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田んぼビオトープ入門

田んぼを中心に有機的に結ばれた重層的な環境構造は、毎年、イネを作るために維持補修する農家の営みにより、植生環境遷移を阻み、多様な生きものや水生植物、湿地植物の生息環境をつくり出し、長い間維持されてきたのです。田んぼで繁殖、生息する生きものは長年の間、こうした田んぼの環境に適応して暮らしてきました。

田んぼはなぜ、多くの生きものが集まってくるのでしょうか。一番大きな要因は、温かな栄養に富んだ水が浅く滞水している水辺だということです。熱帯原産のイネを作るために、田んぼでは水を温める工夫や水管理が行われています。しかもイネを育てるために肥料や堆肥が施されるため、田の水は栄養分豊かです。止水しているので、卵や幼生が流されることもありません。栄養豊富で温かな水が溜められた田んぼでは、藻類やミジンコなどの微小なプランクトンが持続的に、しかも大量に発生します。この微小なプランクトンや藻は、水生植物の幼虫や幼体の格好の餌になるため、メダカやドジョウなどの魚類だけでなく幼生時代を水中で過ごすトンボ、カエルやサンショウウオなどの両性類も産卵にやってきます。水深が浅く温かな水環境は、卵が孵化し幼体が育つためには格好の水環境です。田んぼにはイネが植えられ叢生するので、これらの幼体は天敵から身を守ることもできます。また、田んぼにはイネを餌にするウンカやヨコバイなどの「害虫」も餌や産卵場を求めて集まってきます。

さらには、これらの小さな生きものを餌にする生きものも集まってきます。ゲンゴロウやタイコウチ、コオイムシ、成体になったトンボやカエル、サギやツバメなどの鳥類も集まってきます。

このように、田んぼには繁殖場や餌場を求めて多様な生きものが集まり、豊かな食物連鎖ができます。田んぼがあることにより、より多様で複雑な生態系が維持され、生物多様性が維持されてきたのです。

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