解説するのと教えるのは、本質的にちがう
教えるのではなくて解説している
Udemyにはたくさんの動画コースが出品されている。
私もかなりコースを買ったことがあるが、その中でもソフトウェアの使い方を教えるコースは、あまり完走した記憶がない。
もちろん、差し迫った必要があって買ったというわけではないこともあるが、そもそも教え方が良くないという思いがある。
それらの動画コースの作者は、たぶん対象であるソフトウェアを使いこなしているのだと思う。
また、これは想像でしかないが、動画コースを作るにあたってマニュアルの細部まで読み返し、細かい機能まで理解した上で臨んだのだろう。
だが、その教え方の「構成」がよくない。
というか、教えるのではなくて、ソフトウェアの機能について「解説している」
そのソフトウェアをはじめて使う初心者からしてみると、その情報量の多さに辟易するような感がある。
教えるというのは、相手のことを推し量ること
えてして、上級者が初心者に教える際には、とにかく細部まで教えたがる。
初心者の目的というのは、そのソフトウェアを使えるようになりたい、ということだ。
ただこの「使えるように」というのは、初心者それぞれ目的があって、その目的が達せれば十分なのだ。
しかし上級者になればなるほど、普段はあまり使うことのない細かい機能まで教えたがる。
だから私は、上級者が初心者を直接教えるべきではない、とさえ思う。
初心者を教えるのは中級者くらいがちょうどよい。
それは中級者ならまだかろうじて初心者だった頃のことを覚えているからだ。
初心者に多すぎる情報量を与えると、やる気をそぐ。
また、もうひとつ大切なことは「ひとつ出来ることが増えた」という「小さな達成感」を感じさせることだ。
少しずつ「出来ることが増えていく」という感覚が、初心者を成長させる。
例)動画編集ソフトの動画教材なら、こう作る
だから、いちばん最初はごく少ない機能だけを伝えて、「これができるようになった」という達成感を感じてもらう。
そして何パスも繰り返しながら、だんだん出来ることが増えていくようにすると、毎回達成感を感じながら、学習が進んでいく。
もし私が動画編集ソフトのチュートリアルを作るとしたら、こう作るだろう。
準備編 とにかく動かせるようにする
ソフトのダウンロードやインストールのやり方を見せる。
この教材は少しずつ出来ることが増えていくように作られているから、見るだけではなく一緒に手を動かしながら学んでほしい、と伝えておく。
ソフトの画面の見方など、基本的なところを確認する。
1パスめ 最低限の編集ができるようにする
1回めのチュートリアルは、動画編集の流れを把握してもらうことが狙いだ。だから、ごくごく基本的な動作だけを伝える。
動画編集であれば、
素材の取り込みを体験させる
タイムラインへの配置を体験させる
トリミングなどの仕方を体験させる
タイトルや音楽などを追加するやり方を体験させる
動画ファイルの出力を体験させる
という一連の流れを伝えて、いったん締める。
この段階で「とにかく動画編集ができた!」という達成感を感じてもらうわけだ。
2パスめ 基本的な編集機能を理解させる
1パスめでは省略した、細かい機能を理解してもらう。
たとえば、タイムラインの操作であれば、編集点間の移動やフレーム単位での編集など、日常的に編集動作で使う操作を紹介する。
と同時に、1パスめではさらっと紹介した機能にも、さまざまな設定や、変更ができることを伝える。
2パスめからは「何を編集するか」も大切だ。
最初に「こういう動画を編集する」と完成動画を見せ、それを作成する過程を追体験してもらう。
3パスめ 比較的高度な編集機能を理解させる
本当の初心者には、この3パスめは不必要かもしれない。
2パスめまでで、ふつうの動画編集は実行可能になっているからだ。
セクションの最初に、「ある程度動画編集に慣れてからこのセクションを履修したほうがよい」という但し書きを置いたほうがよいかもしれない。
このセクションでは、さまざまな編集局面で実行可能な、ちょっと高度な機能を紹介していく。
高度なテクニックを用いた動画を完成サンプルとして最初に見せ、それを作成していく過程を見せるというやり方がいい。
ここまで進んできた受講生は基本的なプロセスは理解しているはず。
基本動作には言及せずに、ポイントポイントで機能解説していくことで十分だ。
これは初心者を中級者にステップアップさせるプロセスだ。
リファレンス 解説しきれなかった機能を網羅的に紹介
ここまで進んできても、まだ解説できなかった機能が残っているはず。
これらの機能は、日常の編集業務では使われる機会の少ないもののはずだ。
だから、解説は放棄しても差し支えないのだが、解説するなら、機能中心の構成でよい。
もしくは、「◯◯するにはこの機能を使う」という逆引き形式で解説する手段もある。
おそらく、ここは必要に迫られた時にのみ参照される、リファレンス的なパートになるはずだ。
受講生を「成長させる」ことが動画教材の目的
「解説する」というのは、相手も同等の能力が身についている際には有効だ。たとえば、他の動画編集ソフトに習熟している相手に対して、このソフトの機能を伝える場合は、「教える」動画より「解説する」動画のほうが適している。
いっぽうで「教える動画」つまり動画教材の場合は、受講生がそれを履修することで「成長」できるようにすることが大切だ。
「出来なかったことが出来るようになる」ということが目的だから、一度に多すぎる情報を与えるのは厳につつしんだほうがよい。
相手が情報を咀嚼しながら、少しずつ成長してくれる。
そのステージごとに、小さな達成感を感じてくれる。
そのように動画教材を作れば、間違いない。
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