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【エッセイ】アラクノフォビアの前世

私はアラクノフォビアだ。クモ恐怖症のことである。

どんなに小さなクモでも見かけると背筋がゾーッとする。家で目にすると奇声を上げてしまうので、近所の人に「隣にヤベー奴住んでる」なんて思われていないか心配になるぐらいだ。
こういうことを言うと「なんかトラウマになる出来事があったんだ」と決めつけてくる人もいるが、とくに思い当たる節はない。クモをクモとして認識し始めた時期から私はクモが苦手だ。

とにかく本能が恐怖している。そうとしか言いようがない。


ただ、少し前に一度、クモに食べられる虫を目撃したことがある。
巣に向かって飛んでいった羽虫がおり、クモは一目散にそちらへ向かい、あっという間に平らげてしまった。
知識として知っていても、実際に巣にかかった虫が食べられるのを目の当たりにするのは初めてで、正直に言って少し感動した。知識として知っているだけのことと、目にすることとは全く違う気持ちになる。恐怖しているはずのクモに、そんな気持ちを抱くとは思わなかった。

クモ恐怖症にはもしかしたら私の前世が関係しているのかもしれない、と考えていた。
私の前世はもしかしたら、たいへん小さな羽虫で、クモの巣にかかって食べられたのかもしれない。
そう考えるとどんなに小さいクモにでも恐怖することに納得がいった。恐らくクモより小さい虫だった頃の名残りなのだ。

しかし実際にそうした場面を見た私は感動してしまった。もっと恐怖してもよさそうなものだが。
この前世説の他に、クモ恐怖症に納得いく理屈が思い付かないので、前世説が覆ってしまうのはちょっと困る。
ムリヤリ理屈付けるなら、虫が食べられるのを見て「前世の最期がこんな感じだったらクモ恐怖症にもなる」と納得できたからかもしれない。そうだ、よし、そう考えよう。
次に転生する時は、どうかクモと縁のない生き物でありますように。

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