20231014 井伏鱒二展記念講演会
20231014
神奈川近代文学館
井伏鱒二展記念講演会
『リズムと余韻――私が井伏を推す理由』
絲山秋子先生の講演 メモ書き(井伏鱒二初心者による)
★は自分用見出し、()は脳内補足
表立って井伏鱒二が好きという人ってあんまりいない
何が良いのか言語化しにくい
★それでも一言でいえば「文体」
「書かれていること・いないこと」と「姿勢」
他の作家にはあるが井伏にはないもの
「俺だ!」(という主張)や「かっこいい」(という印象)があんまりない
「味わう」という意味で例えると山菜
なかったらさみしい
子供のときわからなかったが、大人になるとわかるほろ苦さ、香り
最近バーベキューに行くと肉よりきのこ派
歳をとるにつれて良さがわかってくる
それは手に取れないし見れないけど、井伏ファンとその味わいは共有できてる
<ホワイトボード>
①作品世界の空間設計
②登場人物に合ったテンポ
③読者と作品の距離
文体について、小説家は文体によって何ができるか
①明るさ、色、空気、いきものの密度
②キャラの行動→読者が読むときの”声”
③距離が近すぎると生々しくて苦手
それぞれの心地いい距離感がある
★文体とは「器」(茶碗、盃、釜)
何も入っていない時の、空(カラ)の感触の再現
以前ある茶会におじゃまさせていただけたとき、
両手で持ったオリベの感触を覚えている、「触」を正確に覚えている
<西島雄志(彫刻家/群馬移住)作品のスライド画像>
『鹿』命が入ってるうつわ
『馬』上半身のみでも、イメージで下半身もわかる
言葉で描いたものの解釈が真逆になることがある
例えば「笑う」も文脈次第(本当はちがう感情があるのでないか)
描かれてないことのほうが伝わる
★井伏推しポイント「作家の都合をコントロールする」
話を優先させる
(※のちに例として『山椒魚』の話あり)
<ホワイトボード>
書き出しと結論
①風景・土地
②時間・歴史
③ことわざ・言い伝え
④語り手・人物の意見・感情
⑤状態・行動
⑥会話
いくつか作品を挙げながらそれぞれどれに当てはまるかの説明
『さざ波』②→➀
『遙拝隊長』③→⑤井戸の音の余韻
『黒い雨』④→山を見て言い伝えの×(?)を見やった
『鯉』④→④
始まりと終わりが関連してるとしっくりまとまってる読後感
①映画のよう、俯瞰、歩いてゆっくり読むかんじ
(②は失念)
③スタ-トだと落ち着いて話を聞くかんじ、終わりだとまとまってるかんじ
④正面に座ってその人の顔を見ているかんじ
⑤同時に、一緒にその場にいるかんじ
⑥何かがすでに始まっている、後からその場に入って追っていく、
終わりならその先何かあるのか
★強く言いたい!『荻窪風土記』!
書き出しがすごい
50年以上前の音と距離を表現
終わりは井戸の話、50年の時間という風景
見てるとどんどん痺れてくる
『かきつばた(群馬の安中の話)』も距離の書き出し
音、時間、距離への関心
★お待たせしました、『山椒魚』の話
始まり方は結論、「山椒魚は悲しんだ」
7・5調、曲でいうと休符×3からの音ポン!始まり
調子を入れないようにしていた、からの、意識的にこうしたのではないか
結論として、ほっとするような、光が見えて水がゆるゆるって動いた
改訂版は「ため息も漏れないようにしていた」で結論を切っている
これは井伏の「誠実さ」、貫かなくちゃいけないところ
迷われながら削除されたのではないか
作者都合でセリフを書いたのでは?
井伏自身が「水をかき回してしまった」と思ったのではないか
山椒魚の都合を尊重したいから削ったのではないか
テーブルに置いてあったメトロノームの登場
『荻窪風土記』の「てくてくあるく」の描写が好き
メトロノームは人間の心臓の鼓動を基準にしている
「てくてくあるく」はBPM120、詩だとBPM90くらいになる
(実際にメトロノームを鳴らしてくださり、みんな頭の中でてくてくあるく)
会話始まりだとテンポが速く、風景描写だと静かでゆったりなテンポ
★「音蝕(オンショク)」音の感触のお話
詩をいくつか 母音の分析
「ア(a)サガヤア(a)タリデ オ(o)オザケノンダ(a)」
「サ(a)ヨナラダ(a)ケガ ジ(i)ンセイダ(a)」
「ケ(e)ンチコ(o)ヒシヤ ヨ(o)サムノバンニ(i)
ア(a)チラコ(o)チラデ ブ(u)ンガクカタル(u)」
アチラコチラはaが少ない
井伏は賑やかで明るいものにaを当てて、
少しかなしいものに他の母音を当てていた?
