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エブリシング・エブリウェア・オール・圧倒的

冴えない中年主婦が大活躍するなんて聞いたら、アカデミー賞は置いといても、同じく冴えない中年主婦として観ないわけにはいかないじゃん!
しかも、優しいだけで頼りにならない夫だと? 
やっぱり観ないわけにはいかないじゃんよ!!

ということで、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観てきました。

あらすじはこんな感じ。(以下ネタバレ含)

経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。
まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!
カンフーの達人の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、闘いに挑むのだが、
なんと、巨悪の正体は娘のジョイだった…!

公式サイトhttps://gaga.ne.jp/eeaao/


『エブエブ』で主人公名がエヴリンになるんなら、日本語で言えば『毎度毎度』の「まいどん」とか「毎さん」みたいな感覚なのかしら?(多分チガウ)

人生の分岐点において、いつも「失敗」の方を選び続けてきたエヴリン。
例えば右が「成功」の道だったとすれば、ことごとく左ばかりを選んできたわけですよ。
すぐあきらめる。長続きしない。不平ばっかり。
分岐の数だけ並行世界が存在するマルチバースの中で、全エヴリン中で最も冴えない人生を送っている冴えないクィーンのエヴリンが、全世界を救う者としてなぜか選ばれてしまう。

とにかく設定が突飛でおバカ!
自分が選ばなかった他の並行世界に飛ぶことによって、エヴリンは違う自分の人生を追体験して力を習得し、強くなっていく。
でもその発動条件として、なるべく「変なこと」をしなきゃならないもんだから、シリアスになるはずの戦いに笑いが生まれてしまうのよ。
ここら辺は敵も同じで、発動条件のじゃまをしたり強い技をゲットしたりというところがゲームみたいで小気味良かった。
並行世界のバリエーションも豊富!
エヴリンが人外になってる世界もあったりして、見応えがありました。


カオス状態をよく表現しているナイスなチラシ絵


でも設定のおもしろさももちろんなんだけど、私にとっては中年という年代をリアルに描いている点が、ことさら刺さってしまった。
中年って、響きは好きじゃないしひとまとめにしちゃうのもどうかと思うけど、中途半端なこの年代だかからこその悩みがあるじゃない?
それをうまく表してくれてるなぁと共感しました。
青春時代や思春期、老後を描いた作品は多いのに、この年代のヒロインって少ないでしょ? もっと増えてくれたらいいのに! 
需要あるよ(私に)!

無邪気で無責任な万能感を保てるほど若くないし、達観するには早すぎる。
やれなかったことへの後悔や未練はワンサカ増えていくのに、じゃあ今からでもやればいいじゃん! と言われても簡単にやれるジャンプ力はない。
だって、時間が、お金が、才能がないもの!
今から変わるのなんて無理無理!

自信がないくせに、自分の考え方には頑固になりがちなのよね(ワカルー!)。
そしてそれが、子どもや夫や自分自身との付き合い方をイビツにしてしまう。
良かれと思ってやってることが裏目に出たりして。
そんな、家族との距離の取り方をこじらせている描写にすごく自分を重ねてしまった。

特にエヴリンと娘・ジョイとの関係。
育児って、ときに空しくて報われないことがあるじゃない?
子の幸せを願うからこその意見・アクションなわけだけど、それがいつでも子どもにドンピシャなわけじゃない。
空回りしたり疎まれたりすることもしょっちゅう。
母としての祈りが、子どもにとっての呪いや枷になりかねない怖さや悲しさ。
私も思い当たることが大いにあるもの。

ジョイは同性愛者。
エヴリンは表立って反対していないものの、古風な自分の父に対してはいつも顔色をうかがって、ジョイをないがしろにするようなことも言ってしまう。
傷ついたジョイは、結果として宇宙を揺るがす巨悪な存在になってしまい、悪虐の限りを尽くし、執拗にエヴリンを追い詰める。
だけど泣かせるのは、ジョイの目的はエヴリンの抹殺ではないこと。
どこの世界にいたって、ジョイはエヴリンを探し出すんだ。
それが、私をみて! 理解して! と言ってるようで泣けるんだ。

育児でいちばん難しいなと私が感じているのが、大きくなった子の手を離すタイミング。ある一時期を過ぎると、子ども時代の育児からチェンジしなきゃならない時が来る。
今までと同じ接し方だと過保護になってしまう。でも距離を取ればいいってもんじゃないのよね。
物理的・精神的にまだ手のかかる部分もあるし、無関心でいたいわけじゃない。
もーいったいどこで線を引いたらいいの?

あなたのことは大事! 
でもこちらも接し方のバランスがわからないんだ!
私も心の中で子どもに叫ぶことがある。
同じように悩んでるんだよー、エヴリン!

マルチバースを旅する中で、エヴリンは過去の自分の選択と向き合う。
自分の価値観をセーブする元凶だった父親とも対峙し、頼りないとナメくさっていた夫からは自分にない深い優しさを学ぶ。
そしてその全てを己の力としてまとっていく。

そうだ。
中年は後悔も多いけど、学ぶべき過去のストックだってちゃんと持ってるんだ。
私たちはマルチバースを行き来することはできないけれど、過去から学び、何度だってやり直せる。
自分の力が足りないときは、周りと力を合わせることだって知っている。
それをエヴリンのように味方にして未来に繋げられたら、なんて豊かなことだろうね。

エヴリンはこれからもドタバタ生きていくんだろうな。
うまくいかないことだってあるだろうし、後悔だってなくならないでしょう。
でも、あきらめないでジョイをちゃんと抱きしめられるようになったあなただから、きっと大丈夫よね。

え、中年最高じゃん?
中年ゆえの可能性を信じさせてくれる映画でした。

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