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近代官僚制とNetflixビジネスモデル: 近代官僚制論の学術史的展望

割引あり

概要

 本稿の目的は,M. ヴェーバーに始まる近代官僚制論の学説史を追うことでその特質を明らかにしつつ,近代官僚制とNetflixビジネスモデルの間に見られる構造的差異を明らかにすることで,今後の組織論の在り方について現代的な視点から捉えるための枠組みを導き出すことにある.ここであえて,Netflixを比較対象として引き合いに出すのは,その特質が近代官僚制とは対称的なものであり,かつ,現代社会においても特異なものとして一定の評価を受けているためである.

 まず,序論では,「近代化とは何か」という定義的側面から論を始めたい.ここでは,近代化論と称される理論群の中で,「第一の近代化」と呼ばれる脱魔術化・世俗化に焦点を定め,その特徴を論じていく.そうした中で,F. テンニースによる集団類型論より「基礎集団/機能集団」の比較を援用しつつ,近代的な合理性を代表する概念として「機能集団」について着目し,そうした組織の好例として近代国家や軍隊に見られる近代官僚制を提起する.ここで,論者によって主張内容が多寡に異なりつつも,人格性がしばしば顕わになっていた基礎集団に対して,近代官僚制では非人格制こそを強調しているという点で,多くの論者の意見が合致するであろうことを指摘することで,論の方向性を固めたい.また,主題への導入として,近代官僚制への視座を打ち立てたヴェーバーの理論から始まる近代官僚制論の流れを紹介し,官僚制の逆機能に焦点を当てたR. K. マートン,そしてヴェーバーの理論に目的の概念を組み込んだC. バーナードの理論を取り上げ,近代官僚制の特質について検討することを示す.その後,近代官僚制に対して批判を行ったジョージ・リッツァの主張を引き合いに出しつつ,ドゥ・ゲイによる近代官僚制への再評価を援用して,新たな組織の在り方と称されるNetflixのビジネスモデルが,どのように組織論に位置づけられるか検討することを明示する.

 第1章の「学説史的展望」では,近代官僚制論の学説史的展望としてヴェーバー/マートン/バーナードの理論をそれぞれ取り上げ,どのようにヴェーバーの理論が展開されてきたかを論じていく.ヴェーバーの理論においては「支配」と近代官僚制の結びつきに言及しつつ,近代官僚制の特徴として挙げる項目を検討してみることにしたい.また,ヴェーバーは近代官僚制論においてどのような視角を取っていたのか,言い換えれば,どのような特徴を重視していたかを明らかにすることで,理論の相対化を図る.マートンの理論においては,ヴェーバーの近代官僚制論を補う形で,「官僚制の逆機能論」を主軸として扱い,近代官僚制の典型例を挙げつつ,潜在的な非合理性を指摘していく.バーナードの理論においては,バーナード独自の近代官僚制論について言及しつつも,F. セルズニックの指摘を踏まえて,ヴェーバーが近代官僚制論において重視する特徴と,バーナードが重視する特徴の相違点と共通点を論じたい.

 第2章の「近代官僚制の特質」では,前節で検討した近代官僚制に対する,リッツァによる鋭い批判と,ドゥ・ゲイによる肯定的な再評価について言及することで,目指されるべき組織の在り方を検討する.リッツァによる批判においては,社会の「マクドナルド化」の指摘を主軸に,合理性/非合理性や効率的/非効率的な状況を作り出すパラドックス的現象を論じていく.対して,ドゥ・ゲイによる再評価では,近代官僚制の負の側面以外に注目することで,現代に応用可能な特質を拾い直す契機にしたい.特に,生活世界の植民地化の状況が常態化しつつあることに焦点を当て,近代官僚制からの移行が招いた功罪に関して言及する.また,ドゥ・ゲイが指摘する,官僚性が保持する倫理に関しても言及することで,第3章で論を展開していく上での足がかりにしたい.

 第3章の「Netflixビジネスモデルという名の現代組織」では,まずNetflixビジネスモデルについて,複数の文献を参照しながらその特質を述べた後に,モデルへの批判をまとめる.その上で,批判を超えてあるべき組織の在り方を考察していく.Netflixのビジネスモデルは,「世界一自由な企業」と称されるほどに,近代官僚制が持ついくつかの原則を持ち合わせていない.①規則による秩序付けられた権限がなく,②上下の関係による階層がないために,③組織の活動が文書記録によって制限されることもない.このように,Netflixは現代を代表する一企業として,近代官僚制の下における組織と比較がしやすく,その特質を明確にすることが比較的容易であると考える.そこで,先行研究を踏まえつつ,近代官僚制と,その対極に位置するNetflixを比較検討することで,主題である目指されるべき組織の在り方へ繋げていく.注意すべきは,しかし,Netflixのビジネスモデルは現代に普遍的な組織の在り方とは言えず,また成功例の一つでしかないために,今回の研究ではモデルとして(捨象をすることによって)抽象的な視点から,組織論へ結び付けなければならない.

 最後に,「おわりに」では,本稿の総括として主張をまとめあげながら,今後の課題点について言及し,再度,Netflixのビジネスモデルが,どのように組織論に位置づけられるか検討しつつ,論を締めくくる.

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