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シードVCは起業家のピッチを聴いているときに何を考えるべきか

ジェネシア・ベンチャーズというシードVCで活動を開始して早くも2年が経過しました。日々、多くの起業家の方とお会いして事業アイディアについてお伺いし、大きな事業創出を目指すスタートアップとしての成功確率を上げるためにディスカッションをさせて頂いています。

一回一回のディスカッションが真剣勝負で、初めて会う起業家の方との打合せ前は今でもとても緊張します。大きな勇気を持ってするチャレンジはそれだけで敬意に値しますし、全ての起業家に成功してほしいと願っています。

しかし、日々多くの起業家からピッチを受ける機会がある一方、実際に投資実行に至る件数は非常に少ないというのも事実です。

個人的には自身のキャパシティが許容する限りはできるだけ多くの起業家の方のビジョンの実現に向けてご一緒したいですし、シード期のスタートアップの資金調達支援を少しでもサポートできればと考えています。

そこで、シードVCのキャピタリストが起業家のピッチを聴いているときに何を考えるべきかについて、ごちゃごちゃと思考しがちな自身のこれまでの反省も踏まえて改めてシンプルに整理し、ピッチの際に起業家とのコミュニケーションをよりスムーズに進めることができるようになればと思い、筆をとってみました。

シード期の起業家やこれから起業を考えている方にとっても、VCと話をする際の参考になる内容になっていると嬉しいです。


1. シード期で検証すべき3つの仮説

売上実績もなく、プロダクトはこれから開発する段階で、チームメンバーの採用はおろか、会社すら設立していない状態であることも多いシード期のスタートアップの場合、ファクトで事業を語ることはとても難しいです。

となると、シード期の資金調達に当たってはファクトではなく、仮説がポイントになります。シードVCは事業の仮説に投資を行い、起業家は調達資金で仮説検証を進めていくことになります。

従って短いピッチ時間の中で、検証すべき仮説について起業家とキャピタリストの間で合意形成を行うことがシード期の資金調達においては重要になります。

水谷の場合、ピッチを聴いているときの思考として以下の3つの仮説を明確にしながら、起業家との合意形成を進めていくステップをたどっています。

① 解決を目指す「顧客」の課題欲求は大きいか
② 顧客の課題欲求の解決に向けたソリューションをビッグビジネスとして成立させることができるか
③ 顧客に対して競合他社と差別化可能な価値を常に提供し続けることができるか

そしてこの3つの仮説の中で、シードフェーズであればあるほど、①の重要性が高くなると考えています。

なぜなら、課題欲求の大きさや深さ、及び、課題欲求を抱えている顧客の多さが、事業の成長スピードや市場の規模を大きく左右するからです。また、②や③は実際に事業を進めていく中で仮説が変化していくことがとても多いので、①を外さないようすることが重要となります。

ということで、シードVCが起業家とのディスカッションに掛ける時間としては①が最も大きくなるべきで、このポストでは①にフォーカスして進めて行きたいと思います。


2. 解決を目指すべき「顧客」の課題欲求

忙しい起業家の時間を少しでも有意義なものとするために、キャピタリストとしては短い時間で顧客の課題欲求についてスピーディ、且つ、深く正確に理解をすることができるかが腕の見せ所の一つとなります。日々の生活の中で様々な事象にユーザー目線でのアンテナを感度高く張っているかが問われるところでもあります。

しかし、これは簡単ではありません。打合せ前にピッチ資料を共有してもらって予習するときや、実際にピッチを聴いているときには、起業家がインサイトとして発見している顧客の課題欲求を理解することに、かなりの脳みそを絞っています。とくに、自分自身がターゲットユーザーにならない事業の場合はこの難易度はさらに増します。

向き合う課題欲求の設定は結構厄介です。例えば、「地球温暖化」や「少子高齢化」、「米中貿易摩擦」といった、人類や国家のレベルで戦っている超マクロな課題をサービスソリューションの対象に設定してしまうと、その課題を直接解決するための事業難易度は、リソースが限定的なスタートアップにとって極めて高くなってしまいます

