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短編小説集

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蕪木オリジナルの短編小説をまとめました!あとがきのあるものはあとがきも入っています。
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#足音

【短編小説】奇妙な落とし物(後編)

【短編小説】奇妙な落とし物(後編)

私が妊娠したのを機に、松田家は一戸建てに引っ越すことになった。
本当は出産前に引っ越したかったが、想像以上に家探しが難航してしまい、最終的に引っ越しが完了したのは、息子の隼人が1歳の誕生日を迎える頃だった。

生まれたばかりの子どもとのマンション生活は、精神衛生上よくはなかった。
子どもが泣く度に近所迷惑になっていないかを考え、泣き止ませようと必死になっていた。
当時は、こちらがどれだけ必死になっ

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【短編小説】奇妙な落とし物(中編)

【短編小説】奇妙な落とし物(中編)

それから数日後。
近所のスーパーから戻ってマンションに着いた時、集合玄関機の前で大家さんに声をかけられた。

「松田さん、先日はタオルを拾ってくださってありがとうね。205号室の佐野さんが落とされたみたいで、問い合わせがあったよ」

上の階の人はどうやら佐野さんと言うらしい。
郵便受けに貼ってある表札代わりの札を見れば分かることだが、そういえば一度も確認したことはなかった。

「ああ、それと子ども

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【短編小説】奇妙な落とし物(前編)

【短編小説】奇妙な落とし物(前編)

このマンションの105号室に越して来て、2年が過ぎようとしていた。
にも関わらず、私たちにはまだ知らないことがあった。
上の階にどんな方が住んでいるのか、ということだ。

逆に知っていることもある。
105号室のちょうど真上である205号室には、少なくとも3人が住んでいる、ということだ。

このマンションは壁が厚いようで、両隣ともそれほどノイズはない。
一方、天井からはよく音が響いてきて、この2年

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