円を30年間自由に遣えないことを意味するからです。
ですから、金利1%で国債が発行され続けている場合は、残存期間が短い国債の方が、若干ながら価格が上昇します。
これは、期間が徒過するに応じて、「機会損失」という「risk」が逓減するからです。

また、金融機関は、この「機会損失」に対するロイヤリティとして、投資期間が長ければ長い商品ほど、金利を高く設定します。
ですから、30年物国債の金利が1%なら、通常の1年物の定期預金などの金利は0.2%程度だと予想できます。
ここで分かりやすく、金利1%の30年物国債の残存期間1年と比較してみましょう。

【国  債】 1万円 × 1年 + 100万円 = 101万  円
【定期預金】 2千円 × 1年 + 100万円 = 100万2千円

100万円の国債ですが、1年後には元利合わせて101万円受け取れます。
一方の定期預金は、100万2千円です。
つまり、残存期間1年の国債を買いたい人からすれば、額面100万円であっても、1年後に101万円手に入るのですから、額面超えの100万5千円で買って、市中金利よりも高い利回りが確保できる訳です。
金利が同じ状況でも、額面超えの売買が成立するのは、このためです。

ところが1年後、長期金利が上がって、金利2%の30年物国債が発行されるようになったとします。
100万円の2%なので、毎年2万円の利息を30年間、合計60万円受け取れます。
つまり、計算式にしたら、下記の通りになります。

2万円 × 30年 + 100万円 = 160万円

1年前に買った国債は、以下の通りです。

1万円 × 29年 + 100万円 = 129万円

資金拘束が30年と29年では、余り変わらないでしょう。
1年前の金利1%の国債を買った人は多少損をしても、今年の金利2%の国債を買い直したいはずです。
例えば、15万円の損をして、85万円で売れたとして、その代金で今年の国債を買い直したとします。

1.6万円 × 30年 +  85万円 = 136万円

このように、1年余計にかかりますが、最初に15万円の損失を出しても買い直した方が、7万円分の利益増を確保できるのです。
言い換えれば、この時の1年前の金利1%の国債の時価は、85万円に値下がりしたことになるのです。

こうなると、1年以上前に買った国債は、会計上評価額を全て100万円から85万円に変更して、計上し直さなければなりません。
満期まで持っていれば100万円戻ってくるのに、時価では85万円にしかならないというのは理不尽だという意見もありますが、時価会計とはそういうものです。
つまり、機会損失の影響は、それほど大きい訳です。

この国債を1兆円分持っていたとしましょう。
すると、時価は8,500億円になり、1,500億円もの特損が発生したことになります。
日本の国債は236兆円ほど発行されているので、保有者全体で35兆円以上の特損を発生させることになるのです。
この特損計上に耐えられない企業は、自己資本比率がマイナスになり、終には倒産となってしまうでしょう。

また、このことは、日本政府にも同じだけの問題が降りかかってきます。
なぜなら、今と同額の水準の国債を発行し続けるなら、期限が来た国債と同額の国債を新たに発行しなければなりません。
この時、発行する金利は、当然1%→2%になるので、政府も将来的に上昇分の金利を負担しなければならなくなるからです。
ですから、もう20年ほど前から、日本国債の金利は2%を超えられないと言われてきました。
なぜなら、国債の金利の支払いだけで、日本の税収がパンクすることになるからです。


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