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「ヘルマンの灯火」 - アミトス/シーラ/ヒューバート Extra食券イベント【ランス10 二次創作小説】

スクリーンショット:©ALICESOFT

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人口5100万人を有する北の大国、ヘルマン共和国。
その首都、ラング・バウはランス率いる魔人討伐隊による「魔人バボラ討伐せり」の報に湧いていた。否、首都だけではなく、ヘルマン全土が歓喜に打ち震えているのは明白であった。屈強なヘルマン人たちがこぞって天を衝くような雄叫びを挙げているにも関わらず、その熱気と地響きが首都まで響き渡ってこないのは、ひとえにこの国が広大すぎ、そして寒すぎる――ただそれだけの理由に違いなかった。

「信じられない……あの怪物を本当に仕留めてしまうとは」

ヘルマン第1軍の将軍、アミトス・アミテージがウェーブの掛かった金色の髪を揺らして呟く。
アミトスは決断力と行動力に優れた優秀な将軍である。魔人バボラという精神的支柱を失って混乱状態に陥った魔軍をきっちりと、そして容赦なく追撃した。そうして壊滅的な被害を与えると同時に魔人討伐隊の退路を確保してから、ランスたちより一足先にラング・バウに帰還していた。彼女が戦果を報告する先は、当然、ヘルマン軍の総司令官である。

「ははっ、あいつはやると言ったらやる奴だからなぁ」

戦果報告を受けたヒューバート・リプトンは、アミトスがこぼした嘆息に応えるように笑った。その動きに合わせ、燃えるような赤い長髪が陽炎のように揺らめいている。

「ともあれ……アミトス、御苦労だった。あのバボラ相手に被害を最小限に食い止めるのは精神的にも肉体的にも大変だっただろうが、これでいくらか報われたな」

ヒューバートは椅子から立ち上がり、アミトスの肩を叩いてねぎらいの言葉をかけた。それに対しアミトスはにこりともせず敬礼し、光栄であります、とだけ応えた。
『彼女が微笑みを見せるのは彼女の自室でのみ、それも趣味である油絵のためにカンバスに向かっている時だけだそうです』――クリームがそんなことを言っていたのをヒューバートは思い出した。だがそれもこの戦争が始まってからは、一度も没頭できていないに違いない。誰も彼もが心を休める暇すらない。それを誰よりも良く理解しているヒューバートは、アミトスの堅い応対にも慣れた様子で話を続ける。

「ま、ここからがまた大変なんだが……」
「魔人ケッセルリンクの侵攻に備えた防備体制の強化ですね」
「ん? ああ、それも間違っちゃいないっつうか、まあそれが正しいんだがな……んー……」

時折、ありもしない髭を擦るような仕草をするのは、付け髭で変装していた頃の名残りだろうか。ヒューバートは考え事をする際にそうした癖を見せた。あるいはそれは、彼なりに『場を和らげる』ための気遣いなのかもしれない。

「よし、折角だ。アミトス、おまえの次の任務が何だと思うか、当ててみてくれ」
「ハッ、我が第1軍はランス総統率いる魔人討伐隊がラング・バウに到着し次第、兵站の補充および装備の点検を行い、ランス城への帰還支援を行うべきかと考えます」

アミトスは迷いなく回答する。

「おう。さすが、将軍としては満点の回答だな」
「いえ……『勝って兜の緒を締めよ』、そう透琳殿に教わったものですから」
「ははあ、なるほど。……ランスにはヘルマンに優れた軍師殿を招くきっかけを築いてくれたって点でも感謝しねえといけねえなぁ」

ヒューバートは快活に笑う。

「だが、今回に至っては不正解だな。アミトスはまだランスってやつを分かってないな」
「……? どういう意味でしょうか」
「――エロ総統が帰ってくるから大人しく隠れとけ、が正解ってことだ」

