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vol.132 川端康成「千羽鶴」を読んで

名作と名高いこの小説、伝統的な陶器の美しさを絡めながら、愛と罪と死が漂う作品だった。これぞ川端作品だと感じながら、繊細で美しい文章と描かれた世界を楽しんだ。

<内容>
主人公、三谷菊治は25歳ぐらいの独身の会社員。父と母を相次いで亡くし、茶室のある屋敷に女中を置いて暮らす。栗本ちか子はお茶の師匠で、生前の菊治の父と関係を持っていた。ちか子の茶会に来た菊治は、千羽鶴の風呂敷を持った美しい令嬢、稲村ゆき子にめぐり合う。その茶会で、菊治は幼い頃から敵意を持っていた父の愛人大田未亡人とその娘の文子にも出会う。菊治と大田未亡人は一夜を共に過ごす・・・。(内容おわり)

志野焼茶碗(Wikipediaより)

父の面影を受け継ぎながらも自分らしく生きようとする菊治。現実的で合理的な生き方を通すちか子。しなやかさとたくましさが印象に残る文子とゆき子。愛欲を引きずりながら幻想的に生きる大田夫人。

主な登場人物はこの5人、それぞれの個性に引き込まれる。

特に際立っていたのは大田夫人。運命に身を任せながら死の影を追うような生き方はどこから来るのだろうか。過去に縛られすぎているかのような彼女の選択は、どういう心持ちなのだろうか。大田夫人の生き様は、僕の心に重く響いてくるが、彼女の心は想像し難い。

今まで読んだ川端康成の小説は、伝統的な日本文化を背景に、その登場人物は、孤独とか絶望を内に秘めながらも、どこか妖艶ようえんで心美しく描かれていた。

『雪国』は、親の遺産で無為徒食むいとしょくに生活を送っている旅の男「島村」に関わりながら、芸者として生きている「駒子」の淡いはかなげさが描かれていた。

『伊豆の踊り子』では、精神の患いが気になっている二十歳の男子学生と、卑しい身分とさげすまれた旅芸人との優しく触れ合う様子が描かれていた。

『古都』では、生き別れた双子の姉妹の運命と、「捨て子」を我が子のように育て上げる両親との優しいいたわり合いが描かれていた。

共通しているのは、孤独とか絶望の中でも自分の内面に正直に生きようとするその姿。

22歳の川端康成と15歳の伊藤初代(神奈川新聞より引用)

川端の体験がそんな作品を書かせているようにも思う。生い立ちをもう一度調べた。

日本大百科全書によると「16歳の少女と婚約し、1か月後彼女の心変わりで破約になり、身辺の多くの死、孤児の体験、失恋の痛手などは川端文学の根本的性格を形づくるうえで作用した。」とあった。

やはり実体験をなぞりながらの描写は、小説に深い重みを与える。続編「波千鳥」
もこのまま読んでみよう。

おわり

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