アサガヤを例とした「8・8ってざっくりいうと8ビートなんですよ」説の提唱
「57577」の切れ目には休符が入るという譜面をホワイトボードに書き始める先生
先生「さあ散らかってきたぞ」
なんで休み(休符)がくるのか、それが余韻である
アサガヤアタリデ(8・8)は言葉を詰めてるので賑やかさがある
アチラコチラデはすべて7・7なのでさみしい
散(i)ッタ 木(i)ノ花 イ(i)カホドバカリ(i)
春暁は小さな縫い目がきれいに揃っていて見事な仕事ぶり
厳密に言葉を選んでいたと思う
リズムとテンポについて、どうして井伏は細かく考えられてたか?
リズムとは「規則」、生活の規則(日、月、年、曜日)は同じリズムである
リズムがあるとそのことについて考えなくてもいい
日によって変わる生活は身体に負担がかかる
ひとはリズムに乗って生活している
そしてハレとケのようなときは、日常から脱出して旅行したりする
日常のリズムから××て(失念)、驚きや特別がある
その人なりのリズムキープがあり、たまに脱する
<ホワイトボード>
リズムの有⇔無
本質への抽象→具体
表現を行き来することで本質に近づく
本質に向かっていくのが文学
和訳は飛躍のおもしろさ、そこに吸い込まれていく
ギャップ、ユニーク
原文と訳言葉を行き来する
本というのはいつでも帰ってくることができる
戻ってきたところにあるのはきちんと設計された世界
何度でも戻ってこられる
★(書類整理しながら)井伏鱒二展への道のり
オンライン対談はほんとにその場におじゃましてるようなかんじ
絲山先生の手元にA4の紙いっぱいある(台本?)
それに加えて手持ちのノートと井伏鱒二図録(付箋いっぱい)
個人的に、ずっと嬉しかったのが声がかかった理由 まだわからんのです
今年2月15日にここで打ち合わせしたとき、
スタッフに「今日井伏さんの誕生日なんですよ!」と言われて
(あっ絶対うまくいく!)と思った
井伏さんに喜んでほしい
「たくさん出せば恥ずかしくない」(文脈失念)→冠にアチラコチラを採用
いろんなところで文学語ってきたんだろうなと
でも実際は詩から(採用しました)
(みなさん展示見ました?の流れで絲山先生の好きポイント、うきうき声)
””””井伏さんの肉声が聞ける””””
””””志賀さんの木の話””””
甲府の志賀直哉展に行ったとき「これは鞆の浦行かなきゃ!」
(秩父経由で山越えて(7・5))
福山から15kmいくと文学館がある「トモ」
その場に立っただけで幸せ
井伏鱒二の常設展示があり、山椒魚の岩穴に入れる
頭の中におみやげをたくさん持ち帰って、抱きかかえてこれた
(今日のことを)いろいろなところで思い出していただければ幸いです
これからも井伏さんの文章をいろんなところで思い浮かべると思う
★(時間があるので最後に)Q&A
Q.井伏鱒二と太宰治の関係性について(井伏はなぜああも太宰を気にかけたのか)
A.何でしょうね~!お互いにないものだからじゃないですか?
太宰さんってたぶん自分と似てるものは好きじゃなかったと思う
井伏さんは、自分と似てないものが気になる人だったのでは
Q.絲山先生が心の芯でケタケタ感じること
A.『遙拝隊長』
まんじゅうを口にするところ
悠一さんの近くにいたら嫌だけど、愛すべき存在
Q.中島敦(漢文学)の話から井伏鱒二の"音"の素養について
A.どこからきたんでしょうね~!
井伏さんって無駄にお話されない
的確、天性の勘、才能
旅などで常に枠を広げていた人
Q.井伏さんの影響があると思う絲山先生自身の作品
A.誰か知っている人がいたら教えてほしい
『末裔』はどうしても井伏さんを出したかった
作家のエゴで使いたかった
(井伏さんのような)そういう文章を書きたいと思いながら、違うことを書いてたり
『神と黒蟹県』の神は、否定しつつも中年のおじさんの姿をしている
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感想はまた別で
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