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ライター歴:-4年3カ月『2016年秋』【エッセイ】30歳中卒男が4年がかりでシナリオライターになるまで

脚本の書き方を学んで、シナリオライターとしての道を歩もうと心に決めた私。
だがただちにその目論見は暗礁に乗り上げることとなった。
本を読み、ネットの記事を漁っても、まったくノウハウが頭に入ってこないのだ。

「やっぱ俺は独学に向いていないんだな」

これまで挑戦してきたプログラミング、3DCG、イラスト、漫画、アウトドアスポーツ……どれも独学では成立しなかった。

「信頼できる学校や先生が必要だ」

ということで早速、脚本の書き方を教えてくれる学校を探すことにした。
ネットで検索して目についた学校の資料を片っ端から請求する。

(また学校に通える……)

不本意な形で高校を中途退学して、早十年。
これを機に失われた青春を取り戻せるのではと、内心浮足が立っていた。

(同じ道を志す仲間がいて、一緒に競い合って、夢を叶え合う……なんて素敵な時間だろう)

復学……私はその機会を長年待ち望んでいた。
私はウキウキとした気分で学校の見学会へと申し込んだ。
最初に訪ねたのは、全国各地に広く展開し、テレビCMをよく目にする有名な学校だった。
卒業生の進学先として、大手のゲーム会社が記載されている。

「これは期待が持てそうだな」

当時の私は、シナリオライターになるにはゲーム会社などの大手企業に所属するしか方法はないと思い込んでいた。
もしもゲーム会社に就職できたのなら、生活の安定はもとより、幼い頃の夢を叶えることにも繋がる。
なんたって日本のRPGが急速に発展した90年代に少年時代を過ごしたのだから。
物語を書きたい、その道で食べていきたいと思うようになったのは、明らかにファイナルファンタジーなどによる影響からだった。

「幼い頃からの夢を絶対に掴んでみせるぞ!」

私は意気揚々と学校見学会へと臨んだ。
その学校は大阪の一等地のビルを丸ごと借り上げており、プログラミングからCG、動画制作や声優・俳優の養成など多岐にわたるコースを展開していた。
ちょうどオープンキャンパスのような催しが行われており、さながら高校の学園祭のような雰囲気を醸し出していた。
ティーンネイジャーが行き交う中、三十路の私は気おくれしつつシナリオの模擬講義を行う教室を目指す。
教室は40名ほどが収容できる広さで、設備はどれも新しく清潔だった。
その片隅に二十名ほどの生徒が車座になって、一人ずつ順番に作品を発表し合っている。
一つの作品を聴き終えるごとに講師がレビューを行う。
生徒は講師の放つ言葉に耳を傾け、丁寧にメモを取っていく。
見学者である私は教室の壁際に佇み、静かに授業の光景を眺めていた。
4,5名の作品の発表と講評を終えた頃にチャイムが鳴り、模擬授業は終了した。
生徒たちは直ちに蜘蛛の子を散らすように解散していった。

(……これが、授業?)

想像していた授業とかなりかけ離れていた。
私は教室を去ろうとする講師に声をかける。

「あの……ちょっとすみません」
「はい、なんでしょうか?」
「授業の内容に関してお伺いしてもよろしいですか?」
「かまいませんよ」
「このクラスでは教科書は使わないんですね?」
「そうですね。この学科では使いません」
「シナリオの技法とかノウハウとか法則とかを勉強するものと思っていたんですが……」
「入学したら最初にサラッと説明するけど、あとは実践あるのみですね」
「では今回の授業みたいに、生徒たちの作品を批評するのがメインってことですか?」
「そうですよ。このクラスは週一日開催だから、毎週生徒に作品を書いて来てもらって、それを発表して、どこを改善した方が良いかを指導するのがメインです。まあ、生徒全員が毎週作品を書いてくるわけではないんですけど」
「それで毎月6万円ですか……」

思わず口が滑ったことに気がついた私は、慌てて講師に頭を下げて教室を退散した。
専門学校なので毎月6万円ぐらいの授業料は当然覚悟していた。
だがその内容は週に1、2時間、教室の隅に固まって、作品のアドバイスをもらうだけ。

(こんなことで6万円も取るのか? 俺のバイト代一週間分以上じゃないか)

しかしながらこの授業を受けていれば本当にシナリオライターとして就職できるのであれば決して高くはない自己投資である。
だがこの授業の内容で、私がいくら努力したとしても、ゲーム会社に就職できるとはとても思えなかった。

(まず、どの生徒の作品もしょうもなかったな……どこかで聞いたラノベやゲームの二番煎じのような気がして。何度あくびをかみ殺したかわかんなかった)

そのうえ、この学校では在籍期間が設けられていた。
通常で1年間。延長を申請して最長2年間在籍できるらしい。

(一度しか脚本を書いた事のない自分がたった1,2年で成果を出せるとは思えないな)

三十路のうえ業界未経験者の私にとって、シナリオライターとしてゲーム会社に就職するのは至難の業だ。
おそらく、ライトノベルのコンテストで受賞するなどの相当な実績がないと叶わないだろう。

(そもそも、この授業内容でゲーム会社に就職できた人がいるって、本当か?)