ヒューバートの声と同時に、遠方からランスの大声が響いてきた。

「風呂だーーー!!! シィーーーラーーー!! アミトスーーーー!!!」

「な? 分かったら早くどっか避難して休憩しとけ。それがおまえの次の任務だ。補給作業は他のやつにやらせるから心配しなくていい。今夜はランスの気分次第だが、おそらく祝杯をあげることになるだろうから、それには部下と一緒に参加して英気を養っておいてくれ」
「……承知しました。ご配慮、感謝いたします」

アミトスは恭しく礼をしてから顔を上げると、改めて正面からヒューバートを見据えた。

「ん、どうした」
「ヒューバート司令官は……祝杯には、参加なさらないのですか」
「俺か? 俺はまあ、顔くらいは出すと思うぜ」

息をつく暇があればだが――
ヒューバートは内心そう呟いたが、言葉にはしなかった。息をつく暇がないならば、少しの間くらい息を止めて動き続ければいいだけの話なのだから。

「そうでしたか。それではまた後ほどお会いしましょう。……戦果報告は以上です」
「ああ、御苦労」
「失礼いたします」

カツカツと軍靴の小気味良い音を立ててアミトスが部屋を退出していく。それほど間をおかずしてバン! と勢いよく軍議室の扉が開かれ、魔人バボラの血と油でギトギトになった姿のランスが現れた。その手には既にシーラの細い手首が掴まれている。そうして振り回されるシーラはちょっと困ったような、けれどもそれが楽しそうな表情をしていたが、ヒューバートの視線に気がつくと、『ヒューバートさん、只今戻りました』と言わんばかりに小さく頭を下げた。

(なんとまあ、嬉しそうな顔しちゃって……)

口には出さず、ヒューバートも同じように頭を下げ返した。

「……で、どうした総統閣下さんよ」
「あん、ヒゲだけか。おい、アミトスちゃんはどこだ?」

ここに戦況報告に来てると聞いたぞ、と呟きながらランスは周囲を見渡す。しかし当然、アミトスの姿はどこにもない。

「ん? アミトスなら既に次の任務に取り掛かってる。しばらくは戻らねえよ」
「本当だろうな。ウソだったらたたっ斬るぞ」
「本当だっつーの。何なら、言伝でも頼まれておこうか」
「……ちっ。アミトスの隊はバボラに大苦戦してたからな、俺様が格好良く解決してやったと伝えておけ。俺様はこれから風呂に入ってくる」
「あいよ」

確かに伝えておく、そう返す言葉を待ちもせずにランスは踵を返して部屋を出ていこうとする。慌ててついていくシーラにもう一度会釈をしてから、ヒューバートはランスの背に声を掛けた。

「ランス。魔人バボラ討伐、感謝する」
「……ふん。男の感謝なんぞいらん。風呂から出てくるまでにうまい飯でも用意しとけ」

バタリと音を立てて軍議室の扉が閉まる。嵐のような喧騒が過ぎた後だからか、室内が一層静かになったような気がした。

戦死者の遺族への説明、ヘルマン各軍およびランス城本陣との情報統制、そしてケッセルリンクへの対応を含めた戦略会議。宴会の準備と魔人討伐隊への補給作業も忘れずに実施しなければならない。さらに、ヒューバートは総司令官でありながら、ヘルマン第3軍の将軍でもある。故に第3軍の部下達への指示も滞りなく行う必要があった。

「あー……人手が足りねえなあ」

ヒューバートはひとり呟く。
クリームはランス城。フレイアは魔人討伐隊。透琳は前線。パットンとハンティは聖魔教団の遺跡巡り。この部屋で仕事をしていた人間は一人残らず駆り出されて行ってしまった。もっとも、その許可を出したのは他ならぬヒューバート自身なのであるが。
おかげで彼には今日も徹夜になりそうだという確信があった。

「ま、ランスのおかげでアミトスに休息をやれただけでも良しとするか」

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その夜、ラング・バウでは魔人討伐を祝した宴が開かれた。
ヒューバートは乾杯の音頭を取った後はそそくさと退散し、軍議室でひとり作業を続けることにした。兵にとって、総司令官がいる場での酒ほど不味いものはないだろう。

