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医学生は美術館でなにをみたのか?

獨協医科大学では医学教育の一環として美術の対話型鑑賞を取り入れていらっしゃいます。
医学を学ぶのにアート鑑賞??? という疑問が浮かぶかもしれません。
患者さんを前にして、発言や表情や周辺情報をもとに診断する観察力と、作品に描かれているもの•ことから鑑賞を深める力は親和性が高く、海外ではアートの教育活用が広く行われており、その歴史は長いです。一方で、国内ではまだまだ事例が少ないようです。
そんな状況で先進的に取り組んでおられる森永康平さんに同行して、宇都宮美術館&栃木県立美術館での授業に参加させて貰いました。

大学からシャトルバスを借りて来館

〈宇都宮美術館〉対象:5年生11名 午前

森永さんと学芸員さん2名の3グループに分かれ各30分の鑑賞をローテーションする流れでした。
はじめに「診察時に患者さんをどう観察するか」という視点と鑑賞をつなげる説明があり、対話型鑑賞とはといったレクチャーは端的に済ませて作品と向き合う時間を多くかけていました。

主な気づき
•体格(体の部位の特徴)から人となりをみとる発話が多く、まるで診察をしているかのような瞬間もあり、日常的に身体をよく観察しているからこそ、他の多くの鑑賞で言及されやすい性別、人種といった捉え方よりも細やかに身体を認識しているように思えた
•対話型鑑賞はおそらく初めてとのことだったが、学生同士、授業や実習を共にして学び合う関係が築かれていたため「相手の発言を引き受けて話す」「他の可能性を残しながら仮説を立てる」ことができていたのに驚いた

オンライン鑑賞とは異なる経験

〈栃木県立美術館〉対象1年生5名 午後

全7回のカリキュラム「名画で鍛える診療のエッセンス」の7回目の授業。
シラバスがこちらからご覧になれますので、ぜひ。宝の宝庫です。
https://docs.google.com/document/d/1LbuG88XfrNawQ_0c254o1TH9U4E37is1XB_dth8zrcU/edit
森永さんと学芸員さんの2グループに分かれ各40分を交代して鑑賞しました。
シラバスを覗くとわかるように、午前とは異なりここまで6回の授業で「みる」「対話型鑑賞」についてレクチャーを受け、教室での鑑賞経験があるためさっそく作品選びに入りました。

主な気づき
写実的な絵画でも様々な見立てから物語りを立ち上げていて、発想の柔軟さが印象的だった
とりあげた作品について鳥を描いた作品が並んでいる中でなぜその鳥に目を奪われたのかなど、美術館に足を運んで展示の間を歩きながら得た気づきを伝えていた(オンラインでは起きづらい)
自分の語彙の量や表現力の限界に迫りながら、「言わんとしていること」を拾いあげてくれる学芸員ファシリに助けられて自分の言葉つくるのに汗をかいていた

医学生の鑑賞を「鑑賞」し終わって

私も授業や研修で鑑賞を取り入れています。
しかし、実際に美術作品まで足を運んで実践したことはありませんでした(投映スライドや印刷物での実施のみ)。それは、移動コスト労働コストがかかるためです。
ですが、森永さんが医療教育のカリキュラムの中でそういったコストをかけてでも実際に美術館に足を運んでいる狙い/価値を理解できた気がしました。
学校の先生が教室の事実/出来事をみとる教員養成過程や研修においてもぜひ広がって欲しいな、というか広げていきたいな、と気持ちを一層強くした旅でした。

ヨシタケシンスケ展はさすがの人気ぶり

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