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『美しき誘惑~現代の「画皮」~』に見る悲しい品の良さ

 毎月一本映画が無料になるからとU-NEXTに先日加入したので、昔の映画を最近見ている。
 個人的なお気に入りは黒沢清の『ドレミファ娘の血は騒ぐ』。メインの見せ場である、恥ずかしさの実験と称して全裸に剥いた女子大生に電極を付けて謎の器具で女性器に電流を流すシーン(僕はこれをまんぐりピリピリと名付けている)で、女性器から放たれる光が町を包み、その中で伊丹十三が恍惚とした顔をしている姿は必見である。元々ロマンポルノとして作られただけあって、エロシーンが唐突なのもとてもいい。あの時代は色々と大らかだったんだなぁ。昭和は遠くになりにけり。今上映したら劇場版サウスパークのシーラおばさん並みに反まんぐりピリピリ運動が巻き起こるに違いない。きっと恋ダンスを周囲で自衛隊員が踊る中、処刑台にかけられるだろう、黒沢清。ママは他人を批判してばかりで僕を見てくれない。だまらっしゃい、まんぐりピリピリは悪よ。まぁ悪だろう、常識的に。そして黒沢清の血によって田所広成が蘇るに違いない。そしてまた『こみっくパーティー』のCGを色変えしただけでまんま使ったエロゲー作ってLeafから怒られるに違いない。誰が覚えてんだよ、そんなの。令和だぞ。
 そんな中、別件で調べものしている最中に『美しき誘惑~現代の「画皮」~』のwikipediaを読んでいて気になる記述があった。

キャプチャarasuji

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 なんだよ、電撃一閃。
 その文脈でなんで出てくるんだよ、電撃一閃。
 ウマ娘のスキルかよ、電撃一閃。
 多分、最終の直線で速度が上がるんだろうな、電撃一閃。
 追込か差しのスキルに違いない。ハヤテ一文字でいいよ。
 俄然興味が出てきたので、見に行くことにしたわけである。丁度無料券が手元にあるわけだし。
 ありがとう、U-NEXT。本当は菅田将暉主演の『キャラクター』見ようと思ってたけど。