「…………」

遠くから聞こえてくる宴会の喧騒――誰かが起きているという安心感は、仕事に没頭するのに丁度良かった。故に宴会がそのまま朝まで続くのをヒューバートは心のどこかで期待していたのだが、残念ながら日付も変わらないうちに夜の静寂が訪れてしまった。噂を聞きつけたクリームあたりが終わらせたのだろうか。あるいは次なる戦闘に備えて各々が自発的に切り上げたのか。やはり、誰も彼もが心を休める暇すらないようだとヒューバートは溜息をついた。

そうして静まり返った城内はより寂しく、より寒さを増したようにさえ思えた。時折、見回りに来た衛兵の足音だけが響き渡っている。

そんな中、ふいに軍議室の扉が遠慮がちにノックされた。

「どうぞ」
「失礼します……あ、ヒューバートさん。やっぱりまだお仕事をされていたんですね」

扉から顔を出して控えめの声量で挨拶をしたのは、シーラ・ヘルマンだった。隙間からディッシュトレイを持っているのが見える。

「シーラ。こんな時間にどうした」
「お夜食を持ってきました。それに、私だけじゃないですよ」

シーラが扉を開けると、その後ろに私服姿のアミトスが立っていた。湯浴みを済ませた後なのか顔の血色が良く、美しい金髪が僅かに湿っている。その手にはイーゼルとスケッチブックが抱えられている。

「夜分遅くに失礼いたします」

そうしてアミトスが頭を下げた拍子に、石鹸のやわらかな香りがヒューバートの鼻孔をくすぐった。

「……アミトスまで。珍しい組み合わせだな、急にどうしたんだ」

目を丸くしているヒューバートの様子にシーラは少しおかしそうに笑った。

「ふふ、ランス様からの避難です。特にアミトスさんは、ヘルマンでしか会えないからって執拗に狙われていて」
「ああ、なるほど……」

それだけでヒューバートはすべてを理解した。以前アミトスにシーラ移動時の護衛任務を依頼してからというもの、この二人はよく会話を交わすようになっていたからだ。それがこんな交友関係にまで発展しているとまでは想像していなかったが。

「私は任務通り休息をとっておりましたが、シーラ大統領にお誘いを頂いては断りようがありません」
「――というわけで、ヒューバートさん。迷惑でなければここでしばらく過ごさせてもらってもいいでしょうか? 執務の邪魔はしませんから」

シーラに頼まれたら断れないのは、ヒューバートも同じだった。無論、迷惑などではないし、些末な寂しさを覚えていたヒューバートにとってその温かみは歓迎すべきものであった。

「俺はもちろん構わないが……アミトスはともかく、シーラはこんな所にいたらランスに怒られないか?」

仮にもランスの奴隷なのだから。その言葉はアミトスの手前、飲み込むことにした。

「あーいや、どっちかって言うと俺がたたっ斬られるのか……」
「あ、いえ……それは大丈夫だと思います。私は……その、お風呂場で……ま、満足してもらったので……」

言って、胸に手を当てたままシーラはぼっと顔を赤くした。

「あー……なんだ……その、すまん」
「い、いえ……」

シーラもヒューバートしどろもどろになったが、アミトスだけはいつもの澄まし顔で直立不動のままだった。流石に鉄の女は違うな、とヒューバートは感心する。

「とにかくまあ座るといい。俺は執務を続けるけど気軽に話しかけてもらっても構わないし、何してても気にしないから適当にくつろいでいてくれ。あ、二人とも寒くはないか」
「はい。……あ、いえ、少しだけ……肌寒いかもしれません」
「では、私が薪を焚べましょう」

