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生物保全の生態学

対象に不確実性を認めた上で、政策の実行を順応的な方法で、また多様な利害関係者の参加のもとに実施しようとする新しい公的システム管理の手法である。生態系管理の実行においては、生態系が複雑なものであればあるほど大きな不確実性が伴う。一方、森林にしても河川にしても、そこから得られる財やサービスに関して多数の利害関係者が存在する。したがって、生態系管理の手法はおのずから順応的なものでなければならないことになる。

順応的管理(adaptive management)においては、地域の開発や生態系管理を一種の実験とみなす。計画は仮説、事業は実験であり、監視の結果によって仮説の検証が試みられる。その結果に応じて、新たな計画=仮説をたて、よりよい働きかけを行うべく、事業の「改善」を行う。この管理手法では、科学的な立場からの意見をも含め、広く利害関係をもつ人々の間での合意をはかるような合意形成システムをつくることが重視される。

生態系管理が順応的であるためには、生態系の成り立ち、構造、機能を支えている生態的な相互作用やプロセスについて、現時点で最も信頼性の高い生態学的知見を踏まえた調査・研究とモニタリングが欠かせない。管理の計画や手法は「仮説」であり、その有効性をモニタリングで確かめることが求められるからである。

順応的管理においては、科学的な要求、行政上の必要性、社会的な要求のいずれをもバランスよく考慮するための意思決定フォーラムが重要な役割を果たす。そこでは、研究者を含めた利害関係者ができる限り正確な科学的データをもとに、専門的な事項についても十分に理解したうえで、合意形成が図られる。

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