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「システマティック」は相対評価

 以前、熱力学の「系」の話で、「システム」について話が及んだので、

ついでに思いついたことを綴ろうかと思います。

 「システマティック」な思考の代表例として必ず引き合いに出されるのが、アメリカの発明家「トーマス・エジソン」の話です。

 エジソンと言えば、電球の発明で有名ですよね。しかし、電球というものを最初に思いついて実験したのは、イギリスの「ジョセフ・スワン」という人だそうです。

 ただ、スワンの作った電球のフィラメントは、紙を燃やして作った炭で、たったの1分程しか持たないものでした。

 エジソンは、フィラメントを改良して竹炭を使い、さらにガラスバルブの中を真空にすることによって、約1200時間にまで長持ちさせることに成功したのです。ちなみにその竹炭は、京都で取れる竹で作った炭だったそうです。

 だから、よく

「白熱電球を発明したのはエジソンではない」

と言われたりもしますが、実用化したのはエジソンであって、十分「発明」に値する成果だと思います。

●エジソンの発明の本質は「電球」そのものではない

 それはいいんですが、エジソンはただ、電球を実用化したわけではありませんでした。この電球が「売れるための仕組み」を考えたのです。

 エジソンが電球の実用化に成功した、1870年代当時は、灯りと言えば「ガス灯」で、屋外用としてやっと、電気を利用した「アーク灯」が使われようとしていました。

 つまり、

電気を家庭に送るためのインフラ

が存在していなかったのです。

 これでは、電球をいくら改良しても、売れるものにはなりません。電気を家庭で使える人がいないからです。

 エジソンはその後、「エジソンダイナモ」と呼ばれる直流発電機を開発し、1882年には、ニューヨークから送電を開始します。

 また、エジソンは電気料金を徴収するため、電気化学の原理を利用した「クローム計」と言われるケミカル式の電力量計も開発しました。以下の図は、その原理です。

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(電流が流れると、片方の亜鉛板が溶出し、もう一方の亜鉛板に亜鉛が付着します。その重量変化を測定して、電力使用量とします。)

 さらに、照明を ON / OFF するためのスイッチや、電球を交換しやすくするためのソケットなど、とにかく、

電球を普及させて継続的に収入を得る仕組み

をどんどんと開発していったのです。

●要はどこまで視野に入っているか

 この、

「継続的に収入を得る仕組みを作った」

という点が、エジソンと他の科学者や発明家と違うところです。

 エジソンと言えば、交流送電の理論を確立したテスラとの「電流戦争」も有名です。しかし、実際にエジソンが戦っていたのは、テスラよりもそれを普及させたウェスチングハウスでした。

 つまり、エジソンは電球を「モノ」として考えたわけではなく、「電気が普及する社会の象徴」として考えていたわけです。そして、それを普及させるためのインフラや、その他ビジネスの仕組みまで考えていたという事です。

 これが、エジソンがシステマティックな思考をする代表的な存在になっている所以です。

●範囲を広げればキリがない

 しかし、エジソンが考えていたのは、アメリカのニューヨークを始めとした「都市」の単位で普及させる事でした。実業家だった彼の思考は、現実的でもあったわけです。

 それに対してテスラは、

世界中に無線で送電する計画

をしていました。

(現在、宇宙で太陽光発電を行い、それを無線で地球に送る研究もされていますが、それを考えるとなんという先見性でしょうか!)

 言ってみれば、テスラは世界全体への送電システムを考えていたことになります。それは現実的ではないだけで、テスラの方がよりシステマティックだったのかもしれません。

 その無線送電技術は、ウェスチングハウスによって「無線通信」に応用されます。無線技術がその後どのように発展していったかは、今スマホをお使いの皆さんが、よくご存じの通りなわけです。

 テスラ自体はその事には興味が無かったようなので、結局はウェスチングハウスが一番システマティックだったようですね。

 つまり、システマティックかどうかというのは、

どれくらい広い範囲を、関連する物事としてとらえることが出来るか

ということです。だから、

ある考え方そのものがシステマティックかどうか

というのは全く意味のない評価です。

●小さいシステムを考えることも重要

 では、

白熱電球を初めて作ったスワンの仕事

や、

発電機の原理そのものを考えたファラデーの仕事

は無意味だったのでしょうか。

 そんなことは決してありませんよね。

 「白熱電球」そのものをシステムとして、その仕組みを考えるという事が行われていなければ、エジソンの発明も無かったわけです。

 「誘導起電力が起こる仕組み」をシステムとしてとらえたファラデーの仕事も同様です。

 これは、以前の記事でお話しした、「思考のレンジ」の話と同じです。

 いろいろなレンジで、いろいろな分解能で考える人がいて、初めて物事は前に進んでいくのです。

 その事を理解して、必要な人や物など、資源を配分していく考え方こそが「システマティック」な思考であると、私は考えます。

(ちなみにカバーの写真は、ボストンに出張した際訪れた、ボストン科学博物館に展示されていた「50kW」の白熱電球です。白熱電球1つで高圧需要家の容量。。。残念ながら、点灯している様子は見られませんでしたが、おそらく眩しすぎて何も見えないでしょうね。)

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