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"詩人計画" ( 「T.S.エリオット 人と思想」徳永暢三 著 清水書院)

T.S エリオットは1888年アメリカ、セントルイス生まれ、ハーバード大卒、1914年、奨学生としてオックスフォードのマートン・コレッジ入学、その他、パリ、ソルボンヌ大学やドイツでも哲学や詩、宗教などを研究。初めて詩を発表したのは17歳のとき。

(因みに、有名なミュージカル作品「キャッツ」の原作となった『キャッツ - ポッサムおじさんの猫とつき合う法』を書いた人。)
 
  夏目漱石が33歳のとき文部省の命でイギリスに留学したのは1900年。それは、鎖国明けの日本が、世界基準での文化を自国に持ちかえるための事だったというのは何となく想像できますが、その14年後、エリオットは個人の意思で留学しています。長年の研究がエリオットの詩にどのくらいの重厚さや広がりを与えているのかはまだ私には分からないですが、

イメージとして、詩人は、ただ

感受性勝負っ!だっ!

と、勘違いしていた部分を修正するために読みました。



(代表作「荒地」の解説)

エリオットが示唆を受けたという、このような神話・伝記では、漁夫王フィッシャー・キングと呼ばれる水辺の城の主が負傷したり、悪しき欲望のために不具や不能になったりすると、作物は干魃で実らず、国土も住民も不毛となる、すなわち「荒地」と化すというのである。そして、このような呪いを解くために、高潔で勇敢な騎士ナイトが現れて、「危険な聖堂」の中にある二つの神器、槍と聖杯を手に入れると、国土は再び豊穣になる。
  ところで、槍は男性の、聖杯は女性の、それぞれ性器の象徴と考えられるが、両者とも古代地中海沿岸の国々の豊穣神(アドーニス、アッティス、オリシス)の所持品ということになっていて、ローマ時代に入ると、槍は十字架上のイエスを刺した槍であると信じられ、聖杯はイエスが最後の晩餐に用いた盃であるとか、十字架上のイエスの血を受けたものであるなどと信じられるにいたった。
April  is  the  cruellest  month, breeding
Lilacs  out  of  the  dead  land,mixing
Memory  and  desire,stiring
Dull  roots  with  spring  rain.

四月は最も残酷な月だ
死んだ大地からライラックを育て
記憶と欲望を混ぜ合わせ
春の雨で鈍い根をふるい立たせる

(略)チョーサーの『カンターベリー物語』のプロローグのパロディーであると指摘されているが、チョーサーの月並みで肯定的な春の扱い方とは全く違って、エリオットの春は否定的に観照されている。逆説的な表現の中に「荒地」のテーマが打ち鳴らされている訳で、四月が真の精神的蘇生をもたらさず、記憶によって性的欲求を掻き立てる(セックスの含意を汲み取ってもよい「根」をふるい立たせる)のみだ、と読むことが可能である。

言葉の裏に込められた意味もそうですが、日本語訳した詩集を読むだけだと、韻を踏んでいるところや、単語のイントネーションの組み合わせで作られたリズムが分からないので、今まで詩集を読んで魅力を感じなかったのはそれが原因でした。

映画など、作者の朗読会のシーンで、"そんなにゆっくり読むかね?"と、感じていましたが、観客の理解を待つための"間"だったのですね。



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