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The short story : 居場所

 しばらく放浪したのち、この場所を見つけた。一日かけて網を張った。完成してすぐに小さな蛾が引っかかった。自分のカンが当たったと、喜んだ△

Mは自転車のロックに鍵を差し、開錠するとすぐさまスタンドにケリを入れた。自転車の高さが変わると、右側のハンドルが何かを引っ張っていることに気がついた。細い糸が数本、グリップのところにくっ付いている。視線を斜め上に展開すると、そこに蜘蛛の巣があった△

グリップの裏側でまどろんでいた小柄な蜘蛛は、突然の衝撃に驚いた。何が起きたのだろう? チョロっと顔を上げて巣の状態を確認した。大丈夫だ、糸はどこも切れていない。しかし細かい振動が伝わってくる。これは何だろう△

「何日か乗らないだけで、クモが巣を張るわけ?」すぐにその蜘蛛の巣を払ってしまおうと思った。でもよく見ると張りたてなのか、縦横に張り渡した糸はどこも切れておらず、つやつやとして綺麗な造詣をしている。右手が躊躇する。けれどここで情けをかけていてはアルバイトに遅刻する△

蜘蛛は動かず、成り行きを窺っていた。すると、自分の巣が端から剥がれるように壊れ始めた。せっかく綺麗に作ったのに…△

Mはなるべく丁寧にしたつもりだったが、蜘蛛の巣は絡まってしまった。ごめんと心の中で謝りながら自転車を外に出した。蜘蛛は事態を呑み込めないまま、自転車のグリップの端でじっとしている。次はMの行き先で、新たな居場所を見つけるのかもしれない。

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これより上は、天声人語のルール(603字/6段落)に沿って書いてみる、に勝手にただ今挑戦しています。お読み下さり、ありがとうございました^^!

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