アミトスがイーゼルとスケッチブックを置き、煉瓦の壁に埋め込まれた暖炉に薪を焚べる。ヘルマンの暖炉は北国特有の構造をしており、部屋と部屋の間を埋めるように炉が組まれている。そこから伸びる煙道パイプは煉瓦の壁中を張り巡らされていて、煙からの輻射熱で複数の部屋全体を面で温める仕組みになっている。

「ありがとう」

シーラがお礼を述べつつ、持参した温かい紅茶を淹れ始めた。室内にフルーティな香りが漂い、それだけでヒューバートの心が安らぐのを感じた。白い陶磁器に注がれた琥珀色の紅茶に、お茶請けとしてイチゴの実がごろりと入ったジャム、そしてビスケットが添えられる。

「ああ、俺の席は書類でごった返してるから、俺がそっちへ行くよ」

そうしてヒューバート、シーラ、アミトスはそれぞれ並んで席につき、暖炉の炎を眺めながら深夜のティータイムへと洒落込んだ。三人は夜の静けさを楽しむようにして何とも言わずに紅茶を楽しんでいる。時折、パチリ、と薪 - タキギ- が爆ぜた。

「……温まるな、これは……」

ヒューバートは、漏れ出たその声と共に心が緩むのを感じた。
シーラは『ええ』と微かに声を出して同意し、アミトスはただ静かに頷いた。
パチリ。また薪が爆ぜた。ほう、と誰ともなく息をつく。

「……っと」

そう声を漏らしたのはヒューバートである。彼には和んでいる暇などなかった。前線では今も兵士が戦い、死んでいっているのかも知れないのだから――

「いかんな、そろそろ続きを処理しないと……」

ヒューバートが気を張り直し、仕掛中だった書類を手に取るために席を立とうとしたその時だった。

「ヒューバートさん」

シーラの手が、ヒューバートの手を掴んでいた。

「ヒューバートさんは働き詰めで心が休まる暇もないでしょう? 今日くらいは……ゆっくり過ごしても、いいんじゃないでしょうか」

ヒューバートは驚いてシーラの顔を見た。翡翠色の瞳の中に、暖炉の炎が強く明るく煌めいている。

「……執務の邪魔をしないんじゃなかったのか?」
「邪魔はしません。庶務なら私が代わりに担当します。軍務ならアミトスさんが」
「……ここにあるのは、その両方を熟知している俺しかできない作業ばかりだ。各国との軍事情報の共有しかり、遺族への手紙しかり」
「それなら、手や目だけでも休めてください。手紙なら私が代筆します」
「…………」

かろうじて絞り出した反論の言葉もシーラの有無を言わせぬ語気にかき消され、ヒューバートはたじろいでしまう。

「アミトスさんも心配されています」
「……アミトスが?」

ヒューバートが視線を送ると、アミトスもまた強い意志の籠もった瞳でヒューバートを見つめていた。

「ヒューバート司令官は、私の趣味のひとつが絵画であることをご存知でしたね」

言いながら、アミトスはイーゼルに立て掛けてあったスケッチブックを手に取り、それを広げた。そこには見慣れた首都ラング・バウが水彩で黒く、大きく、雄大に描かれている。陰影による立体感が巧みに表現されており、それが見る者を惹きつける『上手い』絵であることは、ヒューバートの素人目にもよく分かった。

「元々は油絵で自然の風景画をよく描いておりましたが、この戦争が始まってからは時間も資材もなく、外出する余裕もありません。それでも精神の鍛錬と休息を兼ねてと、自宅に帰れた日には一日一枚、水彩画を描くことにしているのです」

アミトスがスケッチブックをめくる。そこにはまた、ラング・バウの姿が現れた。だが、全く同じものではない。先のものは雲り空が描かれていたが、今度のものは夕暮れの一枚になっている。

「その日この眼で見て――この身体で守った、我らが首都ラング・バウの姿を」

次のページは雨風に吹かれるラング・バウ。その次は月光に煌めくラング・バウ。
朝露に濡れるその姿。眩い太陽を反射するその姿。霧に聳えるその姿。
アミトスが腕を動かし紙をめくる度、一片の手抜きもない見事な筆致の国都が現れ、ヒューバートを圧倒していく。その間も次々と見事な水彩画が現れては消えていく。

