見出し画像

2015.8.5 「頑張っているのに。」

 抗がん剤の可否が決まる通院を控え、私は焦っていた。あまり食が進まないので、「お母さん、もっと食べなきゃ」と言ってしまった。母は「頑張って食べているのに。」とつぶやいた。

 母の動作能力は、少しずつ落ちていた。ベッドから数歩先の食卓まで歩行器を使うようになった。トイレまで歩けず、ベッド横にあるポータブルトイレを使い始めた。そうめんが喉につかえて、吐き出してしまった。

 それでも母は精一杯踏ん張っていた。だから、能力が落ちても、やり方や支え方を変えることで、思うような生活ができるようにしたかった。

 私は連絡ノートに、その日の母の変化、新しいやり方、注意して欲しいことを毎日のように書き込んだ。伝わっているのか不安だった。

 きっと受け取る方も不安だっただろう。状態の変化が早く、毎日が初訪問のような緊張があったに違いない。ノートを見て、ケアをして、ノートに書き込む。そうやって、30人を超える人々が母を支えてくださった。最期の日まで。