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対話をつくる~講師の「具体化」テクニック~

私はシナリオライターですので「会話」を書くのは得意です。
しかし、講師の方の中には、文章にもトークにもほとんど「会話」が登場しない方が多いです。
会話」のかたちをとって伝えることは「具体化」の基本技だと思います。
とくにここでは二人の会話、「対話」についてお話します。

なぜ会話を使うのか?

ここでふたつの文章を読み比べてみてください。

ある日私の上司が、私の手掛けている仕事の進捗状況について聞いてきた。私があまり進んでいないことを告げると、上司は同じやり方を続けていても改善する可能性が低いことを指摘してきた。
上司は、まず課題を整理し、ちがうやり方を模索すべきだと言うのだ。

この文章と、下の会話体の文章はどう違うでしょうか?

上司「君の手掛けている仕事だがね。進捗状況はどうだね?」
私「それが、思わしくないんですねぇ」
上司「同じやり方を続けていても、これ以上進展する可能性は低いんじゃないかと思うが、どうかな?」
私「そうかも知れませんねえ」
上司「まず課題を整理してみよう。その上でちがうやり方を模索したらいいんじゃないか?」

同じことを告げているようで、より何が起こっているのか明確な感じがしませんか?

何より、オフィスで上司と部下である「私」が、話している絵が浮かびませんか?

「こんなことがあった」と報告調で文章を書くより、会話をそのまま書いてしまったほうが、頭の中にイメージが浮かびやすいと思います。
つまり「具体化」された表現だということができます。

もうひとつ「関係」がわかりやすいということがありますね。

上の例でいえば、上司と「私」の関係が、言葉づかいなどで伝わります。

対話が伝えるもの

事実を報告するような文章ではなくて、何かを説明するような文章だったらどうなるでしょうか?

この法律の成立までには、賛成派と反対派の対立があった。
反対派は、人権上・セキュリティ上の問題が多い、と指摘し、賛成派は、この法律によって数多くの人が救われる、と主張した。

これを会話調に書き直すと

この法律の成立までには
反対派「人権やセキュリティ上の問題が多いので、考え直すべきだ」
賛成派「この法律が成立することによって多くの人が救済されるのだ」
といった、対立があった。

といった感じでしょうか。
会話体のほうが、賛成派、反対派両派の議員たちが口角泡を飛ばして議論している雰囲気が伝わるのではないでしょうか?

このように、会話表現することによって、「事実+α」を伝えることができます。

またこの例でわかることは、ふたつの意見(考え)の違い(対立)を明確にすることができる、ということです。

対話表現の作り方

対話に必要なものとは何でしょうか?
二人の登場人物です。

事実を伝えようとするのではなく、ふたつの意見の違いを表現しようとするのなら、それぞれの考えを象徴するようなふたりの人物を登場させることになります。

この場合、特に深いペルソナは必要ありません。
ただ、役割をひとりひとりに振り分ける必要があります。

上記の例でいえば、賛成派と反対派ですね。

役割を振り分けたら、それぞれのセリフを作るわけです。
セリフは当然、話し言葉にしてください。

実際に会話が交わされているようなイメージを作ることが狙いです。
書き言葉だとイメージがちがうので、乗りきれません。

対話が行われるシチュエーションにあった言葉づかいも必要です。

たとえば議会で賛成派と反対派が議論しているのであれば、議員がそういう場で発しそうな言葉を選ぶべきでしょう。

家庭で夫と妻が口論しているのであれば、いっぽうは男言葉、他方は女言葉にしておいたほうが自然ですね。

上司と部下なのか、対等の関係の同僚なのかは、敬語の使いかたでわかるでしょう。

対話の型

対話といっても、どういう場面でどういう人たちが対話しているのかによって、いろいろなパターンが考えられます。
ここでは、典型的なパターンをいくつか紹介します。

ディベート

先ほどの「賛成派と反対派」がこのタイプです。
それぞれ立場のちがう両者が、ちがう意見をぶつけ合う対話になります。

両論併記というか、さまざまな説や意見がある、ということを表現するのに適したパターンです。
場合によっては、対話の域を越えて、三者、四者と話者の数を増やしてもかまいません。
ただし増えれば増えるほど、言いたいことが不明確になりますので、そこは気をつけて。

先生と生徒(博士と助手)

いっぽうに説明役、もういっぽうに質問をする役を振り分けるパターンです。

この先生と生徒パターンは、長々とした説明をする必要があるときに、テンポよく進めることができます。

使いかたのコツとしては、生徒、すなわち質問する側の役を受講生の目線に合わせることです。
先生の説明を聞いていて、受講生の頭に浮かびそうな疑問を、生徒からの質問としてぶつけます。
すると受講生としては「そうそう、そこが知りたかった」と、興味を持ちはじめます。

バカ殿と賢い家老

知識レベルに差があるという点では「先生と生徒」のバリエーションととらえることができます。
ちがう点は、聞き役の「殿様」が権力を持っているということです。

「殿様」が間違った判断をくだしそうになる。それを「家老」がなぜ間違っているのか説明し、正しい判断に導こうとする、という展開になります。

「殿様」を「上司」や「社長」、「家老」を社員に当てはめることもできるので、現代社会を舞台にした対話にすることも十分できるでしょう。

漫才(ボケとツッコミ)

漫才コンビが一般的には、ボケとツッコミで成り立っている、というのはご存知でしょう。

ふつうはボケのほうが面白い人と思われています。
しかし、漫才の舞台で笑いが起こるのはツッコミがつっこんだ時です。

これはボケが「常識の足りない人、非常識な人」、ツッコミが「常識人」だからです。
観客は常識人ですから、ツッコミが入ることによって共感し、笑うのです。

講座にユーモアを持ち込みたいときは、ぜひ漫才のパターンを応用してみてください。

話芸でいえば漫才だけでなく落語などにも、応用できる対話パターンがありますから、ぜひ聞いてみるといいでしょう。



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