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魔女になりたい

人参が嫌いだと人に言えず、我慢して野菜はなんでも食べられる良い子をやっていた頃、わたしは魔女になりたかった。

真っ黒のくるぶしを覆い隠すワンピースに、先が尖ってくるくるっとなったブーツを履き、中に猫でも隠せそうなとんがり帽子をかぶって片手には箒。パートナーは黒猫。
人語を話すことは求めません。猫語のマスターは、試みてみましょう。猫は猫人は人。お互いそのままでよろしい。互いの存在を思いやることが出来ればそれで。夜は身を寄せ合って眠りたいと思うけれど、お互いにそうじゃない日もあるでしょうから、人は人の方法で、猫は猫の方法で毎晩伝えることとしよう。

なぜ魔女になりたかったのかは、あまり覚えていない。箒で空を飛びたかったことは今も覚えているし、なんなら今も飛びたい。空を生身で飛ぶ夢は、今でもよく見る。
「魔女図鑑」「魔女のなりかた」「メリーポピンズ」「魔女の宅急便」「ハリーポッター」とかとか、読み耽って、本気でホグワーツに通いたかったのに、手紙はとうとう来なかった。


人参は嫌いだから食べたくないし、焼きそばにピーマンを入れるのもやめて欲しいと主張できるようになった今でも、わたしは変わらず魔女になりたい。
魔法の杖でちょちょいのちょい、と学生さんが面談で本来の力を出し切れるように魔法をかけて、企業の隠れた良いところが伝わるように魔法をかけて、でっかい薬草鍋をぐるぐるかき混ぜ、出来た薬を飲めばお互いが対等で、誤解がなく選考を進めていけて、疲れている人を見れば、食すと元気が出るリンゴをあげる、そんな魔女になりたいのだ。

最近は、その道を究めれば、「ちょちょいのちょい」の魔女に近づくことはできるんじゃないかと思い始めている。だって料理を15年くらい続けたら、「ちょうどいい」塩や砂糖の量が計量スプーンを使わずに計れるようになったし。

日々の仕事も魔女修行と思えばなんとやら。
私はスーパーハイパーベリベリグッドな魔女になって人参とピーマンは酸味の強いリンゴ味に変えることにする。コトコト弱火で甘く煮て、人参パイとピーマンパイを一年中食べるのだ。

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