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歌枕 あなたの知らない心の風景

サントリー美術館

平日昼間に東京ミッドタウン内のサントリー美術館を訪れたが、前回の北斎展に比べて客数は少なかったため、ゆったりと鑑賞することができた。また年齢層は比較的高く女性が多かった。

引用:https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2022_3/

歌枕 あなたの知らない心の風景

まず、「歌枕」とは何か。
古来より日本人の感情や情景を表す手段として「和歌」が詠まれてきたが、この和歌の中で繰り返し登場し、特定のイメージが定着した土地のことを「歌枕」という。
この歌枕を聴くだけで、ついには実際の風景を知らなくとも、その土地のイメージを通して和歌の中で自らの思いを表わすことができるようになったという。

例えば、よく百人一首などで見る「吉野(よしの)」と「龍田(たつた)」。前者は山奥の桜の様子と結びつき、後者は紅葉した楓の様子と結びついていることが分かる歌が多いため、わかりやすいだろう。

左:龍田、右:吉野
引用:https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2022_3/

本展示は、5つの章にわかれている。

第一章「歌枕の世界」では、上記の吉野・龍田のほかに、「武蔵野」や「宇治」といった歌枕について、屏風絵で紹介している。
第二章「歌枕の成立」では、古来は和歌に使われる言葉全体をさす語であった「歌枕」が現在の意味として成立するまでの歴史を、実際の和歌の古筆を通して紹介している。
第三章「描かれた歌枕」では、屏風を含め名所絵に和歌んだものを紹介している。名所の実際の風景画ではなく、歌枕でイメージされるものをちりばめてその地名を表現した絵が多いという。

鏡山図 伝 姉小路長隆画 伝 藤原家隆賛
引用:https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2022_3/

第四章「旅と歌枕」では、歌枕として出てくる土地を訪れる人が増え、特に有名な西行法師について紹介している。
第五章「暮らしに息づく歌枕」では、硯箱や茶道具、着物などにも歌枕が描かれているものを多く紹介している。

唯一撮影可能だった「重要文化財 小倉山蒔絵硯箱」

和歌と私

今回の展示を訪れたきっかけは、私の名前の由来が古今和歌集に収録されている和歌「五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする」(詠み人知らず)という歌にあることだ。
ただ、この歌には土地の名前は出てこず、歌枕とは関係のない歌のため、本展示内では紹介されていなかった。

ちなみに、私が好きな和歌の1つには歌枕が使われているものがある。「大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立」(小式部内侍)という百人一首にも含まれている歌であり、歌枕は「天橋立」だ。これは金葉和歌集に収録されており、古今和歌集と同じく勅撰集である。

百人一首 小式部内侍

最後に

本展示は、注目を集める画家の展示などではないが、構成も興味深く、何より和歌というものについてよく知ることができるので、個人的には魅力的な展示であった。
屏風や硯等、美しい展示物もいいので、ミッドタウンを訪れた際に立ち寄ってみてはいかがだろうか。

歌枕 あなたの知らない心の風景
会期:2022年6月29日~8月28日
会場:サントリー美術館
住所:東京都港区赤坂9-7-4(東京ミッドタウン ガレリア3F)
時間:10:00~18:00


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