「……俺はアミトスが軍務と鍛錬を他の連中以上にこなしているのを知っている。それに加え、これをほぼ毎日描いているのか。それは並大抵の精神力じゃできない筈だ。お前の強さに納得がいった。……俺もこの程度で音を上げているようでは修練が足らないな」
「……いえ、私が言いたいのはそうではありません」

アミトスは目を瞑って首を振り、それにこれは休息を兼ねたものですから、と付け加えた。

「お気づきになりませんか? ほら、ここ」

それまで黙って見ていたシーラがヒューバートに問いかける。シーラが細い指で示したのは、水彩で描かれたラング・バウ上階の明かりが灯ったある一室。そこはスケッチブックのどのページにおいても仄かなやさしい光が灯っていた。

「ここは……」

ヒューバートはそこでやっと気が付いた。
そこはまさに今、自分たちがいるこの軍議室の窓なのだと。

「あちゃー……毎日見られてたんだな、俺ぁ……」
「正直な所、こうして常に明かりが付いていることで、ヒューバート司令官がラング・バウを守ってくれているような、そんな安心感はあります。しかし、この都に住んでいるのは城に勤める人間と、その家族だけです」

アミトスはその大きな瞳でヒューバートを見据えて続ける。

「なれば、我らは皆でひとつの家族のようなものです。この城は我らの家。貴方はヘルマンの灯火であり、我ら軍人の魂。だからこそ、潰えることがないように――そしてより一層大きな炎となるように、我ら全員で支えなければならない」

アミトスは珍しく熱くなった様子でまくし立てたが、それを彼女自身も自覚していたようで、最後に『上官に対する無礼な口上、お許しください』と述べた。

「……ああ。そんなことは気にすんな」
「もう一度言いますが、アミトスさんはヒューバートさんのことが心配なんですよ。もちろん、私も。だからそれに免じて、今日は折れていただけませんか?」
「是非にお願いする」

シーラとアミトスは揃って頭を下げた。

「あー、畜生、分かった。分かったよ。だがな、あくまでもこの部屋のトップは俺だ。俺の言うことには従ってもらうぞ。シーラにはさっき提案してもらった通り、手紙の代筆をしてもらう。そんで俺は……」

ヒューバートが乱雑に自席から書類とインク壺を引っ張ってきてシーラの前に置く。

「……俺は、茶でも飲みながら指示を出す」
「はい、分かりました!」

シーラが嬉しそうに声を上げた。ヒューバートの半ば乱暴な振る舞いは、それが照れ隠しであるとシーラには分かっていたから。

「アミトスは……そうだな……折角、画材一式を持って来てるんだ。俺ら三人の絵でも描いてくれや」
「え……わ、私自身も描くのですか?」

無茶な振りであるとは分かっていたが、アミトスには休息を命じている以上、軍務をさせる訳にはいかなかった。ならばと絵の話を振ってみたのだが、アミトスがたじろいだのがヒューバートには意外だった。あのアミトスが――、といった衝撃である。

「おうよ。何だ、自信がないのか?」
「……はい。私自身を描いたことは一度も無く……」
「ならこれも精神鍛錬の一環と思えばいい」
「……成程。承知しました」

そろそろアミトスとも長い付き合いになる。彼女の扱いにも慣れてきたな、とヒューバートは心の中で呟いた。それはきっと、シーラとアミトスからしても同じことだったのだろうが。

そうして深夜の軍議室にて、三人の作業が始まった。

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「……魔軍侵攻以来、幾多の困難を排して敵と奮闘し、また隊務に於いても軍規確守し平素訓練せられし実果を表し十昼夜の間連続抗戦に努め……」