また、「多重取引構造」や「マニュアル作業による取引慣行」といった業界構造や商習慣についても、それによって顧客が具体的な弊害を感じていなければ、解決対象とすることの難易度は高くなります

マクロな社会の動きはとても重要ですが、スタートアップが最初に解決すべき課題は、もっとミクロなところにあります。目の前にいる家族や友人、取引先、あるいは自分自身や自社が、まさに今、抱えている課題です。

この課題欲求が売れる製品やサービスの起点になっていきますが、マクロとミクロが倒錯してしまうこともあるので、気を付けないといけません。シードVCのキャピタリストが向き合うべきは、既存のサービスでは未解決の「顧客」の課題欲求を発見できているか、その「顧客」の課題欲求は本当に巨大なものであるのか、という仮説です。

起業家はこの「顧客」の課題欲求に関する仮説をいかにキャピタリストに理解をさせ、また、キャピタリストはそれをいかに早く正確に理解できるか。このコミュニケーションがスムーズに進むと、双方にとって、ピッチの時間は有意義なものとなり、スピーディな意思決定に繋がると考えています。


3. 具体的な課題欲求のパターン

「顧客」の抱える具体的な課題欲求の仮説が重要と、再三、繰り返してきました。

この「顧客」の課題には色々なケースがありますが、以下の三種類のパターンのいずれか、若しくはこれらの組合せで説明できるように最近は考えています。

① 商品や仕事のQCD(Quality、Cost、Delivery)に関するもの:
「品質や鮮度が悪い」「値段が高い」「納品に時間が掛かる」「適切な商品や事業パートナーが適時に見つからない」「発注のロット数が合わない」「支払いに係る資金負担が重い」など

② 個人や社内のオペレーションに関するもの:
「オペレーションのコストが高い/ミスが多い」「最適な意思決定に時間が掛かる」「情報探索コストが高止まりしている」「機能や情報を統合管理できていない」「高度なスキルやノウハウが共有できていない」など

③ 感情に関するもの:
「楽しくない」「誠実ではない」「気持ちよくない」「嬉しくない」「かっこよくない」「可愛くない」「イケてない」「めんどくさい」「汚い」「臭い」「痛い」「不安」「疲れる」「報われない」など

上記のような、普段の生活や業務の中でなんとなくでも感じている課題欲求が、大きな新事業創出のヒントになってくると考えています。

こういった目の前の「顧客」に具体的な課題欲求が存在しており、それが巨大なものであるという仮説について、キャピタリスト自身が能動的に向き合い、得心がいかない限りは、それ以外の内容のディスカッションをしたところで起業家のエネルギーも無駄にしてしまうと改めて感じています。


4. まとめ

この流れで「まとめ」ときて、「あれ?シードVCは起業家や経営チームの熱量の高さを見て投資の意思決定をしているのではないの?」「水谷やジェネシアは起業家のことを全く見ていないのか」と感じる方もいると思います。

それに対する答えはもちろん「否」なわけで、ピッチやQ&Aの過程の中で、起業家や経営チームの事業やビジョンの実現への熱量を感じ取りながら、思考を巡らせています。しかしより重要なことは、起業家からピッチを聴いた自分自身の熱量が高まるかどうかと考えています。

もう一度繰り返しますが、シードVCが起業家からピッチを聴いているときに考えるべきことは、起業家の熱量を推し量るといった姿勢ではなく、起業家のチャレンジに自分自身の心が躍っているかどうかです。キャピタリストとしての自責性の自覚は、意思決定において極めて重要な要素と思います。

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助太刀我妻さんからtwitterにて貴重なコメントと熱い画像を頂きました) 


「まとめ」という章なのに、それまでの章の内容を全然まとめることができておらず恐縮ですが、シードVCのキャピタリストが起業家からのピッチを聴いているときに考えるべきことについて、ポイントをまとめてみました。

個人的なメモ書きに近い内容ではありますが、起業家のピッチの時間を少しでも有意義なものとして、シード期のスタートアップによる資金調達の成功確率向上に繋がると嬉しく思います。

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