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土木計画学―公共選択の社会科学

人間の判断を介在せずに、何らかの数理的な「技術」のみによって得られる解のみに基づいて真に合理的な土木事業を推進しようとするなら、将来を完全に見通すことが不可欠である一方、そのような完全な将来予測などは不可能であり、それ故に、技術論にのみ頼るプランニングでもってして将来において合理的に機能し得るプランを策定することもまた不可能である。言うまでもなく、社会や自然の将来は、移ろいやすい一人一人の気分や、いつ生ずるとも分からない天変地異の可能性に常に影響を受けるのであり、それらを逐一予測することができる者などこの世に存在し得るはずはない。それ故、適切なプランを立案しようとするなら、“技術”の限界を適切に把握した上で、技術によって導き出された最適解を解釈し、参考にしつつ総合的に判断していく態度が不可欠となるのである。もし、特定の土木技術者がプラン策定における特定の判断を下すことが求められる立場にいるのなら、数値に基づく合理的計算を行いつつも、様々な社会的な要素や自然界における様々な不確実性を加味しつつ、総合的に判断することが不可欠なのである。同様に、特定の組織や社会そのものが特定の判断を下すことが求められている場合においても、そうした総合的な判断を組織的、社会的に下していくことが不可欠なのである。いずれにしても、このような総合的判断を適切に下すことができる能力こそが土木技術者における「真の技術力」と呼ぶべきものなのであり、単なる数値演算を正確に為す能力は、土木技術者における技術力の一要素にしか過ぎない。おそらくは、この点を失念した者は、決して一流の土木技術者とはなり得ないであろう。

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