本来であれば沈黙に満ちていたであろう、深夜のラング・バウの軍議室。
そこには、ヒューバートの静かな声が厳粛な響きを持って流れている。

「……時には寝食を欠くが如き場合ありといえども不屈不倒の精神にて敵の左翼に迫り……」

紙面を羽ペンが奔る音。
薪がパチリと爆ぜる音。
スケッチブックに優しく触れる筆の音。
それらの色を生み出す音が、ヒューバートの無色の言葉を色付けしていく。

「……軍人たる本分を尽くし、遂に名誉戦死を致さる。遺体は懇ろなる火葬の上……」

そうしてどのくらいの時間が経った頃だろうか。

「……ヘルマン軍総司令官 兼 第三軍将軍 ヒューバート・リプトン」

何十人目かの将兵の遺族宛の手紙をシーラが書き終えた時だった。
そろそろ今日は終わりにしよう、とヒューバートが言いかけると、

「……描き上がりました」

それまで一言も発しなかったアミトスの声が響いた。
これだけの時間で描きあげるその手早さに驚いたシーラとヒューバートは顔を見合わせたが、二人ともすぐに立ち上がりアミトスの元へと駆け寄った。

「わ……綺麗……」
「おお、こりゃあ……いい出来じゃねえか……」

それは暖炉方面から見た視点で描かれていた。
ヒューバート、シーラ、アミトスの三人が暖炉のほむらを眺めるようにして、いずれも穏やかな表情で並んで佇んでいる。その背後の窓には美しい三日月と、その光を浴びて煌めくラング・バウの街並みが小さく、しかし丁寧に描かれている。暖色と寒色のメリハリがついた、それでいて不思議と統一感を感じさせるヘルマンらしい一枚がそこにあった。

「……き、恐縮です」

やや戸惑ったような、恥ずかしがるようなアミトスの声を聞いて、ヒューバートはハッとした。もしかしたらアミトスはイーゼルに向かっている最中に、もしかしたら微笑みを見せていたのではなかろうか――。
それをすっかり見逃していたヒューバートは内心残念で仕方なかったが、しかしそれもこの絵の出来栄えの前には些末なことだった。

「この絵のタイトルは何ですか?」
「おう、それは俺も聞きたい。もう決まってるのか?」

シーラとヒューバートの二人が尋ねる。
アミトスは自分で描いた絵にタイトルなど付けたことがなかった。
しかしこの日、この時ばかりは、彼女の口からするりと次の言葉が漏れ出たのだった。

「――『ヘルマンの灯火』」

その日から、ラング・バウの軍議室には一枚の絵画が飾られるようになった。

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「いやーアミトス、悪いな。他の将軍の手前、お前がシーラや俺と一緒に描かれた絵を軍議室に飾られるのは都合が悪いかも知れんが……シーラが……まあ、俺も、あれをひどく気に入っちまったもんでな」

翌朝。アミトスは軍議室に招集されていた。
ヒューバートは昨晩、短いながらもよく眠れたのか、アミトスから見ても明らかに上機嫌だった。

「いえ、光栄です」
「そうか、なら良かった」
「ただ……あんな出来合いの水彩画で良いのでしょうか? 時間をいただければ、しっかりとした油絵に仕上げますが」

アミトスとしては当然の質問を投げかけたつもりだったが、それを受けるヒューバートは不思議そうな、まったく予想外といった感じの顔をした。

「ん? あぁ……違う違う、俺はこれがいいんだよ。何だよ心配すんな、これ以上ない良い絵じゃねえか。それに、戦時中で時間も資材もないって言ってたのはアミトスだろ。ま、戦争が終わったら、その時またゆっくりと描いてくれたらいいさ」

だからこの戦争、生きて勝とうや。
ふと優しくなったヒューバートの眼が、自分にそう伝えているようにアミトスには見えた。

「――承知しました」
「さて、昨晩はお疲れのところ悪いが、予定通りランスの帰還支援任務を頼みたい。あいつは昼頃には起きて来るだろうから、そしたら合流してランス城までの護衛をよろしく頼む」
「任務、了解しました。それではこれより我が第1軍は作戦準備を開始します」

