次世代の蓄電システムはどうなるか

 旭化成の吉野さんが、リチウムイオン二次電池に関する功績が認められ、ノーベル化学賞を受賞してから1年が経ちました。ちなみに、吉野さんの功績は、負極材料にカーボンナノファイバを用いて性能を向上し、さらにその安全性を実証した事で、製品化に成功した事でした。

 そのリチウムイオン二次電池(以下 LiB )は、現在スマホやノートPC、そして電動アシスト自転車やハイブリッド車にも採用されており、我々の日常生活に無くてはならないものとなっています。

●シェアを落とす日本の蓄電池産業

 しかし、その技術開発への貢献の一方で、日本の蓄電池産業の盛り上がりは小さなものとなっています。それどころか、日本のメーカはシェアを落としつつあるのです。

リチウムイオン電池、日本は中韓に苦戦
https://www.sankeibiz.jp/business/news/191016/bsc1910160500007-n1.htm

 その一番の要因は、価格です。日本は確かに技術力も高く、モノとしての品質は一番良いのですが、何と言っても価格が高いのです。

 蓄電池は、容量が大きい程、それを使うメリットも大きくなります。しかし、価格が高いと容量を増やせません。

 品質は抜きにして、同じ機能を持つ電子機器や部品を日本製と中国製で比較すると、感覚的に3~6倍くらいの価格差があります。これでは極端な話、購入した製品の半数が不良でも、まだ中国製の方が安いという事になります。

 そして、最近は "Made in China" の 看板を前面に打ち出す企業も出ているくらい、品質の向上も目覚ましいものがあります。アメリカが危機感を抱くのも、無理も無いと思います。

 また、韓国勢も飛躍しています。EV向けの蓄電池のシェアは、中国の CATL が1位でしたが、最近韓国の LG が CATL を抜いて1位になっています。さらに前は日本の Panasonic が1位だったのですが、現在は3位になり、さらに SAMSUNG SDI に追い上げられているという状況です。

●激しさを増すコスト競争

 最近のリモートワーク導入拡大で、またノートパソコンやモバイルルータなどの需要が急増しましたが、それ以前は、モバイル機器の需要は飽和しつつありました。そして、次の蓄電池需要の伸びが期待されたのは、電気自動車と家庭用蓄電池です。

 日本でも、最近の災害への対策強化で、家庭やビルの非常電源としての蓄電池導入が増加してきています。さらに大きなところだと、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギ導入拡大に伴い、それらの変動を吸収して電力系統を安定させるための用途として、数~数百MWhクラスの蓄電池の需要増加が見込まれています。

WoodMac: Global Energy Storage Capacity to Hit 741GWh by 2030
https://www.greentechmedia.com/articles/read/woodmac-global-storage-to-reach-741-gigawatt-hours-by-2030

 一番エネルギ密度が高く、特性も優れているとされるLiBは、小型機器ではニッケル水素電池とほぼ肩を並べるほどになりました。しかし、大規模化用途に向けては、まだコスト低減が大きな課題です。

 現在の蓄電システムとしての日本メーカの価格は、kWh単価でみると

鉛酸蓄電池:5万円/kWh
ニッケル水素:10万円/kWh
LiB:20万/kWh

というところです。これだけすでに普及し、さらに需要が伸びる見込みがある割に、日本国内の価格は下げ止まり傾向にある感じです。

 蓄電池以外の、インバータの機能などで付加価値を出そうとしていますが、本格的な普及には、少なくとも鉛酸蓄電池の5万円/kWhに並ぶようでないと難しいと思います。

 ところが、アメリカのEVメーカ TESLA から出された "Powerwall" が、業界に衝撃を与えています。

テスラが家庭用蓄電池「Powerwall」を日本で本格展開、認定施工会社は8社に
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/2008/26/news037.html

 これは、壁掛け型の高いデザイン性も然ることながら、注目すべきはその価格です。この Powerwall は 8万円/kWh を切っています。

 そして、最近中国のメーカも、ビルや自治体向けの100~200kWhクラスの蓄電池を7万円/kWhの価格で出してきており、このクラスも今後価格競争が激しくなると予測されます。また、電力系統安定用のMWh以上の大型クラスでは、やはり TESLAの "Megapack" が注目を浴びていて、なんとそのシステムコストは $300/kWh と言われています。

Tesla Megapack, Powerpack, & Powerwall Battery Storage Prices Per kWh — Exclusive
https://cleantechnica.com/2020/10/05/tesla-megapack-powerpack-powerwall-battery-storage-prices/#:~:text=The%20Tesla%20Megapack%20now%20comes,Musk's%20comments%20to%20me%20today.

 コスト要因としては、バッテリのセル本体の他、パワーエレクトロニクスに使用する半導体モジュールや制御システムなどもあります。それらについても、今後さらにコスト競争が激しくなっていきそうです。

●コスト競争の裏で現在化する材料と資源調達の問題

 激しさを増すコスト競争の一方、資源調達の問題も顕在化してきています。

現在最も普及しているLiBの正極材料は、「コバルト酸リチウム」というものですが、そのコバルトの採掘の大半は、コンゴで行われています。コンゴは、ダイヤモンドなどの地下資源が豊富な事で有名ですが、その利権争いのため紛争が絶えず、国民は極度の貧困生活を強いられています。

 そして、コバルトの採掘には、生活のために子供もその労働に駆り出されているという事が、問題視されました。

人権団体が提訴…アップルやグーグルやテスラは「コバルト鉱山での児童虐待に加担している」
https://www.businessinsider.jp/post-204357

 SDGs への取組として、エネルギー問題解決への寄与も期待されているLiBですが、これでは「貧困をなくす」という一番肝心の目標が達成されません。そこで、コバルトを含まないLiBの開発も進んでいます。

●ポストLiBも出始めている

 さらに、また新しい電池として、「亜鉛二次電池」が今年に入って注目を集めています。日本では、日本触媒がその開発に成功したそうです。

寿命は鉛電池の100倍以上、充放電の課題を解決した新しい亜鉛電池を開発
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/2002/20/news045.html

  注目すべきはその「寿命」、「材料」、そして「コスト」です。

 まず寿命については、「鉛蓄電池の100倍以上」とあります。

 鉛酸蓄電池は、サイクル寿命が2500~3500サイクルで、年数は一般的に15~20年と言われています。LiBは3000~4000サイクルですが、年数は10~15年となっています。

 一方で、この「カーボン亜鉛ハイブリッド蓄電池」は、サイクル寿命が10000サイクル以上と、長寿命が期待されるものとなっています。

 また、材料については、リチウムやコバルトなどのレアメタルを使用せず、資源の問題も無いというメリットがあります。

 そして価格ですが、すでに大容量蓄電池として導入が進んでおり、kWh単価で $160~250/kWhという見込みが出されています。

Zinc battery hopeful Eos expands Nigeria microgrid partnership
https://www.energy-storage.news/news/zinc-battery-player-eos-expands-nigeria-microgrid-partnership

Meet Zinc, the Cheap Metal Gunning for Lithium Battery Crown
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-06/meet-zinc-the-cheap-metal-gunning-for-lithium-s-battery-crown

 この電池の今後の伸びが、非常に気になるところです。引き続き、蓄電池の市場から目が離せない状況が続きそうです。

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