信義則

民法は、ありとあらゆる「私法」(個人対個人の法的対立の場合の法基準を指します)の大原則です。
その中で、次のような定めがあります。

【第1条】
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2.権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。

e-Gov:民法

要は、「お互いに相手方の信頼を裏切らないような行動をしよう」ということです。

例えば、「note上でわいせつな文書・画像を公表する」「誹謗中傷を正当化する」なんていうのは、正に「公共の福祉」に反する行為ですね。
これでnote社に削除されたとしても(note社と個人の利用規約は、最終的には民法上の不法行為問題に帰着します)、note社としては「公共の福祉に適合していないので、貴殿の行為は利用規約違反とみなし、今後弊社のサービス利用権限を認めません」との言い分が通ります。

もっとも、どのような行為が「信頼を裏切る行為」に当たるのかは曖昧であるため、実際の民法の授業では、以下の原則を徹底的に叩き込まれます。


クリーンハンズの原則


これは、私も何度か取り上げています。法律違反や社会的道徳に反した行動に基づく権利は、行使できないという考え方です。
たとえば、夫Aが自身の不貞行為が原因で家庭崩壊に至って、妻Bから離婚を申し渡されたとしましょう。この際に、Aと不貞関係にあったCは、「精神的損害」を受けたとして、妻Bに「慰謝料を請求した」とします。
ここでCがAが既婚者だったことを知っているならば、当然この理論は成り立ちません。Cの立ち位置は、夫Aと「共同不法行為者」という立場に当たるからです。
たまに、この手のアホな請求を思いつく人がいるようですが……。最終的に裁判に持ち込まれると、さまざまな矛盾が浮上してくるので、結構この手の「都合のいい嘘」は露呈するものです。

禁反言の原則


これは、自分の言動と矛盾した言動をしてはならないという考え方です。

よく挙げられるのは、「時効消滅後」に債務を受け入れておきながら、その後になって時効援用を主張する例でしょうか。
たとえば、2023年に父親の事業をそっくり受け継いだ甲という経営者がいたとしましょう。ここで注意したいのは、相続の場合、「単純相続」をしてしまうと「借金」などの負の遺産もくっついてくるということです。

甲は父(乙)の債権者、丙に「2000年に亡父が借りた借金を返す」という約束を書面でしてしまったとします。
23年も前のことで、その間、丙は一度も催促をしてこなかったこともあり、時効(一般債権は10年で消滅)はとうに成立してしまっています。ですがこの場合、甲には丙への返済義務が生じます。
不可解でしょうが、これが法律の世界。矛盾した言動は、許されません。

事情変更の原則

契約締結当時に予想できなかった事情が生じ、契約の遂行が困難になった場合に、契約内容の変更や解除ができるという考え方です。

今回問題になっている芦原先生の件ですが……。
これは、脚本に違和感を感じた時点で、小学館側から「契約解除」を申し出て良かった案件ではないか?というのが、私の見解です。
もちろんその場合も、小学館・日テレ双方に大きなしこりは残ったでしょう。ですが、人の命が失われるような事態は避けられたのではないでしょうか。
途方もない単位のお金が動いているのは確かなのでしょうが、「死人に口なし」を地で行くような対応には、怒りしか覚えません。
そして長期的な目で見れば、確実に日テレのイメージダウンに繋がった出来事でした。
リスクテイクという視点からすれば、もっと早い時点で「契約解除」に踏み切っていれば、双方の傷が浅くて済んだのかもしれません。

別の視点から、例えば「著作権法28条違反」を理由として、小学館側から日テレ側に契約解除を迫る方法もあったと思うのです。

(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
第二十八条
 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

e-Gov:著作権法

アーカイブとして残された芦原先生先生のブログからは、最終的に日テレのチーフ・プロデューサーから「一度そのまま書くように」との指示も出ていたようだ……とありました。
この言葉が正しければ、脚本家は、日テレのチーフ・プロデューサーの意向すら無視して、強引に事を進めようとしていたことになります。
できることならばネット・メディア上ではなく、裁判の場において、この事件の真実を明らかにしてほしいと思います。ネットやメディアはいつか情報が埋没してしまいますが、裁判として取り上げられれば、確実に「判例」として記録に残ります。そうすれば、万が一、このような事件が起きたときの対処法・予防法の指標になりますから。

悪気があった・なしの問題ではない


このような問題を取り上げると、必ずと言っていいほど、加害者サイドから「悪気はなかった」という言い訳論が浮上します。
ですが、「悪気はなかった」という言い訳が通用するならば、どんな過失も許されてしまうことになってしまう。

私がぱっと思いついたのは、以下のような事例。

• 交通死亡事故→「轢くつもりはなかった」
• 工場などの現場で整備不良による労災→「決められた手順が面倒で手を抜いただけで、これほど大事になることは思わなかった」
• ネット上での犯罪自慢→「店の評判を落とすことになるとは思わなかった」

どれも、被害者側からすれば「ふざけんなよ」という、怒りしか湧かない事例だと思います。時々、お涙頂戴的な「感情論」を悪用する人すら出てくるのですから、たちが悪い。
このような場合に加害者にできることは、「ひたすら誠意を持って謝罪」することくらいではないでしょうか。
刑事裁判などになれば、被害者の感情を逆撫でするような言い訳を重ねれば、裁判官の心象を悪くするだけです。また、言い訳を重ねていくほど「加害者サイドの事情の理解を得る」ことは、ほぼ難しくなっていく……というのが、私が各種判例を読んでいて感じることです。

noteの規約

最後に、noteで「以下に該当するデジタルコンテンツの掲載、メンバーシップにおける投稿その他本サービスにおける情報の送信は禁止します」と列挙されているものを、転載します。もちろん、これらは民法を始め、諸々の法令の諸原則に基づいて定められたものです。

これらの「どこまでが規約違反になるのか」という最終判断権は、note社にあります。それが嫌ならば、「noteの利用をやめろ」と言うこと。
余談ですが、MHL(Money・Health・Low)の内容についても、note社では「これらの情報を扱う時は専門知識が必要になる。十分注意を」との呼びかけを行っているようです。

私の場合、Lowを良く取り上げていますが、一応これでもそれなりの専門知識を持っているから書けるわけです。事実、法律論系の投稿について、note社から警告が来たことはないですしね。
逆に、知識ゼロである医療系の記事は、本業でも書いたことがありません。
→担当させられそうになって、最終的に契約解除まで決断しました。
万が一自分の文章が発端となって死傷者が出たら、怖いですし。

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• 上記のほか、他者の財産権、商標権等の知的財産権、肖像権、名誉・プライバシー等を侵害するもの。
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• 「必ずもうかる」等、ユーザーに著しい誤解を招く表現を用いたもの。
• コンピュータウィルスその他有害なコンピューター・プログラムを含むもの。
• オンラインゲーム等のアカウント、キャラクター、アイテム、通貨および仮想通貨などを譲渡しようとするもの。
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• 特定の個人、特定のグループまたは組織になりすますもの。
• マルチ商法等当社がユーザーに対して不利益をもたらすものであると判断する情報商材の宣伝に直接もしくは間接的に利用するもの。
• 未成年者を犯罪行為またはそのおそれのある行為に勧誘するもの。
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• 公序良俗に反するもの。
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