改めてパンフレットの進路実績欄を読み返すと、一昨年の卒業生まで含めていたことが判明した。
なるほど、一年間に20名ほどの生徒が入学したなら、三年間で60名ほど。
60人に1人か2人なら、たしかに輩出できたとしても不思議ではない。

(とにかく、ここに入学するのは辞めておこう)

パンフレットに記載されない卒業生のことを考えると、ここで博打を打つ気にはなれなかった。
だがその後も信頼できる学校を探して方々を訪ねるも、なかなかしっくりくるところは見つからない。
そのうちに誕生日が過ぎ、20代最後の年が始まった。

※本記事と合わせてご覧いただきたいのは、
『独学でシナリオを学ぶ際のオススメの教本』という記事です。
時間や金銭的な都合等で脚本家やシナリオライターの養成学校に通えない方たちに向けて、業界人必見の優れた解説書をご紹介しています。
期間限定で無料公開しておりますので、ぜひこの機会にご一読いただけると幸いです。

独学でシナリオを学ぶ際のオススメの教本

本シリーズの私は独学を断念し、脚本家の養成学校や専門学校を頼ることにしました。
ですが読者の中には、様々な事情からそういった機会に通えない方もいることでしょう。
今回のコラムでは独学でシナリオを学ぶ方にオススメの本をいくつか紹介いたします。
合う、合わないがございますので、実際にお手に取って確かめてみてください。

①『シナリオの基礎技術』著者:新井一

身内びいきが過ぎるかもしれませんが、私が通っていたシナリオセンターの推奨する教本です。
著者は同センターの開設者であり、日本における脚本家養成のパイオニア的存在として知られています。
本書では主に映画やテレビドラマで培われたノウハウが記載されています。初版が1985年なので、正直古臭さがいなめませんが、内容はどの媒体にも通用する普遍的で基礎的な知識やテクニックが示されています。
万人にオススメするわけではありませんが、選択肢の一つとしてご検討いただければと思います。

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②『Save the Cat の法則』著者:ブレイク・スナイダー

本書はハリウッド式の作劇法を解説したものとしてあまりに有名な著作です。
全ライター必見の書と言っても差支えないと思っています。
三幕構成などの構成法や魅力的なキャラクターの作り方など、作劇における基本中の基本が著されているとのこと。
一読しておかないとライターとして恥ずかしいとさえいえる本なので、ぜひお手に取ってみては?(私はまだ読んでいませんが)

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③『おもしろいゲームシナリオの作り方』著作:Josiah Lebowitz , Chris Klug

個人的に実践でかなり役に立った本です。
ゲームシナリオに特化した解説書で、実際のゲーム作品をふんだんに引き合いに出しつつ作劇法を解説しています。
(海外の本ですが、ファイナルファンタジーやメタルギアソリッドなどの日本のゲームがよく引き合いに出されていて、読んでいてとても楽しいです)
特に役に立ったのは、『ライターズジャーニー』というフレームワークの解説です。
ライターズジャーニーとは時代や文化を越えて人の心をつかむ物語の流れ(構成)のこと。
本書でこの理論に巡り合って以降、どの作品に触れてもこの理論をもとに解析するようになりました。
他にも古典的なキャラクター類型の解説や、プレイヤーが自ら選択して進行させるゲームシナリオならではの制作時の注意点など、目から鱗の知見が掲載されています。
ですが内容の多くがテクニックの紹介やケーススタディに終始しており、本書を読んだだけで脚本を書けるようになるとは私は思えません。
ある程度基礎固めが終えてから二番目に読む本としては良書だと思います。

※ちなみに『ライターズ・ジャーニー』という概念は本書オリジナルではなく、クリストファー・ボクラー氏が別の著作で解説したものです。しかもその概念は、『ヒーローズ・ジャーニー』という別の概念が素になっています。こちらはジョーゼフ・キャンベル氏が『千の顔を持つ英雄』で明らかにした理論です。ご興味のある方は合わせてどうぞ。

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④『ゲームシナリオ入門』著作:北岡雄一郎

こちらは大阪のシナリオ制作会社である株式会社レプトンの取締役が著したものです。
私は本書をちょろっとしか読んでいないのですが(おい)日本のゲームに求められるシナリオに最適化された内容なので、ゲームシナリオライターを目指す方が手に取るには最も相応しい教本かと思います。
私も今後、ぼちぼちと読み進めていくつもりです。

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以上となります。
他にもオススメの教本や解説書があればぜひお聞かせください。
共に学んでまいりましょう。

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