アミトスはいつも通りの軍人らしい簡潔明瞭さをもって任務を承り、部屋を退出しようとした。そこでヒューバートは伝え忘れがあることに気が付いたようだった。

「いかん、忘れてた……アミトス、ランスからの伝言だ。『バボラの件、俺様が格好良く解決してやったぞ』だそうだ。あいつもまあ単純なやつだから、できればアミトスから労いの言葉ひとつでもかけてやってくれると助かる。でも、あいつの無茶な要望は聞く必要は全く無いからな」
「はい。委細承知しました」

――そうしたやり取りを済ませ、アミトスは軍議室から退出する。

カツカツと小気味よく歩を進め、廊下突き当りの曲がり角を曲がる。
アミトスはそこで足を止め、周りに誰もいないことを確認してから、くすりと小さく笑った。

「格好良いのは、むしろ……」

その先の言葉を聞いたものは誰もいない。



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スクリーンショット:©ALICESOFT

やーーーっっっほーーーー!
あなた! そう、そこのあなたよ! とっても久し振りね!
あなたの同士ヌヌハラ・キャベツよ!
……えっ、誰だですって? 私とは初対面ですって?
そういうあなたは[ランス10]を起動して、メニューの図鑑から私のお部屋にゴー!
[部隊編成]→[キャラ情報]から皆の食券イベントも見られるから活用してね! 私はめっちゃ見てる! 毎日見てる! 当然裸イベントも!

あっ、そうそう聞いて、聞いてよ、あなた!
[ランス10]はこの2月23日に発売3周年記念を迎えるの!
その祝いの節目に、同じランス様ファンのあなたと一緒にこの世界のことについて語り合えたら……そう思ってnoteを始めてみたの。
どれくらいの頻度で更新できるか分からないけど、できるだけこの世界の出来事を[Extra食券イベント]として書き記していこうと思っているわ。本編ではあまり見られなかった魔人さんたちの一面なんかも残せたらいいなと思っているので、良かったらたまに見に来てくれたら嬉しいな! もし、あなたにグッと来るExtra食券イベントがあったら、他のランス様ファンの同士にも教えてあげてね!

さて、今回はアミトスさん、ヒューバートさん、そしてシーラさんの素朴な一面でした。
あなたはこの三人、好きかしら? 私はもちろん大大大好き!
公式で行われた「あなたにとって最高のガール!」および「男の子編」の人気投票では、
・アミトスさん:50位圏外
・ヒュー様:21位
・シーラさん:10位
という結果だったの。ヘルマンは他の国よりもちょっと冷たいイメージがあるのかしら?
でもその分、人情味があって皆さん格好良いのよね……!!

さて、次回の更新では、みんな大好き! 永遠の発展途上忍者! K-1(かわいそうなキャラランキング)堂々の第1位! そう、見当かなみちゃんのExtra食券イベントを書き記せたらいいなと思っているわ!

というのも、今回のExtra食券イベントはその直前のお話なの! 魔人バボラ戦後で、かなみちゃんがどう弄られるのか……カンの良いあなたなら、大体予想がついちゃうかも知れないわね! うんうん、次回はランス様大活躍の予感……!!!

ただ、あなたに紹介したいお話が他にもたくさんあるから、順番が前後することもあるかも知れないの。どちらにせよ、あなたとまたお会いできるのを楽しみにしているわ! SNSでも情報発信をしていくので、宜しくね。情報魔法の腕の見せ所よー!

ハッ! 喋りすぎちゃった!
じゃあね、あなた! また次のExtra食券イベントで会いましょう!



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当作品は二次創作作品です。ALICESOFT様とは一切関係ありません。
ALICESOFT様の二次創作ガイドラインを参照し、不明点はサポート窓口に問い合わせて問題がないことを確認をした上で本作品を公開しております。

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