■あらすじ
 ネタバレ込みなので、この後見に行こうと思っている奇特な人がいるなら読まない方がいいとは思う。
 もうwikiの記事貼ってるけど。
 あらすじは前述のとおりである。
 まぁ補足するところとして、舞子の誘惑に対して、勝子先生に「お前は面が好きなだけなんじゃね?」と煽られ、なんだか分からなくなった太郎がおばあちゃん家の仏壇がある部屋みたいな場所で己と向き合い、「俺、国防のために総理大臣になりたいんだ!でも総理大臣は手段なんだ!でも舞子可愛いから好き!」という悟ったんだか悟ってないんだかわからない境地に至るわけである。まぁ舞子役の人、きつめの化粧してるからあんまり綺麗な感じはしないのだが。インタビューの写真だと結構可愛らしい顔してるので、あの役はちょっと無理がある気もする。千眼美子のほうがそういう意味では化粧映えすると思うのだが。千眼さん、今回は素朴な幼馴染ポジション(霊感があるので悟りスキル高め)で、特別本編に絡むような絡まないような変な立ち位置でねじ込まれているのは、なぜなのか。一人だけ特別出演だし。大川咲也加の気苦労を感じるキャスティングである。
 そのあと「九尾の狐はプライドたけぇから結婚式でだまし討ちするといいぜ」とまるで中森明菜に金屏風の前で会見させたメリー喜多川みたいなことを言い出す勝子先生の提案に「よっしゃ!俺はやるぜ!」と乗り気の太郎。
 悟り。
 お前、悟りはどうした。
 いいのか、それで。どうすんだよ、中森明菜みたいになったら。
 そんな僕の心配をよそに、行われる結婚式。神父の前で誓いの言葉をとか言いだす。いいのか、それで。幸福、もとい未来の化学は、そんな和洋折衷な感じでいいのか。
 いいのか。全てはエルカンターレより格下だもんな。大らかな宗教である。昭和は遠くになりにけり。
 誓いのキス的なやつの寸前で舞子を突き飛ばし「こいつ、狐です!」と叫びだす太郎。絵面でいうと完全にヤベェやつである。当然のごとくざわつく会場。舞子の両親だけは「何故ばれた?!」的な顔してたけど。この舞子の母親が市毛良枝である。さすがの演技力。顔だけで伝わる。一言くらいセリフあってもよかったのでは。ただ立ってるだけだぞ。花嫁になる娘に何か一言声かけるとか、そういうシーンもなく、突然の市毛良枝。『ゾンビランドサガ』の一話で出てくるトラック並みの唐突さ。しかも、文脈で理解しているが、別に母親だという説明も特にはなく。あったかもしれない。そんなレベルの言及のされかた。粗末過ぎる良枝。文字単価なのかな、良枝。1文字10円とか取られるのかな。ライターとしては破格の値段である。すげぇな、市毛良枝。もう僕は良枝の虜だ。
 こちらの心配はよそに中森明菜みたいにはならず、ブチ切れ舞子によるスタンド九尾の狐が実体化し、雄たけびをあげる。「恥をかかせたなぁ!」キレるポイント、そこかなぁ?
 天井まである巨体に悲鳴を上げながら逃げる客。守護霊のスタンドを身にまとう太郎。一世一代のスタンドバトル開始である。そして、舞子が九尾の狐だとばれ、悔しそうな顔をする市毛良枝の背後にも狐のスタンドが立ち昇る。
 これは、良枝もバトル参戦か?! ここにきて良枝覚醒か?!
 という期待もよそに何故か霧散していく良枝。
 どうして……良枝……
 一言も喋らず、1分もない出番のまま、霧散して……
 良枝フォーエバー……
 そんな僕の悲しみはよそに加熱したスタンドバトルはついに危険な領域へと突入する。具体的には黒背景である。CG合成された無。何もないバトルフィールドへと移った二人。まぁ舞子、側転しながら太郎の周りを回ったり、しっぽ攻撃したり、使い魔っぽいものを召喚したりとやりたい放題である。しかし、太郎のスタンドも負けてはいない。すべて衝撃波でいなしていく。特に盛り上がりもないアクションシーンの中、なんか歌が流れ始める。
 「電撃ー一閃ー悟りの力ー電撃ー一閃ー仏の力ー」
 これは……仮面ライダーオーズのラトラータコンボでメズールを叩きのめした時と同じ!
 しょぼいバトルシーンでも、僕の興奮はクライマックスである。
 くるぞ……来るぞ……!
 「電撃一閃!!」
 太郎の叫びとともに放たれるしょぼい電撃。
 だが、僕は大興奮である。歌舞伎の見栄と同じ感覚である。電撃一閃、確かに電撃一閃だったよ。ありがとう。タダで見ているから感動もひとしおである。金払ってたら、ここで帰るな。
 そして霧散していく狐のスタンド。脆いな、君。
 そしてなぜか老け込む舞子、狐が抜けたから若さを保てないんだって。お前何歳だよ。
 断崖絶壁から飛び降りようとする舞子を抱き留め、自分の生命エネルギーを分け与えて、元に戻し、「一緒に悟ろう」と説き伏せる太郎。「神様!助けてください!」と舞子が泣き叫んで話はおしまいである。

