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運命のヒト

朝日の差し込む寝室。
フッと目が覚めた。
隣で姫ちゃんはまだ眠っている。
もうそろそろ姫ちゃんのアラームが鳴る頃だろうか。

正確な時間を確認することなく、隣で眠る姫ちゃんの方へ体を向ける。

眠るときは腕枕をするのが日課だ。
再婚してもう10年以上経つというのに毎日、毎日。
ケンカをしている日も例外ではない。
俺の腕枕じゃないと眠れない、と姫ちゃんは言う。

寝ている間に寝返りをうったのだろう。
姫ちゃんは俺に背を向けている。
その姫ちゃんの頭の下に俺の腕を滑り込ませ、
そのままグイッと俺の方を向かせる。
そして優しく抱き寄せる。

姫ちゃんの髪に顔を埋めると、ヘアオイルの甘い香りがした。
空いているもう片方の手で髪を撫でる。

まだ目覚めない、俺の愛しいヒト。

こんな風に人を愛せる日が来るなんて、
思ってもみなかった。

ガキの頃から
何に対しても執着心がなく、
何に対してもあまり感動しなかった。

俺は冷めた人間なのだと思っていた。

家族も友達もいる。
女にも不自由しなかった。
特別金持ちだったわけではないが、
特別貧乏だったわけでもない。

どちらかというと恵まれていた方だと思う。

でも…
俺が見る景色は、なぜかずっとグレーだった。

ナンパや浮気にうつつを抜かし、これは俺の病気だと思いこんでいた。
どんな女を抱いても満たされなかった。
行為が終われば、その女にもう興味は無くなった。

だけど…
姫ちゃんを見付けた。

今思うと、俺は姫ちゃんを探していたのかもしれない。

姫ちゃんと出逢って、急に世界に色がついた。
俺にこんなに感情があったなんて知らなかった。
積み上げてきた全てを捨てても、姫ちゃんと人生を共にしたいと思った。

人生折り返し…
そんな言葉は好きじゃない。
でも、
最近は少しその気持ちが理解できるようになってきた。

この世に永遠なんてものはない。
始まりがあれば、必ず終わりがある。

どんなに姫ちゃんを愛していても、いつかは死が二人を分かつのだ。

前世があったとするならば、きっと俺は姫ちゃんを愛していたんだと思う。
どんな関係でどんな別れがあったのか、俺には記憶がないからわからない。
でも、現世でこれほどまでに姫ちゃんを探していた。

そして、もし来世があるのなら…
やはり姫ちゃんを探すだろう。
記憶もなければ目印もない。
性別も世代も全く違うかもしれない。

でも…
きっとまた好きになる。
きっとまた愛さずにはいられない。

そんな少女漫画のようなことを考えていると、
腕の中の姫ちゃんが目を覚ました。

「おはよ」からのキラースマイル。
いつも通りの朝。

明日も明後日も…
同じような毎日。
でも、幸せな毎日。

「姫ちゃん、愛してるよ」

思わず口から出た言葉。
姫ちゃんは細い腕を俺の背中にまわし、ギュッと俺を抱きしめながら言った。

「今日も私を好きでいてくれてありがと」





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