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蕪木 夏芽
2022年6月3日 07:29
私が妊娠したのを機に、松田家は一戸建てに引っ越すことになった。本当は出産前に引っ越したかったが、想像以上に家探しが難航してしまい、最終的に引っ越しが完了したのは、息子の隼人が1歳の誕生日を迎える頃だった。生まれたばかりの子どもとのマンション生活は、精神衛生上よくはなかった。子どもが泣く度に近所迷惑になっていないかを考え、泣き止ませようと必死になっていた。当時は、こちらがどれだけ必死になっ
2022年6月2日 08:03
それから数日後。近所のスーパーから戻ってマンションに着いた時、集合玄関機の前で大家さんに声をかけられた。「松田さん、先日はタオルを拾ってくださってありがとうね。205号室の佐野さんが落とされたみたいで、問い合わせがあったよ」上の階の人はどうやら佐野さんと言うらしい。郵便受けに貼ってある表札代わりの札を見れば分かることだが、そういえば一度も確認したことはなかった。「ああ、それと子ども
2022年6月1日 08:03
このマンションの105号室に越して来て、2年が過ぎようとしていた。にも関わらず、私たちにはまだ知らないことがあった。上の階にどんな方が住んでいるのか、ということだ。逆に知っていることもある。105号室のちょうど真上である205号室には、少なくとも3人が住んでいる、ということだ。このマンションは壁が厚いようで、両隣ともそれほどノイズはない。一方、天井からはよく音が響いてきて、この2年