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風景からの町づくり

町並みをつくり上げているすべての要素を都市計画の立案者やデザイナーの自力に委ねることはとても無理です。ごく一部ならともかく、町すべての建築や道や川に、自力の解脱を期待するわけにはいきません。市民が、朝起きて景色に包まれながら出かけて、夕方また帰ってくる。そういう日常生活の中で、普段は忘れている町の美しさにハッと気がつく。自分はこの町で生き、この町で従容として死んでいくのだ。そのように思わせるのは、民芸に見られるような平穏無事の美なのではないでしょうか。今まで、都市や国家を論ずるわたしたちの精神の射程は、経済云々、ありいはせいぜい生きがい云々にとどまっていて、一度も「死」にまで至ったことがあったでしょうか。民芸の理想にはそれがあるように思います。

建築や橋や道路など、いずれも強い目的意識にもとづいて設計される風景の構造物に対してそれを適用するのがむずかしいことは確かですが、多忙と打算で身動きができない現代文明を映す鏡として、あるいはその解毒剤として、一つの大事なヒントがここにあると思えてなりません。

目的意識(自力)が優先する現代文明の中で、草木に覆われた大地の泰然とした姿や、過ぎ去った時間の中で透けて見える風景という理想を求めるならば、過去の記憶や山水の趣にしたがうというような、他力を期待する構えもまたときには有効ではないでしょうか。それがもつ底力を信じて、そこから精気をくみあげる方法にほかなりません。

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