価格感は理屈ではなく直感である、いくらなら買いたい?という問いはNG

プライシングは本当に難しい。。。だからこそシンプルに考えてみます。

商品開発の過程では、ニーズ調査やコンセプト調査などさまざまなリサーチが行われます。その中で、もっとも悩ましいのが「価格決定調査」ではないでしょうか。調査結果を見ても本当にこの価格で買ってもらえるのか、その額が妥当なのか、納得感が薄いケースが多いようです。
そこで、価格決定方法に新しいアプローチを提案します。
 
価格決定調査の定石
価格決定の調査方法はすでに確立されていて、もっともポピュラーな分析方法のひとつが「PSM分析」です。
簡単に説明すると、ある商品に対する次の4つの価格から分析をするものです。
・これ以上高いと買わないと思う金額
・ちょっと高いなと思う金額
・ちょっと安いなと思う金額
・これ以上安いと、品質に不安を覚える金額

この4つの価格を聞き、グラフ化してできる交点から「最大許容価格」「適性価格」「妥協価格」「最小許容価格」を割り出します。
需要価格をベスト価格と判断しつつ、その価格と自分たちの想定価格との乖離を確認。近しければ、「この価格でだいたい大丈夫だ」と判断できます。あまりにもかけ離れているようであれば、最大価格と最小価格の範囲内に入っているのかどうかなどをチェックします。
 
このPSM分析はとてもわかりやすく、よく考えられた理論です。これ以外にも、価格決定調査にはいくつかの分析方法があります。
しかし、どれも定量的にアンケート調査を行い、「いくらなら買いたいか?」という問いをベースにしていて、ロジックは異なれど、本質的にはあまり変わりません。
 
 
アンケートで「いくらなら買いたいですか?」と訊ねても、回答する人は、お財布を出して今すぐお金を支払うことを前提としていません。
人の心理として安ければ安いにこしたことはありませんから、調査結果は往々にして安くでがちですし、逆に、調査結果から値決めをしたけれど高過ぎて売れない、ということもあります。
 
定量調査の限界
価格感を確認したいのであれば、定量的なアンケートではなく、むしろ定性的な調査のほうが適しています。
対話をしながら、理由まで聞き取れるインタビュー調査がベストでしょう。しかし、インタビューまで行わないにしても、実際にものを見ながら判断できるオフライン型の調査のほうが適していることは間違いありません。
 
ものの価格を評価するとき、人はさまざま情報を判断材料にしています。見た目や質感、サイズ感や触り心地。食品であれば、味や食感も重要です。いろんな情報を総合的に勘案して、「いくらだろう?」「だったら欲しいな/いらないな」と決めていくものです。
 
それを、パソコンやスマホの画面上を通じて「いくらなら買いたいか?」を聞いても、商品情報をどこまで正しくインプットできているか疑問です。
調査でより精緻な価格帯を知りたいのであれば、回答者にもの自体の情報を正しく理解してもらうことが必要です。見た目を正確にインプットしてもらい、必要であれば、機能や性能など、より詳しい情報として補足する。定性調査であれば、こうした丁寧なアプローチが可能です。
 
「いくらなら買いたいか?」に意味はある?
問いかけの言葉にも疑念があります。「いくらだったら買いたいか?」という聞き方に果たして意味があるのでしょうか。
そもそも「買いたいかどうか」と「いくらかどうか」は別軸の話です。
また、「いくらだったら買いたいのか?」という問いは、今世の中にある同じようなものをイメージさせてしまいます。「似たようなあの商品はいくらだから、まぁ、このくらいかな」と考えてしまう。新商品の場合はとくに、現行品を想起させ比較させることは好ましくありません。
 
だとしたら、次のような聞き方のほうがよいのではないでしょうか。
 
「第一印象で、いくらだと思いますか?
「いくらだったらうれしいですか?

こうした聞き方のほうが、よりそのものの価値を表すはずです。
 
ものだけを見た第一印象での価格を聞いたあと、定性調査であれば、情報を段階的に提示していくこともできます。より詳しい機能や特徴がわかれば、想定する価格も変わるでしょう。付加価値がわかれば多少なりとも上がっていくはずで、その変化から求められる機能と価格のバランスを探ることができます。
 
「買いたいか」というワードは、価格決定の調査において不要です。「いくらだと思うのか?」「いくらだったらうれしいのか?」、この2つの問いかけを、定性調査の中で行っていくことが、ネオマーケティングが提案する価格決定方法です。
 
もちろん、「いくらだと思う?」「いくらだとうれしい?」という問いかけでも、想定価格との乖離が起きる可能性はあります。しかし、具体的に購入するシチュエーションをイメージしていない中で「買いたいか?」を聞くより、リアリティある価格帯を探ることができるはずです。
 
定量調査で行う方法
価格決定調査は、プロトタイプができあがった後、値幅の確認のために行うケースのほかは、開発の中盤で行われるケースがほとんどです。
具体的なプロダクトがない段階で価格調査を実施することも珍しくありません。ものを見せながらの定性調査が行えない場合でも、定量調査をアレンジすることで、価格感とニーズの強さを探ることができます。
 
たとえば、すでに類似商品があるけれど、その商品に対する不満や問題を解消する新商品ができそうだという場合。
 
「○○の問題を解消するものがあるとしたら、いくらだったらうれしいですか?」と訊ねるのです。現行品の不満に対し、いくらかけて解消したいのか、というアプローチをするのです。
 
たとえば、つけまつげに500円かけているけれど、すぐにズレてしまうという問題があったとして、「ズレない状態になること」に対する価値を聞くわけです。
 
「100円だったらうれしい」となれば、新商品は600円でも買ってくれるでしょう。
もし、「300円出しても欲しい」となれば、そのニーズが強いことがわかりますし、「10円ぐらいしか出せない」ということであれば、さほどの問題でないと判断できます。
 
もの自体を見せながらの定性調査がベストではありますが、定量調査でも設問の展開の仕方で、より価格決定調査の精度は上げていくことができます。
 
価格調査結果から売価の基準を決定し、その単価から製造・販売、プロモーションまでの予算が決定されます。価格決定が間違っていたからといって、一度、世に送り出してしまったら安易に売価を下げることはできません。損失額が大きくなるだけですし、その商品を評価して正規の価格で買ってくれていたユーザーに対して失礼です。
 
赤字にならないことはもちろんのこと、できるだけ利益率は上げていきたい。当然、価格も可能な限り高く設定したいが、一歩間違えると、まったく売れないことにも直結してしまう。売れなければ本末転倒。
一体、いくらが適正なのか
 
商品やサービスを展開する事業者すべてが抱えている課題だと思います。新商品かどうかにかかわらず、最近ではさまざまな原材料が高騰していますから、価格決定はより重要になっており、慎重さが求められます。
 
だからこそ、定量的に「いくらなら買いたいか?」という問いが本質なのか?リアリティがあるのか?という疑問を持つことが重要ではないでしょうか。

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