感染症と差別

 また時事ネタです。

 というか、これは

「また日本は、同じ過ちを繰り返そうとしているのか」

というある種の危機感から書くことにしました。

 尚、誤解の無いように初めに断っておきますが、私はいわゆる「夜の商売」の関係者ではありませんし、客としてすら自分の意志では出入りしません(自分の時間を大事にしたいので)。

 また、さらに一応申し上げておくと、私は特に同性愛者に特別な偏見はありませんが、私自身同性愛者でもなければ、それを支援する市民運動の団体に属しているわけでもありません。

 そして、今回は科学の話でもなければ、おふざけも一切ない、まじめな話です。気分を悪くされる方もいるかも知れませんので、楽しい話だけ聞きたいという方は、この先は読まれないことをお勧めします。

●新型コロナウィルス感染症は「夜の街」の病気になる

 何かというと、新型コロナウイルス感染症の報道で、

「夜の街で感染が広がった」

と、繰り返し強調されていることについてです。

 以前は、

「接客を伴う飲食店で感染する「傾向がある」」

という言い方だったと思います。しかしここにきて急に、まるで

「キャバレーやナイトクラブで感染する病気」

のようにも聞こえかねない論調に変わった感じがしました。

 そもそも私は、質の悪い情報のインプットを最小限にするため、新聞やテレビなどはニュースを最小限しかチェックしていません。それでも、その論調の変化に気付くくらいです。

 今後多くの人に、そのイメージが刷り込まれていくことと思います。

●役人の保身のために「同性愛者の病気」とされたHIV

 この流れで真っ先に思い出したのが、20年ほど前に問題になった「薬害エイズ訴訟」の事です。

 これは、血友病患者が、血液製剤によりHIVに感染した事実が、長い間表沙汰にされず、やっと国を相手取った集団訴訟に漕ぎつけて、和解を勝ち取ったというものでした。

 その時、大学生を中心とした多くの若者が、霞が関にあった当時の厚生省の建物の前で座り込みの運動を行いました。当時高校生だった私も、本当にただのお祭り気分で参加したのですが、よく覚えています。

 「薬害エイズ事件」の概要は以下の通りです。

 日本ではHIVは、「性感染症」、もっと言うと「同性愛者」の間で感染する病気というイメージでした。現在でも、「性感染症」というイメージは強いかと思います。

 実は、日本で初めてHIVの感染が疑われた症状は、血友病の治療で、輸入の血液製剤を投与されていた患者で出ていました。しかし、当時の厚生省は、その認定を何故か、2年も見送っていました。

 そして何とその2年後、血友病患者が死亡してから厚生省は、同性愛者の日本人男性を、HIVの第一号患者として公表しました。その男性は、米国在住で、日本に一時帰国した際に診断を受けたそうです。

(現在中国が、新型コロナウィルス感染症に関する報告を、1ヶ月程遅らせたと非難されています。しかし、このHIVの認定の遅れは、その比ではありません。)

 ちなみに、HIVはもともとアメリカで、同性愛者の間で流行した「カリニ肺炎」を発端として、広く知れ渡った病気でした。また、血友病患者に処方されていた非加熱製剤は、アメリカから大量に輸入されていたものでした。

 そして、その非加熱血液製剤を使用した血友病患者を通じて、HIVの感染が広まっていったのです。確かに、HIVは性交渉によっても感染する病気ではありますが、それは二次感染だったのです。

 しかし、厚生省による、同性愛者の第一号患者の発表がきっかけで、日本でもHIVという病気が、同性愛者の間で広がる病気として、有名になってしまいました。日本で、同性愛者への偏見が強いのは、それも原因としてあると思います。

 さらに厚生省は、この血友病患者のHIV感染の事実を覆い隠すかのように、"Act Against AIDS" というキャンペーンを大々的に支援し、コンドームをイベントで配布するなど、冷静に考えると信じられないような広報活動を行います。これで、HIVは完全に、「性感染症」というイメージが出来上がったわけです。

●性教育が未熟な日本で助長される差別意識

 日本では昔から、性感染症はとても恥ずかしい病気であるとされてきました。現在でも、そのような偏見は多いと思います。

 それ故、たとえ血液製剤由来だったとしても、HIV感染者は一律に差別される結果となりました。中には、家族や親戚に迷惑がかかるという事から、病気の事を言い出せずに、治療もしないで亡くなった方もいると聞いています。

 集団訴訟で、座り込みの運動に参加した際も、本当に数名の患者の方が、病気の体を押して参加されていましたが、ほとんど顔はみせてもらえませんでした。血液製剤由来だとわかっていても、名前を出したくないからと、集団訴訟に参加しない患者もいると聞きました。

 まるで、日本でもともと差別されやすかった同性愛者、そして恥ずかしいとされた性感染症のイメージと、意図的にラップさせることで、血液製剤による被害者に、声を上げさせなかったかのような動きです。

 日本でこんな事があったなんて、信じられない人も多いでしょう。私も、この「薬害エイズ事件」を勉強した時、正直ゾッとしました。しかし、これは事実です。

 日本も、このような情報操作が、日常的に行われています。「GHQ」「電通」「3S政策」などのキーワードで検索すると、その辺の話は沢山出てくるでしょう。

 さらに言うと、日本の官僚制度は、中国を参考にしたものです。だから、日本では中国や北朝鮮、ロシアと言った、いわゆる「東側諸国」と言われた国々で行われている、政府や行政による情報統制への批判が聞かれますが、日本も全く同じ危うさを内包していると考えます。

●スケープゴートとして生まれる差別構造

 災害や感染拡大による社会不安が広まると、どうしても差別が横行しやすくなります。そして、対応のまずさに目を向けさせたくない政府や行政が、それを利用する傾向があるのです。

 今回、新型コロナウィルスの感染に再度拡大傾向が表れ、メディアの論調が「夜の街の病気」というふうにシフトしたのも、どうもそのような背景があるような気がしてならないのです。

 何故、ソーシャルディスタンシングが重要なのに、通勤の満員電車は安全なのでしょうか?何故その事を、マスコミもあまり触れないのでしょうか。疑問だらけです。

 感染症と差別は、表裏一体なのです。そして、社会的に弱い立場の人々から、その被害を被るというのは歴史が教えているところです。新型コロナウィルスの感染者が、「薬害エイズ事件」と同じように、差別の対象になっていかないことを願うばかりです。

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