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数日後 「花を絶やさずに」

 余命宣告を受けたあと、病状の進行に従い、近しい人から順に母の命がわずかなことを知らせていた。お見舞いをとの申し出もいただいたが、母は会いたくないと言った。

 母が長年手紙をやりとりしていた高校時代の友人にも連絡をとるべきではないかと考えた。だがそうすれば、母に残された時間が短いことを突きつけてしまうようで、踏み出せなかった。

 結局、母が亡くなってから、手紙で知らせた。すぐにお電話をくださった。電話口の彼女は、突然の知らせに動揺し、涙を流し、会わなかった日々を悔やんでいた。そして、できれば霊前に花を絶やさずに、と志をくださった。

 会わせてあげるべきだった。こんなに思ってくれる友人ならば、やつれた姿も見せてしまえばよかった。会えば、どんなに短い時間でも、励まされたろうし、笑いあえただろう。母と彼女の最後の幸せな想い出を作る機会を奪ってしまったことを、私はいまでも悔やんでいる。

 それから母の霊前に花を絶やすことはない。