■にじみ出る品の良さ
 あらすじだけ見ると、そこまで変な話ではないと思う。
 後半のバトルシーンが謎だけど、シュワちゃん主演の『ゴリラ』に比べればまだ筋は通っている。
 だが、要所要所がなんか上っ面であった。
 太郎がおばあちゃん家の仏壇の前で自己批判するシーンで、手にしている啓蒙書が「肉欲に打ち勝つには」みたいな題名がついているが、少なくとも太郎君、別に肉欲におぼれていない。手を繋ぐぐらいしかしていない。キスも別に舌入れたりしていない。ましてや、まんぐりピリピリなんかそぶりもない。あっても困るが。電撃一閃!(女性器から溢れ出る電撃のエフェクト)(エルカンターレ・ファイト!)
 強いて言うなら、銀座のバーで会ったときに、ちらっと太ももがスカートの隙間から見えた時に、ドギマギするくらいである。親父の元総理大臣と一緒に。大臣。さすがに、反応が童貞臭いぞ、大臣。愛人囲ってるくせに。他もなんか舞子が男をたぶらかす描写も、中学生みたいなデートしかしてないので、特に性の匂いも何も感じないし、なんでそんないきなり皆惚れてるのかも謎過ぎる。センチメンタルグラフィティだってもうちょっと丁寧だったぞ。そして太郎くんもデートだっていうのに国防の話しかしない。もうちょっと気の利いたことも言えないものか。あるだろ、ほら、「新垣結衣と星野源は逃げ恥の役から付き合うようになったって皆いうけど、東出が不倫したときには『役と生活は分けられないのは役者としてプロ意識が足らない』って言ってたよね?」とか。太郎君、神田伯山のラジオ聞いてるの? 国防にしか興味ない男がそのまま女におぼれて政治をおろそかにするようにも見えないし。狐は男の精気を吸って生きるのだといっても、なんかエナジードレってるやり方がただ肩触るだけだし。ディオみたいなキスしとこうよ、そこは。
 全てが「色気ムンムンの女」という肩書を背中にしょってるだけで、何の説得力もない。
 ちなみに主題歌はyoutubeで無料公開されている。
 歌詞はあくまでも「舞子=狐の悲しみ」について書いていると言っているが、そういうのは、映画の中でちゃんと描かれているからこそ生きてくるのであって、実はこういう設定なんですと後出しで言われても「そっすか」以外の感想は出てこない。再生数を増やすのも癪なのでリンクはしないけど、適宜検索して欲しい。
 銀座のクラブの描き方も、なろう系の小説のほうがもうちょっと事細かである。でも、その描写の少なさはストーリーテリングの拙さよりも、「なんかお上品だな」という感情が先に来てしまう。おそらく脚本の大川咲也加はそういう世界の人と関わり合いになったことがないんだと思う。リアリティがないと言っているのではない。銀座のクラブなんてリアリティをもって書けるのは倉科先生ぐらいだろう。『嬢王』にリアリティあるのかと問われると黙るしかないけど。
 男女の駆け引き、肉欲、そういう下世話なものの底にある「品のなさ」が微塵も感じられない。ずっと隆法たんの娘として、エリートになるよう育てられてきたんだろう。そういう、下世話な品のなさと無縁で生きているがゆえに、描こうとしてもステレオタイプを箇条書きすることしかできない。
 国防のことは饒舌に語れる。
 悟りについても饒舌に語れる。
 でも、悟りを必要としている人間の性根を理解していない。
 だから、描けない。なので、全部が上っ面なのだ。
 折角の設定がト書き以下でしかない。
 品が良いから。
 このまま官僚になれば、多分Twitterでクソミソに言われる類の役人になれる素質がある。それはそれで良い人生かもしれないが、宗教家としてはどうなんだろう。何を救われたいのかもわからない上品な傲慢さを持った人間の言葉が誰の心に響くんだろう。
 そんなことを思わないでもない。
 ただ、品のない宏洋の脚本が面白いかと言われると少し疑問もあるが。大川家、多分、お題目だけで生きてきてるんだろう。学歴も何もかも、箇条書きの人生なのかもしれない。そういうのは、少し悲しいなと思ってはいる。
 そういう意味では前述の『ドレミファ娘の血は騒ぐ』とは対極にある映画だ。でも黒沢清はちゃんとポルノ映画であっても、当時の大学生特有の軽薄さをコメディとして真摯に描いている。なので、まんぐりピリピリも笑っちゃうが、全体を考えるとその悲哀をくみ取れたりもする。まんぐりピリピリ、なんか口が覚えてるなと思ったら、小野坂昌也・伊福部祟のヤングヤングヤングでやってた、まんぷくピリピリだった。どうしよう、今すごい徒労感がある。

■面白いのか
 面白いか面白くないかで言えば、タダじゃなきゃ見ないレベルではある。
 2.5プペルくらいの面白さである。プペルしてますか?(ピエロの格好をしながら)
 話は上っ面だが、役者が良いのでキャラ立ちはしている。だから、なんとか見れないこともない。
 役者って大事だな。
 あと、教祖役を女にしているのは話の題材として「いろんなおんな」を見せたいからなのか、そろそろ隆法たんから代替わりの季節ですよとアナウンスしたいのか、どっちなんだろうか。エルカンターレの名前は一度も出てないし。しかし、教祖役の芦川よしみ、wikiで見たら、ここ最近、幸福の科学映画にしか出ていないのね。なんだろう。
 隆法たんのお気に入りなのかな、芦川よしみ。
 なら良枝は……どうして、良枝は……

 そういや、画皮、関係なくね?

 追記(2021.6.25)
 ふと気になって調べたら隆法たんの霊言によると芦川よしみの過去世(幸福の科学的に言うと前世の姿)は鴨長明であり、空海のお母ちゃんの玉依御前らしいので、多分お気に入りなんだと思う。空海のお母ちゃんだから、この配役ともいえる。人生において、何の価値もない知識が増えてしまって、虚脱感がすごい。ちなみに良枝の過去世は言及されていないので、多分そういうことなんだと思う。なんだよ。良枝、良い役者だぞ。最近、山登ってばっかりだけど。

 追記2(2021.6.29)

 電撃一閃に関して、ちゆ12歳が言及していたのでリンクを貼っておく。そっかーエレクトラから出てたのか。隆法たんの中で流行りの必殺フレーズだったらしい。そういやコロナ撃退ソングも『Thunder』だったし。どうでもい補足である。

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